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明日まであと5分

花村陽介お誕生日企画「ジュネスより愛を込めて」に投稿させていただきました、陽介BD小説です。主催の時雨わさ様、素敵な企画をどうもありがとうございました!おつかれさまでした!
企画終了につきサイトで通常公開いたします。

*大学生主花、同棲設定です。ご注意くださいませ。

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「――え」
受話器の向こうから聞こえてきた孝介の言葉に、陽介は思わず批難めいた声を出しそうになった。
『ごめん。ちょっとトラブルがあって、今日は帰れないかもしれない。せっかくのお前の誕生日なのに』
孝介はあまり抑揚のない話し方をするため感情が汲み取りづらいと言われるが、彼が心底申し訳なく思っているのが長く共にいる陽介にはよく分かった。慌てて声のトーンを上げて彼は応える。
「や、いいってホント!元々、今日は無理って言ってたんだし。つーかハタチ過ぎた男が自分の誕生日ではしゃぐとかないから!慌てなくていいからさ、やること済ましてから帰ってこいよ」
『うん…本当に、ごめん』
遠くで孝介を呼ぶ声がする。電話口から伝わってくるる喧噪の気配に陽介は心配になったが、案じる言葉を伝える前に通話は切れた。
はぁ、と大きな溜息を吐いて陽介はテーブルの上を見やる。
ダイニングテーブルの上に並べられた、まだ湯気を立てているいつもより豪華な料理。奮発して買ってきたシャンパンと、お気に入りのパティスリーのケーキ。二人分の皿、二人分のグラス、二人分の席。けれども彼は帰ってこない。
「………どーすんだよ、コレ」
陽介ははぁ、と大きな溜息を吐き、付けていた完二お手製のフリルエプロンを投げ捨てた。


