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「有界Cに至る命題」サンプル

サイトで連載している陽介後天女体化ものの続編です。
冒頭部、文化祭。水着+保健室えちーとかどんだけマニアック自分。

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 天高く、空は澄み渡った秋晴れ。絶好の行楽日和となったある秋の日、稲羽市では八十神高校の文化祭が催されていた。
 過疎化の波に飲まれかけ、いつもは閑散としている校内も今日ばかりは人で溢れている。特に体育館は常にないほど人口密度が高い。アリーナは人でごった返し、集まった人々はミス八高コンテストの開始を今か今かと待っていた。祭りの空気に誰もが浮足立つ中、しかしある一角だけは空気がやけに重々しい。
「つ、月森センパイ」
「…何だ、完二」
呼びかければ返事はする。話を振れば受け答えする。けれども彼が発する空気は明らかに不機嫌そのものだった。整った眉は顰められ、時折漏れる吐息には苛立ちが混ざっている。発する空気は張り詰め、ぴんと伸びた背筋からは威圧感すら感じた。滅多に負の感情を表に出さない孝介の珍しい様子に、周りの者は好奇の目をちらちらと向けてくるが、意志の弱い者なら腰が抜けてしまいそうなほど鋭い眼光で一瞥され、慌てて目を逸らしている。テレビの中でシャドウと対峙している時よりも殺気立っている彼に、完二は背中を冷汗が伝うのを感じた。
(怖ぇ…マジこえー、ハンパねぇ!)
 そうこうしているうちに照明が落とされ、ステージにスポットライトが当たる。割れそうなほどの歓声の中、幕が開き、ミス?コンと同じアフロのかつらを被った司会者が現れた。午前中の屈辱を思い出し、孝介は更に眉間の皺を深くする。人口密度が高い体育館の中、孝介と完二の周りだけやけに空間があった。完二は怯みそうになる己を鼓舞し、少しでも場を和ませようと口を開く。
「セ、センパイ、始まったっスね!いやー楽しみだなぁ」
「…楽しみ、ねぇ」
孝介の一言で、辺りの温度がす、と下がった。完二は己が失言したことに気付き硬直する。また周りとの距離が開いた。
 柏木、大谷、千枝、雪子――見慣れた女性陣が次々に壇上に現れ、自己PRをしてゆく。前の二人はともかくとして、後ろの二人は平均の上を行く愛らしさと美しさを持っている。彼女らに邪な思いを抱いている訳ではないが、完二は男として普通に興味があった。一ヶ月前ならば、きっと自分と孝介の間には蜂蜜色の髪をした少年がいて、男子高校生らしく時折猥談を交えながら楽しくステージを観覧していただろう。孝介もここまで不機嫌にはならなかったはずだ。そう、一ヶ月前ならば。
 『…では次は、二年二組、花村陽介さんでーす!』
歓声と共に陽介が下手から姿を現す。恥ずかしそうに俯いた彼女の体は華奢で、大抵の男なら無条件で庇護欲を掻き立てられるだろう。ほぼ完璧に左右対称の甘い顔立ち、大きなヘーゼルの瞳とそれを縁取る長い睫毛。細い首に絡むハニーブラウンの髪、襟が大きめの白いセーターから覗く綺麗な鎖骨、ダークブラウンのハーフパンツから出たすらりとした形の良い足――誰がどう見てもモデルのような美少女だ。彼女がついこの間まで男だったなどとは誰も信じないだろう。中身を知っている完二ですらたまにどきりとすることがあるのだから。
「やっぱ花村、カワイーよ」
「見た目派手なのに、あの初心っぽいところがいいよな」
ざわめきと共に聞こえた男子生徒の呟きに、孝介の機嫌は一気に急降下した。まだ冬ではないのに寒さを感じ、完二はぶるりと身を震わせる。本当は今すぐにでも逃げ出したかったが、男としての矜持が辛うじて彼をこの場に踏み止まらせていた。
(頼む、早く終わってくれ…!これ以上、月森センパイが不機嫌になる前に!)
 しかし完二の祈りも空しく、司会がとんでもないことを言い出した。
『なんと!今年度から!本コンテストに水着審査が加わりました!』
興奮した司会に煽られるように、会場中から男達の雄叫びがあがる。あまりの大音量に思わず耳を塞ぎながら、完二は恐る恐る横を見た。孝介は、恐ろしいほど綺麗に笑っていた。
「ひッ!」
本能的に危険を察知し、完二は一歩後ずさる。孝介は胸の前で組んでいた腕を解くと、「抜ける」と言い残して人混みを掻き分け、体育館を出て行った。彼がいなくなったことで場のプレッシャーが消え、完二を含めて周りにいた者は無意識のうちに溜めていた息を吐き出す。いつの間にか握り締めていた手は汗でじっとりと湿り、冷えていた。
 (お、恐ろしかった…!)
