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「最後から二番目の真実」サンプル③

サンプルその3です。このシーンが書きたいがためにこの話を書いたようなものです~

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 ――寒い。
 寒さを感じてるってことは、俺、生きてるんだよな。でも何でだろう、声も出ないし目も開けられない、耳も妙に遠い。沢山の気配、人の声がするけど、誰が何を言っているのか分からない。とにかく寒かった。
(さみぃ、なぁ)
 あったかい場所に行って、あったかいもんが飲みたい。この間、月森ん家に遊びに行った時にあいつが作ってくれた、牛乳が多めのあんまり甘くないココアとか。あとは泊まらせてもらった日の晩飯だったトマト入りのポトフも。ソーセージと野菜まるごと煮込んだだけなのに、寒い夜に食うとすげー美味いんだよな。味付けはブイヨンと塩コショウだけだって言ってたし、俺でも作れそうだけど、きっとあんなに美味くはできないんだろうな。
 美味い美味いって連呼したら、あいつ、すっげー嬉しそうな顔してたっけ。自慢のお兄ちゃんが褒められて、横で菜々子ちゃんもにこにこしてた。思い出すだけで俺の心もぽかぽかしてくる。幸せな夜を思い出して俺は自然と微笑もうとした、けど、顔の筋肉は錆び付いてしまったかのように動かない。っていうか体が全然動かない。
 「…ら、花村!」
 あれ、今のは相棒の声?にしては随分と必死だ。珍しい。もう一度名前を呼ばれ、体がちょっとだけあっかくなった。少し湿った人の温もり。手だろうか。

 「――花村!!」

 ふわり、と風に乗って体、というよりも心が持ち上がった感覚。俺の目にはぼんやりと、泣きそうに顔を歪めた月森の顔が映っていた。それでもイケメンだ。イケメンは特だな。
 視界には白い天井と、クマの金色の頭や、里中の栗色の頭の端っこが見える。この分だと特捜メンバ全員いるんだろう。っていうか何、皆どうしてそんな辛そうな顔してこっち見てんの。俺、大丈夫だから、んなに心配するなって。そう言ってやりたいのに、できなかった。息をひとつ吸って、吐く度に、俺の中から何かが抜けていくのが分かる。多分、命なんだろう。俺は唐突に理解した。多分、これが最期なんだと。
(ああ、そうか)
俺は走馬燈というものが本当にあるのを今知った。物心付いた頃から今までの出来事、特に二回繰り返す羽目になった高校二年生のことがやけに鮮明に浮かんでは消える。里中、天城、完二、りせ、直斗、クマ――月森、いや、孝介。仲間の存在と、皆と一緒に過ごした季節は、俺にとって何より尊いものだ。そして皆が大事にしているものも、俺にとっては大切だ。俺は残された力を振り絞って喉を震わせる。聞こえるか分かんねぇけど、ちゃんと拾ってくれよ、相棒。
「…なな、こ、ちゃ、んは」
 月森は俺の手を両手で包み込み、幾度も頷いて見せる。
「無事だよ。少し衰弱してるだけで、明日にも退院できる。花村のおかげだ」
よかった。これで一年前みたいに菜々子ちゃんまで死にかけたら、俺、お前に合わせる顔がなかったよ。
 散々引っ掻き回しちまったけど、大丈夫かな。俺がいなくても、足立をぶっ倒して、カミサマに勝てるかな。平気だよな。だってお前強いし、皆もいるし。俺がいなくたって、きっと大丈夫。ただ、俺が、お前の横にいられないのが寂しいだけ。もう寂しさも感じなくなるのかもしれないけど。
「つき、もり」
「喋るな、頼むから…っ!」
 懇願されても、悪いけど言うことは聞けない。これだけは言っておかなきゃ。だってお前、前は俺が言わなきゃ自分がやるつもりだったって言ってただろ。お前にあんなこと言わせたくないし、絶対に間違って欲しくないから。
「まちがえ、る、なよ、相棒。生田目じゃない、その、ウラ、あいつ、でさえも、利用、され、て、る」
ちくしょう、もう声が出ねぇ。頼む、最後まで言わせてくれ、カミサマ。
「お前、なら、たど、つ、ける、はず、だ。真実、に」
何とか言い終えると同時に、急速に意識が遠退いてゆく。目の前は染みひとつない雪原みたいに真っ白で、もうお前の顔も見えないんだ。なぁ、手、握ってくれてるのか?すげー寒いんだ、もうちょっと強くしてくれよ。
「!だめだ、花村!!俺、お前に言いたいこと、まだ沢山あるんだ…ッ」
 悪い、もう聞こえない。でもお前が泣きそうなのは分かるよ。 ごめんな、お前を残して逝く不甲斐ない相棒で。だけど、どうしても守りたかったんだ。無駄だったかも、意味がなかったかもしれないけど、それでも悲鳴に耳を塞いで、見なかったことになんかできなかったんだ。奇跡はそう何度も起こらないって知ってるから。
 一回目も、二回目も、お前と一緒にいられて、特別にしてもらって、幸せだったよ。ありがとう。俺、神でもないのにカミサマのふりをして歴史を変えようとした悪い奴だから、天国にはいけないと思うけど、間違っても三月にしくじってこっち来たりすんなよな。追い返すからな。
 世界が遠ざかってゆく。そこにあるのは終焉の白だけ。俺は最期の力で唇に言葉を載せた。

 「こう、すけ」

 

 また、あいしてるって、言えなかった。

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