16歳の春に出会い、17歳の春に一度離れた二人は、次の春から共に暮らし始めた。通う大学が違うため互いの交友範囲が重なることは少ないが、家に帰ればすぐ手の届く距離に相手がいる。高校三年生の時に苦しい遠距離恋愛をしていた二人にとっては、触れ合える距離が何よりも嬉しかった。
互いに遠慮がないためぶつかることもあるが、ルームシェアという名目の付いた同棲は上手くいっている。孝介は主に炊事、陽介は洗濯と掃除。とはいえ、元々の器用さの問題もあるのか、家事のウェイトは孝介の方が重い。けれども彼は全く文句を言わないどころか、喜々として主夫業をこなしている。孝介とは対等でいたい陽介は、彼のように素早く美味しい料理を作ったり、ぴしりとアイロンをかけることができないことをいつも申し訳なく思っていた。
淡白に見える外見とは裏腹に、孝介はお祭り騒ぎが大好きだ。毎年、陽介の誕生日は食べ切れないほどのご馳走とサプライズを用意してくれていたが、今年は彼にどうしても断れない用事が入ってしまった。気に入られている教授の講演会のお供を仰せつかったのだという。場所が遠方らしく前日から泊まりの日程になり、隠そうともせず不機嫌な顔をする彼の背中を笑って押したのは自分だ。
予定では、孝介は今日の夜に帰ってくるはずだった。誕生祝いは改めて週末に、と約束してはいたが、疲れている彼のために、また、日頃の感謝の意味も込めて、陽介は料理を作って待っていたのだ。自分の誕生日いに自分でケーキとシャンパンを買ってくるのは少し空しかったが、そういう気分になってしまったのだから仕方がない。料理はアルバイト先のイタリア料理店のオーナーに頼んで、少し手を加えれば食べられるものを分けてもらった。孝介には及ばないが、陽介とて簡単な調理くらいはできる。目に鮮やかなルッコラとチーズのサラダ、前菜数種とやわらかなローストビーフ、玉ねぎとバジルのソースがたっぷりかかった白身魚のソテー、フライパンの中でパスタが投入されるのを待っているシーフードのオーロラソース――並んだ皿は自分ではなく孝介の好物ばかりで、美味しそうな匂いと湯気が次第に失われてゆく様は見ていて悲しくなる。陽介はダイニングの椅子に腰を下ろすと、テーブルの上に突っ伏した。
(セルフプロデュース誕生日会、そして失敗…ダメだ俺、痛すぎる)
もう丸一日以上孝介に会っていない。離れていた一年の間では当たり前のことだったのに、一緒に住み始めてからはたった一日でも孝介が足りなくて寂しくなってしまう。昨日から今日に日付が変わった瞬間に掛ってきた電話でおめでとうの言葉を貰ったけれど、やはり向かい合って、彼の穏やかな銀灰の瞳に見つめられながら言われたかった。欲張りな自分に陽介はらしくない自嘲の笑みを浮かべる。
「仕方ねー、けどさ。アイツ、忙しいし」
自分を納得させるように、ことさら大きな声を出して言ったが、空しさが増すだけだった。孝介が悪い訳ではないし、食事を用意して待っていることを伝えてあった訳でもない。けれども、帰ってきた孝介が驚きに目を見開き、次いで嬉しそうに顔を綻ばせる瞬間や、美味しいね、と二人で笑い合い、甘いケーキをつつきながら過ごす甘い時間を想像して頭をいっぱいにしていた自分が馬鹿みたいで、やるせなくなってしまう。この蟠りをどう昇華していいのか分からず、陽介は唸った。
(なんで俺、こんなにイラついてんの)
胸がむかむかする。何もかもが気に食わない。今まで数えきれないほど、特に幼い頃に何度も味わったこの感覚は、物事が自分の思う通りに運ばなかった時に湧き上がってくるものだ。それがどんなに理不尽だと理性では分かっていたとしても、叶って欲しいと思わない願いなんてない。想いが重い自覚のある陽介は、孝介を煩わせないよう必死に自分を律しているのに、彼は寧ろ我儘を引きずり出して叶えようとしてくれる。彼の優しさに甘えていた自分はすっかり堪え性がなくなってしまったようで、今も孝介に非はないと分かってはいるのに怒りの矛先が彼に向き始めてしまった。
「………孝介の、ばかやろー」
力なく呟いた陽介の腹が、くぅ、と情けない音を立てる。時計の針はもう20時を回っていた。支度に掛かりきりで昼から何も口にしていなかった陽介は、恨めしそうに目の前の料理を見やる。地元では評判のイタリアンレストランの味だ、美味しくない訳はない。彼は体を起こすと、まるで親の敵を見るような座った目で料理の皿を引き寄せた。
(ちくしょう、こうなりゃヤケ食いだ!)
触れた皿はもう冷たくなっていた。ナイフとフォークを掴んで、さっくりとした魚の衣に刃を入れる。たっぷりとバジルソースを絡めて口に運べば、淡白な白身魚と食欲を掻き立てるガーリックの味が広がった。美味しい。
特製ドレッシングのかかったサラダを、取り皿に取り分けることもなくフォークに突き刺し口に運ぶ。上にかかったチーズは近所のスーパーでは売っていないような珍しいもので、少しくせがあるがルッコラとの相性は抜群だった。やはり美味い。
冷やしてあったシャンパンを冷蔵庫から取り出し、グラスに開けて一息に呷る。思ったよりも強い炭酸に噎せそうになったが、心の苦さと共に飲み下した。爽やかで甘い果実の香りは、今の自分には全く似合わない。浮かれながらシャンパンを選んでいた数時間前の自分が滑稽すぎて、陽介は苛立ち紛れにおかわりを注ぎ、飲み干した。酒が飲める年齢になってからそう経っていないというのもあるが、恐らく体質的にあまり強くないのだろう。すぐに体が熱くなり、頭がふわふわとしてくる。
「あーあ、アイツ、ホント馬鹿だよな。こんなに美味いもん、食べ逃すだなんて」
へらへらと笑う声に応えはない。陽介はただひたすらに食べ、飲む。自分の分の皿は空になったが、孝介の分は手つかずのままだ。パスタも手つかずだが、胸がいっぱいでこれ以上は食べられない。残しておけば彼は全てを汲み取って何も言わず食べるだろうが、益々自分が惨めになる気がして陽介は捨てることに決めた。
(帰ってこなかった孝介に、食わせるモンなんてない!)
陽介は勢いのまま、綺麗に盛り付けがされた皿を掴み――ゴミ箱の上でひっくり返そうとして、手を止めた。手間も暇も金もかけて作られたのに、見向きもされず捨てられる料理。勿体ない、と思ったのは事実だが、その哀れさが今の自分と重なる。
(がんばっても、捨てられちゃうんだ)
喜ばせたかった、それだけなのだ。誕生日なんてどうだってもいい、ただ彼に笑ってほしかったのだ。けれども神様はこんな些細な自分の願いすら叶えてはくれない。自分もこの料理のように、見向きもされず捨てられる日がくるのだろうか。陽介は悲しくなってとぼとぼとダイニングに戻ると、棚から大きめの弁当箱を取り出して孝介の分の料理を詰めた。冷蔵庫に入れておくと孝介に見つかるため、ビールを買った時におまけでついてきた保冷パックに保冷剤を入れ、自分の部屋に放り込む。明日は豪華な昼食になりそうだ。
パスタソースは冷えていたこともあり、ラップに包んで他の物の影になるうよう冷凍庫の片隅に突っ込んでおいた。彼がアルバイトでいない時にこっそりと解凍して食べればいいのだ。貧乏性すぎる自分に陽介は苦笑した。
残った皿をふらふらと覚束ない足取りでシンクに運び、長い長い時間をかけて洗う。6月の水は温まっているはずなのに、何故か妙に冷たかった。タオルで適当に拭き、使ったことがばれないように元の位置にしまう。使わなかったグラスも一緒に戻した。後始末を終えた陽介は、半分ほどに減ったシャンパンのボトルをひっつかんでリビングへと向かう。
「孝介の、ばかやろー!!!」
ダイニングテーブルの上に置きっぱなしの携帯電話から、彼専用の着信音が鳴る。腹癒せに無視を決め込んで陽介はひたすらグラスを呷った。




