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君しかいらない おまけ

※陽介女体化(後天)注意
過去のweb拍手お礼小説サルベージです。
バレンタイン小説「君しかいらない」の中で割愛した、陽介が完二とチョコを作る部分です。げろあまー けっ!

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和風の外観に反し、巽家のキッチンは洒落たアンティーク調の家具で統一されていた。
カウンターの上では真新しいオーブンがその存在を主張している。ジュネスでも売っている最新型のものだ。
「おー、スゲーな」
「へへっ、コレ買ったからどうしても何か作りたくなったんスよ。あ、花村センパイ、オレが準備する間、これ読んで作り方確認しといてください」
完二に渡されたのは、可愛らしいお菓子作りの本だった。大分年季が入っているところをみると、彼が子供の頃から愛用しているものなのだろう。ぱらぱらと捲ると、少し色褪せてはいるが華やかなデコレーションが施されたお菓子の写真が目に飛び込んでくる。クッキーのページを探すつもりが、どれも美味しそうで目移りしてしまう。
(クッキーは数もできるからアイツだけじゃなくて、クマきちや他の奴らにも渡せるな。でも、アイツのが皆と同じっていうのアレだよなぁ)
何かよいものがないかと眉根を寄せてページを捲っていると、バレンタイン特集の次のページに載っていたお持たせレシピの隅に、落ち着いた色合いのガトーショコラが目に入った。見るからにバレンタイン用のチョコレートを渡すことには抵抗があるが、これならあまり抵抗なく渡せそうだ。陽介はてきぱきと準備を進めている完二に詰め寄り、ページを見せて尋ねる。
「なぁ!あのさ、これって割と簡単に作れたりする?」
「ガトーショコラか…そんなに難しくはねぇですけど、クッキーやめてこっちにします?」
小首を傾げる後輩に申し訳ないと思いつつも、陽介は両手を合わせて頼み込んだ。
「悪ィ、なんとかして両方作れねーかな?!その、考介には勿論あげたいんだけど、俺がその、女になっちまった件で、お前も含めて皆には本当に世話になったから、何か渡したいなーって。お前も自分の準備あるのにワガママ言ってホント申し訳ないんだけど、お前しか頼れる奴がいねーんだ!」
頼む!と重ねて頭を下げれば、完二は慌てふためいた。
「ちょ、センパイ?!頭あげてくださいよ!大丈夫ですって、任しといてください」
「ホントか…?」
その大きな瞳で上目遣いに見つめられ、完二はどきりとしてしまう。中身は男のままだが、女になった陽介の外見は文句なしに美人だし、考介をひたむきに想うその姿は愛らしいと感じる。完二が彼女に抱くのは敬愛だが、健全な男子高校生としては女性そのものに惹かれるのだ。一瞬、見も凍るような冷たい微笑を浮かべた我等がリーダーの顔が脳裏に浮かび、完二は邪念を振り払うように慌てて被りを振った。
「男に二言はねぇ!すげー上手いの作って皆をぎゃふんと言わせてやりましょうや!」
「!そうだな!燃えてきたぜ!!」
異様に盛り上がる二人の様子を、隣の居間で母親が頬絵ましそうに見守っていた。