やはり我らがリーダーは只者ではない。味方であればこれ以上ないほど心強いが、敵には絶対に回したくない相手だ。正直、シャドウよりも孝介の怒りを買うことの方が完二には恐ろしく思える。
 檀上では出場者の着替えを待つ間、司会とクマが下心丸出しのトークを繰り広げている。クマに邪気がないのは分かっているが、だからこそ余計に腹立たしい。後で殴ってやろうと心に決め、完二はもう一人の元凶に頭の中で恨み事を言った。
(花村センパイ、アンタのせいっスからね!)


 孝介が控室を探し当てた時には、丁度着替えを終えた出場者達が出てくる所だった。いくら屋内とはいえ、そろそろ冬になろうとしている稲羽は冷える。一部を除き少女達は寒そうに体を縮込ませていた。
 彼女らの水着は揃いも揃ってビキニタイプで、普段は隠されている胸の谷間や引き締まった平らな腹が露わになっており、孝介は眼のやり場に困った。陽介の着ているものはホルターネックタイプで、濃いオレンジを基調に暖色系のストライプ模様が入っている。よく似合っているが、下着に等しい面積の布地しか纏っていない彼女を他の男の目に晒すのは、孝介には我慢できそうにない。
「うー…」
「花村くん、無理しないで棄権していいよ?もう怒ってないから」
 守るように自らの肩を抱き込み、羞恥に顔を真っ赤にしている陽介に、雪子が気遣うように声を掛ける。陽介が男だったことを覚えているのは特別捜査隊のメンバと彼の両親のみで、自分達は彼女が体こそ女になっていても心はまだ男のままであることをよく知っていた。元に戻れないという事実を突き付けられ、ようやく女として生きてゆくことを徐々に受け入れ始めたばかりの陽介は、まだ女物の服を着るのすら抵抗がある。その彼女に水着を着て衆目の前に立てと言うのはいささか厳しいと察してくれたのだろう。しかし陽介は弱々しく頭を振った。
「いや…ありがたいけど、お前らが出ることになっちまったのは俺のせいだし。ここで俺だけっていうのはフェアじゃないだろ」
「あんた、本当にめんどくさい性格してるね」
律儀な陽介の額を千枝が苦笑しながら小突く。陽介は口をへの字にして「うるせー」と抗議するが、常は張りのあるその声にも覇気がない。りせが努めて場を明るくしようと笑顔で皆の背を押す。
「ほらほら先輩達、寒いし早く行きましょ?どうせお祭り騒ぎだもん、皆あんまりちゃんと覚えてないから大丈夫」
「そ、そうか?」
 一団はのろのろと動き出す。孝介は素早く制服の上着を脱ぐと、最後尾を歩いている陽介の背後に忍び寄り、白い背中を己の服で包んだ。
「?!」
突然の温もりに驚く彼女を荷物のように抱え上げ、一目散に走り出す。ふと後ろにいたはずの気配がないことに気付いた千枝が振り返った時には、二人の姿は廊下の角に消えようとしていた。
「…あれ、花村?」
「ごめん里中、陽介は腹痛で棄権って言っておいてくれ!」
 孝介はそう言い残し、一路保健室へと向かう。殆どの生徒と来校者が体育館に詰めているのだろう、校内は閑散としていて誰にも遭遇しなかったことは幸いだった。状況が飲み込めずしばらくぽかんとしていた陽介が、思い出したように抵抗を始める。
「ちょ、孝介!放せってば!!」
「五月蠅い、黙ってて」
 彼女に対しては滅多に使わない冷たい声でぴしゃりと言えば、陽介は体を強張らせて口を噤む。罪悪感が胸を掠めたが、今の孝介にはフォローする余裕もなかった。
 ノックもそこそこに保健室のドアを開け、驚きと好奇の視線を向けてくる校医に「花村さんが腹痛なので休ませてください」と言い放ち、空いているベッドに放り込む。世界から隠すようにすぐにカーテンを閉め、白い布越しに孝介は言った。
「荷物取ってくるからここにいること。あと、体冷えるから前締めて」
自分の格好を自覚したのだろう、薄い布の向こうで陽介が慌てて動き出すのが見えた。三十を少し過ぎたばかりの男の校医がにやにやと性質の悪い笑みを向けてくるのを無視し、孝介は控え室に取って返す。実行委員に陽介の荷物を渡してもらい、保健室に戻ると、校医がカーテンを開けて陽介と話をしていた。ベッドの淵に腰掛け、男子制服の上着から白くほっそりとした足を剥き出しにした彼女は酷く無防備で、どれほどの破壊力を持っているか自覚していない様子に孝介は苛々する。