**********




そろそろ日付が変わろうとしている夜の街を、孝介は息を乱してひた走っていた。
駅の近くは明かりがあるが、自分達の住むマンションのある閑静な住宅地は人通りもなく静まり帰っている。すれ違う人がいないことに孝介は内心感謝した。自分は今、幼子なら泣き出すくらいの必死の形相をしていることだろう。陽介に関することだと途端に余裕を失う自分に孝介は内心で苦笑する。
(絶対、へこんでるな)
その証拠に電話にすら出てくれない。愛しい人の思考はいささか単純で、手に取るように推測できる。そこがまたいとおしいのだが。相手を気遣って色々なことを飲み込む陽介は、独りきりで寂しく食事を済ませたのだろう。不可抗力とはいえ、大切な人が生まれた、一年に一度しかない日にそうさせたのは自分だ。孝介は自己嫌悪に歯噛んだ。一分一秒でも早く帰って、あの細い体を抱き締めたい。電話だけでは足りない、直接、彼が生まれてきて、共に居てくれることへの感謝を伝えたい。
やがてマンションに辿り着き、孝介は足音を殺して階段を駆け上る。はやる気持ちを抑えて鍵を差し込み、そっとドアを開けば、漂ってきたのは甘いアルコールの匂いだった。
「…?陽介?」
電気を点けっぱなしにしたリビングでは、陽介がソファの上で丸くなっていた。床には倒れたシャンパンの瓶。匂いの元はこれだ。孝介はひとまず荷物を置くと、倒れた瓶をローテーブルの上に置き、適当なタオルで床を拭う。その間も陽介はすぅすぅと寝息を立てており、一向に目覚める気配はない。
「陽介」
軽く肩を揺すってみても、彼は起きない。険しかった眉間の皺が更に深くなる。眦に、頬にうっすらと涙の後を見つけ、孝介の胸はつきりと痛んだ。起こすのは忍びないと思いつつも、彼は陽介を揺り起こす。
「陽介、起きて、陽介」
「……ん、う……」
長い睫毛が震え、露わになったヘーゼルの瞳は寝起きであることとアルコールのせいでとろんとしていた。誘われるように唇にキスを落とそうとした孝介だが、予想外に伸びてきた陽介の手に阻まれる。拒絶は固かった。
「ごめん、遅くなった」
「…何でいるの、お前。今日、帰れないんじゃなかったのかよ」
擦れた彼の声は明らかに不機嫌だった。年に数度あるかないかというくらいの機嫌の悪さだ。動揺しつつも孝介は努めていつも通りに言葉を返す。
「抜けてきた。お前の誕生日だっていうのに、あんな所で掴まっていられるか」
陽介はふい、と顔を反らして呟く。
「別にいーよ。今更誕生日くらいで騒いだりしないっつーの。…おつかれさん。俺、もう寝るから。お前も疲れただろ、早く寝ろよ」
のろのろと置き上がる陽介の瞳には、明らかな拒絶の色があった。孝介は反射的にその細い手首を掴んで引き留める。
「なに」
「陽介。どうしてそんなに拗ねてるの」
陽介はアルコールと、それだけではなく頬を赤く染め、きつく孝介を睨む。
「拗ねてない!お前には関係ない!放せよッ」
彼は振り解こうと体を捩るが、酒のせいで力が入らないのか抵抗は弱かった。元より陽介と孝介では体の造りが違う。孝介は暴れる体をソファに押し倒し、自らの手足を使って縫い止めた。
「――言ってよ。オレを責めてよ。どうしてそうやってなんでも自分の中に溜めこんで自己解決しようとするんだよ。オレはお前の言うことならなんだって聞いてやりたいのに」
「…できもしないこと、言うなよ」
陽介は苦しそうに顔を歪める。少し呂律が回っていないのは酔っているからなのだろう。抵抗を封じたままキスをすると、彼の唇からはシャンパンの味がした。しばらく無言で見つめ合い、根負けした陽介が先に視線を外す。彼は本当に小さな声で囁いた。
「お前のせいじゃ、ない。お前は何も、悪くない。俺の、わがままだから」
だから気にするな、と付け加え、陽介は孝介の体の下から抜け出した。止める間もなく彼はおやすみの挨拶を残して自分の部屋へと入ってしまう。残された孝介はもやもやとしたものを感じながらも、ひとまずは着替えることにした。