およそ2時間後。綺麗に焼きあがったガトーショコラを前に、陽介は感動に打ち震えていた。
「おおおお…すげー…!」
目をきらきらさせて処女作品を見ている陽介に、完二は自分が初めてお菓子を作った時のことを思い出し、微笑ましい気分になった。母に喜んでもらいたくて作ったお菓子。陽介も今同じように、誰かのためにお菓子を作っている。
「ま、初めてにしちゃ上出来っしょ。…つか、初めてでも本の通りに作れば、普通はこれくらい作れるハズなんスけどね…」
「そうだな…なんでアイツらあんなに料理下手なんだろうな…」
特別捜査隊の女子の料理レベルを思い出し、完二は遠い目をした。陽介は力なく頷くしかなかった。ガトーショコラを冷ましている間に、寝かせておいたチョコチップクッキーのたねを取り出し、均一な厚さに伸ばして型を抜く。元々器用なのだろう、陽介はすぐに要領を得てスピードを上げていった。特に手助けする必要がなさそうなので、完二は自分のエクレアのクリームに取り掛かる。オーブンでは生地が焼きに入っていた。キッチンには甘くいい匂いが立ち込めている。
「――完二、ちょっといい?」
居間から顔を覗かせた母親に、陽介ははっとして立ち上がった。作業に熱中していて気付かなかったが、時計の針は既に8時過ぎを指している。自分達が台所を占拠していては夕飯の支度もできない。
「!すみません、こんな時間までお邪魔しちゃって!」
恐縮する陽介に、完二の母はからからと笑って見せた。
「いいのよ。昨日の残りのカレーだけど、よければ花村さんも食べて行って?お腹空いたでしょ?」
言われた途端に空腹を思い出し、現金にもお腹がくうと鳴った。あまりの恥ずかしさに赤面しながら、陽介はありがたく好意に甘えることにする。今日は朝からシフトに入っていたため、昼休憩におにぎりを齧ってから何も食べていない。空腹すら忘れるほど孝介のことで頭がいっぱいになる自分が何だかおかしくて、陽介はくすりと笑った。
シュー生地が焼き上がったので、代わりに天板に並べた陽介のクッキーをオーブンに入れ、一同は居間に場所を移して遅めの夕食を採った。人様の目のあるところでは食べ方に気をつけなさいと母親から口を酸っぱくして言われている陽介は、やや緊張しながらもスプーンを口に運ぶ。花村家のカレーとはまた違う、小さめの具と少し和風のだしがきいた二日目のカレーは、とても美味しかった。
「花村さん、いつも完二と仲良くしてくれてありがとうね。あなた達と付き合うようになってから、この子ったら本当に毎日楽しそうで…」
「――オフクロ!そういう話はやめてくれっていつも言ってんだろ?!」
睨みを利かせた完二の視線にも全く動じることなく、母親は嬉しそうに微笑んでいる。母親には勝てないのか、完二は諦めたように溜息を吐くと、無言でカレーを食べ始めた。
「そういえばあんた、女の子のお友達が増えたわね。天城屋さんのところの雪子ちゃんと、お友達の里中さんでしょ、マル九さんのりせちゃんでしょ。あとは最近、探偵の白鐘さんもよくりせちゃんと一緒に遊びに来るわねぇ」
「へー、直斗も遊びにくるんだ」
やや意地の悪い顔で見やれば、純粋な後輩は顔を真っ赤にして「うるせぇ!」と怒鳴る。しかし慣れてしまえば全く怖くなく、可愛いと思えるほどだ。母には勝てないと悟ったのか、完二はカレーを掻き込むと、「クッキーの焼き具合見てくる!」と台所へ逃げて行ってしまった。残された陽介は少しの気まずさを感じつつも、少しスピードを早めて残りのカレーを口に運ぶ。
「…花村さん。いきなりこんなこと言われても困るだろうけど、本当にありがとう。月森さんやあなたのおかげで、あの子がどれだけ救われたか分からないわ。頑丈なだけが取り柄で、頭の足りない子ですけど、どうかこれからも仲良くしてやってね」
真摯な慈しみの表情に、陽介はスプーンを置いて頷く。
「はい。完二は確かに誤解されやすいけど、本当は優しくて、曲ったことが大嫌いな、いい奴です。回りも段々気付いてきてると思います。だからきっと、あんまり心配しなくても、大丈夫です」
「――そう。よかった」
ふわり、と笑う母親を、強くて優しい人だと陽介は思った。
「ああ、花村さんみたいな素敵な人があの子の彼女だったら良かったんだけど、月森さんと付き合ってらっしゃるのよね。あの子も早く、誰かいい人ができないかしら」
「――オフクロ!!!何勝手なこと話してんだよッ!」
台所から戻ってきた完二が、不穏な方向に流れだした空気を読み、慌てて陽介を台所へ引っ張ってゆく。「ごちそうさまでした!」と振り返って言えば、彼女はとても楽しそうに笑っていた。




**********




「完二、今日は本っ当にありがとな!今度マジで何か奢らせてくれ」
陽介の手には綺麗にラッピングされたクッキーと、特別なガトーショコラの入った箱がある。包装にまで気が回らなかった陽介だったが、完二のおかげで誰に渡しても恥ずかしくない仕上がりとなった。明日、これを受け取った皆は、孝介は、どんな顔をするだろうか。
「別にいいっスよ。オレも楽しかったし」
「いやいや、俺の感謝のキモチだから。今なら肉丼だってOKだぜ?」
「いや、アレは別に食いたくないんで…」
他愛もない話をしながらしながら二人は足を進める。陽介は固辞したのだが、家まで送るという律儀な後輩に負けて、大人しく送られることにした。稲羽の町は街灯すらろくにない。その代わり、澄んだ夜空に湛えられたきらきらしい星々が見事に見えた。吐く息が白く凝る。完二がひいている自転車の軋みがやけに大きく響いた。
程無くして花村家の明かりが見える。娘の帰宅を待ちわびたかのように、玄関には温かい光が灯っていた。その光を背に受け陽介は手を振る。
「送ってくれてありがとな!おばさんにもお礼言っといてくれ。あと、遅くまで邪魔しちまってホントごめんな」
「や、ホントいいですって。じゃ、おやすみなさい」
その華奢な背中が扉の中に消えたのを確認し、完二は自転車に跨った。徒歩だとそれなりの時間がかかるが、自転車ならそう遠い距離ではない。
(帰ったらシューにクリーム詰めて、箱に詰めりゃ完成だ。花村センパイのガトーショコラもクッキーも上手くできたし、明日が楽しみだぜ)
漕ぎ出そうとした瞬間、図ったかのようなタイミングで携帯が震え出す。完二は予感を感じつつもフリップを開いた。そこに表示されているのは案の定、我らが特別捜査隊リーダーの名前だ。
「…もしもし」
『おつかれ。陽介をちゃんと送ってくれたか?』
彼はこうして時折、全てを見透かしたかのような物言いをする。そのことに疑問を感じなくなったのはいつからだろうか。得体が知れないと怯えたこともあったが、彼を知るにつれて不安は消えていった。何故なら、彼の千里眼は主に陽介に関係することにのみ発揮されるからだ。愛故だと理由を付けて完二は納得していた。
「モチロンですよ。今送ってきたところです。いくら花村センパイでも、夜道を一人で帰らせるのは危ないっスから」
『そっか。ありがとう』
敬愛する先輩に褒められれば悪い気はしない。少し気分の軽くなった彼は、同じく軽くなった口でつい言う。
「センパイ、よかったっスね。花村センパイからチョコ、貰えそうですよ」
『…ああ。お前のおかげだよ』
おやすみの挨拶を交わし電話を切った完二は、風を切って自転車を漕ぎながら思った。
(花村センパイって、ホントにぶいよなー…)
孝介がどれだけ陽介からのチョコを欲しがっていたか、彼女以外の仲間は皆知っているのに、彼女だけは知らない。手伝い賃として明日、渡した時の反応を聞いてみようと思いながら、完二は家路に着いたのだった。



END

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