 「ミスコン、辞退したら留年だって?柏木先生にも困ったものだね。僕から一筆書いておくから、落ち付くまで休んでいきなさい。…お、戻ってきたな」
校医はポケットから取り出した鍵を孝介に渡し、憎めない笑みを浮かべる。
「折角だから、僕もちょっとミスコン見てきたいんだよね。ついでに校内も回りたいし。一時間くらいで戻るつもりだけど、今は君ら以外に誰もいないから、花村さんが帰れるようになったら締めちゃっていいよ。その場合は鍵は職員室に返しておいて」
「分かりました。誰か来たら、看られる範囲で看ておきます」
「よろしく。じゃ、お大事にね!」
彼は踵を返すと、白衣の裾を翻して足早に去ってゆく。ぴしゃり、と引き戸が閉まる音がやけに大きく響いた。
 「………」
沈黙が部屋に満ちる。壁一枚隔てた祭りの喧騒はどこか遠く、消毒液の臭いの染みついた保健室はいやに静かだった。黙ったままの孝介を、陽介は怯えた小動物のような目で伺っている。いつもならいじらしいと思うその仕草さえ、今は孝介の苛立ちを煽るだけだった。どさり、と近くの机の上に荷物を下ろし、ゆっくりと近付くと、陽介は怯えたようにベッドの上で後ずさる。
「な、なんでそんなに、怒ってるんだよ」
「…それ、本気で言ってる?」
低い声で呟くと、陽介はぶんぶんと頭を振った。後ろ手に手を着いて立ち上がろうとした彼女は、しかし後退したせいでそこには空しかないのを失念していたようで、バランスを崩した体が後ろに傾ぐ。孝介は慌てて駆け寄り、折れそうなほど細い手首を掴んで己の胸に引き寄せた。
「ったく、お前、うっかりすぎ」
「うう…ごめん」
孝介はわざと大げさな溜息を吐きながら、肉離れや捻挫を起こしていないか触診する。陽介は大人しくされるがままだ。分厚い制服の下にある吸いつくような肌の感触を思い出し、孝介は体が熱くなるのを感じた。
(ダメ、だ)
 先ず、場所がいけない。自分達以外誰もいない保健室の、ベッドの上。次に、陽介の格好がいけない。下着に等しい水着の上に、己の貸した上着だけを纏った愛しい彼女。開いた襟元から覗く項や鎖骨、胸の谷間が、日に焼けていない白い太股が、視覚から孝介の劣情を煽る。衝動を抑え切れなくなり、孝介は力いっぱい陽介を抱き締めた。
「ちょ、苦しいって」
「…陽介の真面目な所も好きなんだけど、やっぱりオレとしてはお前の胸とか足とか肌を他の奴には見せたくない訳で。だからずっと反対してたのに」
「だ、だって、仕方ねーだろ!あいつらにやらせといて、俺だけ逃げる訳にはいかないだろうが。それに柏木の奴、本気で留年させかねないし」
 ミスコンを辞退しろと一点張りの孝介と、頑なにそれを拒む陽介のやりとりは、女になった陽介が誰かにエントリーされてからもう何度も繰り返されてきたものだ。再び堂々巡りが始まりそうになったのを察した孝介は反論を飲み込み、代わりに学ランに手を掛けた。男の時には数え切れないほど脱がせたのだ、あっという間に全てのボタンを外して前を開ける。露わになった平らな腹を撫でられ、保健室は十分に空調が効いているのに陽介は身を震わせた。寒さからではないその反応に孝介はくすりと笑みを漏らす。陽介は途端に顔を真っ赤にした。
「こ、孝介、服!着替えるから!」
「はいはい。今更恥ずかしがらなくてもいいのに。いつもそれ以上に恥ずかしい格好見てるんだし」
「そういう問題じゃないの!」
 一度体を放し、孝介は立ち上がって陽介の鞄を置いた机へと向かう。しかし彼は机を通り過ぎ、入口のドアの前に立つと内側から鍵をかけ、電気まで消した。カーテンが引いてあっても、昼間の保健室は十分に明るい。警戒を顕にする陽介の元へ手ぶらで戻り、彼は完二を怯えさせたとの同じ、凄惨なほど美しい笑顔で言う。
「そんな格好で男の前に出たらどうなるか、陽介分かってないみたいだから。体で理解させてあげようかな」
「ひっ…!」

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