手を洗い、部屋着に着替えてから、喉の渇きを潤すために冷蔵庫を開ける。ふと見慣れないものを見つけて手に取れば、買った覚えのない生パスタが二人分。小首を傾げて台所を見回すと、調理器具の位置が微妙にずれていた。陽介も料理を全くしない訳ではないのだが、不思議に思って隅々まで観察すると、色々なものを使った形跡がある。
水分をよく拭わないまま仕舞われたいくつもの皿。普段の陽介ならばまず使わない種類と数だ。パスタがあるのにパスタソースがないことに気付き冷凍庫を漁ると、冷凍した白米の影からオーロラソースが出てきた。自分が作った覚えがないということは、陽介が準備したものに違いない。彼のアルバイト先の一つにイタリアンレストランがあったことを思い出し、孝介の中で全てが繋がる。慌ててもう一度冷蔵庫を開ければ、最奥に押し込むようにしてあった、自分がお気に入りのパティスリーのケーキの箱。中からは手つかずのケーキが二つ出てきた。
「……」
ケーキを戻し、孝介は陽介の部屋へと向かう。鍵はかかっていなかった。荒々しくドアを開くと、まだ寝付けていなかったらしい部屋の主が吃驚した顔で体を起こす。そのすべらかな頬に涙の後を見つけ、孝介は苛立ちに近いもどかしさが腹からせり上がってくるのを感じた。
「な、何だよ」
きっと今自分は凄まじい顔をしているのだろう。怯えたように見上げてくる陽介に、孝介は無言で歩み寄る。かつり、とつま先に何かが当たり、見れば何故かそこには保冷バックが転がっていた。
「!ちょ、ダメ!出てけ今すぐに!!」
陽介の制止を無視して孝介はバックを持ち上げる。中から出てきたのは大きめの弁当箱と保冷剤で、蓋を開ければ美味しそうな料理がぎゅうぎゅうに詰められていた。色鮮やかなルッコラのサラダに、白身魚のソテー。凝った前菜とローストビーフ。自分の好物ばかりだ。
「…自分の誕生日なのに、オレを喜ばせてどうするんだよ…!」
孝介は自分の声がみっともなく震えるのを抑えることができなかった。どうしてこの恋人は、他人のことばかりで自分のことを後回しにするのだろう。彼の我儘なんて本当に些細なことばかりなのに、それすら強欲だと陽介は言葉を飲み込む。言ってくれない陽介と、彼に我慢をさせている自分自身にどうしようもなく腹が立って、孝介は盛大な溜息を吐いた。暗闇の中でも分かるほど、陽介の顔が泣きそうに歪む。
孝介は机の上に弁当箱を置くと、問答無用で陽介を押し倒し、荒ぶる感情のままキスをした。抵抗も拒絶も意に介さず、ただひたすらに陽介を求め、追い詰めていく。狂おしいほどの愛おしさでこのまま陽介を食い殺してしまいそうだ。飲み込みきれない唾液が溢れ、陽介が指を動かすこともできなくなるまで散々に口内を貪った後、孝介はようやく顔を離す。ぽろぽろと零れる涙をどこまでも優しく指で拭い、孝介は再度言った。
「言ってよ、陽介」
陽介は子供のようにいやいやと首を振る。
「や、だ。あっち、行ってくれ」
「駄目だ。オレは陽介から離れない。嫌がられてもうざがられても傍にいるって言っただろう」
「っ、なら!なんで!!」
口にした後、陽介はしまったとばかりに目を見開く無言の圧力で先を促され、陽介はしぶしぶと口を開いた。
「……お前に、喜んで欲しかったんだ」
「うん」
「いつも美味いもん食わせてもらってるから。誕生日なんて、ホントどうでもよかったんだよ」
「うん。…ごめん。埋め合わせ、する。何だってするから」
陽介は顔をぐしゃぐしゃにして言葉を押し出す。
「いいって、もう!俺はあの時に、お前と一緒に食べたかったの!もう無理だろ!…っつーか、俺、マジ格好悪い…こんなことで拗ねて、ガキみてぇ」
陽介は孝介の視線から隠れるように、必死に顔をシーツに埋める。孝介は至極真面目な顔で呟いた。
「オレは、嬉しいよ。お前はもっと我儘になっていい」
「…俺、超ワガママ言ってるけど」
ぐすり、と鼻を啜る陽介のやわらかな髪を梳きながら孝介は苦笑する。
「お前の我儘なんて、精々豆腐がイヤだとかそんなレベルだろうが。…ごめんね、陽介。あの弁当箱の中身とケーキ、明日一緒に食べよう。週末は今日祝えなかった分、盛大にやろうな」
「だからもういいって…」
今更ながら、子供染みた、どうしようもないことで腹を立てたことが恥ずかしくなり、陽介は消え入りそうな声を出す。ちゅ、とその形のよい額にキスを落とし、孝介はあまい声で囁いた。

「誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう。これからもずっとずっと、一緒にいてくれ」

時計を見れば明日まであと5分だった。「ぎりぎり間に合ったな」と笑う恋人に、陽介は赤い顔のままこくり、と頷く。
「こっちこそ、これからもよろしく」
「ん」
顔が近付く。先程までとは違うあまやかなキスは苛立ちも溝も埋めてゆくようで、陽介はささくれ立った心が凪いでゆくのを感じていた。
(ああ、やっぱ、好きだ)
孝介の言動一つで一喜一憂してしまう。こんなにも自分を掻き乱すのは彼だけだ。そんな相手と出会い、想いが通じたことを幸せ以外の何と表せばいいのだろう。
孝介はたっぷりと陽介の唇を堪能した後、先程までの殊勝はどこに行ったのかと疑いたくなるような強気の笑顔を浮かべる。
「陽介。オレを喜ばせたいって、思ってくれたんだよね」
彼がこの笑顔を浮かべる時はろくなことがない。嫌な予感がして陽介は必死に首を横に振るが、孝介はうっとりするほど綺麗な笑みを唇に乗せ、言い放った。
「オレが喜ぶこと、知ってるよね?オレも陽介のこと、悦ばせたいなぁ…ね?」
明らかな色欲を秘めた手に脇腹をなぞられ、陽介は体を跳ねさせる。敏感な反応に孝介は益々笑みを深くした。
「お詫びも込めて、たっぷりと愛してあげるから」
悲鳴はキスに飲み込まれる。無茶苦茶に揺さぶられながらも、繋いだ手が離されることはない。目も眩むほどの快楽と幸福の中で、陽介の意識はゆっくりと落ちていった。




END
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陽介がだいすきです。本当にいい子で、この子がいなかったらぺよんをここまで好きにはならなかったかもしれません。
苦労性な子なので、たまには思いっきり甘やかしてあげたいです。私の頭の中ではそれはセンセイの役目ですが(笑
陽介お誕生日おめでとう!!!

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