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どうしよう、しあわせの先が見えない・10(完結)

これにてひとまず完結です!ひっぱりすぎてすみませんでした!エピローグなので短いです。読んでくださった方、本当にありがとうございますm(_ )m
5年ぶりくらいに物書き再会、初の主花小説、初の連載でもう色々と至らない所だらけの恥ずかしい話ですが、無事に終えられて一安心です。でもまだくっついてないんだ。続編があるんだ…。すぐに続き書きます。はやくセンセイと陽介をちゃんとくっつけてあげたい。

ゲーム本編と若干矛盾している部分があったり(すみません)、文章的に気になる所があるので(すみませんすみません)、落ち着いたらちょこちょこ手直しをさせていただこうと思います。あんまり直したくないのですが、1~4あたりが特にひどすぎるので…。


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風もなく、頭上には済み渡った青空が広がっている。初秋にしては過ごしやすい穏やかな日の昼休み、屋上には特別捜査隊の面々が顔を揃えていた。
「皆には、色々と迷惑をかけたから。お詫びにもならないけど、オレと陽介からの気持ちってことで」
広げられた重箱には、美味しそうな料理の数々が見た目も鮮やかに盛り付けられている。7人で食べても十分な量のあるそれは、作るのも持ってくるのも大変だっただろう。誰かのお腹が音を立てて鳴った。
「ホント、ごめんな。あと、ありがとう」
陽介が深々と頭を下げると、孝介もそれに倣って頭を垂れた。顔を上げた二人は視線を交わして微笑む。孝介はとても嬉しそうに、陽介は気恥ずかしさを隠すように。もう昨日までのぎすぎすした空気はない。二人の間にあるのは深い信頼と親愛の情だ。仲違いしている間の辛そうな二人を見ているだけに、皆は安堵し、心から喜んだ。
(にしては、なんか近すぎる気がすんだけど…まぁ、ケンカしてるよりは、いっか)
完二は沸き起こった小さな違和感を無視することに決め、早速鳥の竜田揚げに箸を伸ばした。その動きを皮切りに、皆が一斉に手を出し始める。いっそ清々しいほどの勢いで無くなってゆく弁当を、孝介は始終笑顔で見守っていた。
「美味しい!やっぱり月森くん、料理上手だね。私もがんばらなきゃ」
「っていうかコレ、作ったの月森くんでしょ?花村、何もしてないじゃん」
「うるせー!俺もちゃんと手伝いました!じゃなきゃ意味ないだろ」
喋ってばかりでなかなか食事の進まない陽介の皿に、孝介はどんどん料理を盛り付けてゆく。自分でできる、と照れる陽介の耳元で孝介が何事かを囁くと、途端に彼は顔を真っ赤にして口元を押さえた。
「センパイ達、怪しい!何言ったの?」
「ん?オレが陽介のことをどれだけ大切に思ってるかってこと。オレの愛がきちんと伝わってなかったみたいだから、もう手加減するのはやめようと思って。とりあえず、お前は細すぎる。もっと食え」
その長く綺麗な指で箸を動かしミートボールを掴むと、孝介は陽介の口元に持ってゆく。陽介は恥ずかしがって顔を背けたが、ぐいぐいと押しつけるとやがて諦めたように口を開き、ミートボールを飲み込んだ。一瞬だけ覗いた赤い舌に、昨日のキスを思い出して孝介の胸は高鳴る。仲間達がいなければ、この場で押し倒して思う様唇を貪っていただろう。陽介に関しては本当に我慢の効かない自分に内心で苦笑しながら、孝介は今度は握り飯を陽介の口に突っ込もうとした。
「いや、いいから!流石にそれは自分で食べるから!」
「わー、オカン全開だねー…」
皆が生温い視線で見守る中、孝介と陽介は楽しそうにじゃれ合っている。もう何も心配することはなさそうだ。二人が並んで立っている限り、恐れるものなど何もないと思える。直斗は稲荷寿司を飲み込むと、彼らに聞こえないよう小さな声で、いたずらっぽく囁いた。
「特別捜査本部・臨時集会は、これにて閉会ですね」
「そうだね。あーあ、花村センパイ、ずるい!私だって月森センパイにあーんってして欲しいのに」
久しぶりの和やかな空気に箸も進む。気がつけば重箱は全て空になっていた。手際よく片付けを済ますと、二年生は次は移動教室だからと少し早めに退散する。予鈴までまだもう少しあるからと食後のお茶を楽しんでいた完二は、行儀よく緑茶を啜っている直斗にずっと気になっていたことを尋ねた。
「なぁ。花村センパイがテレビに落ちた時、お前、月森センパイに何か頼まれてたよな。アレ、何だったんだ?」
直斗は「依頼には守秘義務があります」と言ってはぐらかそうとしたが、りせにも食いつかれてしぶしぶといった体で教えてくれる。
「花村先輩を襲った奴らを調べてリストアップしただけですよ。作成したリストは月森先輩にお渡ししましたが、それから先は僕も知りません」
「ふーん。でもまあ、あれから花村センパイが絡まれることもないみたいだし、別にいっか」
興味のないことへの反応が薄いりせは、お茶を飲み干すとスカートを叩いて立ち上がった。
「そろそろ戻ろ!」
「そうですね」
「ああ」
紙コップをまとめて立ち上がった完二は、ふと最近、夜が静かなことを思い出した。昔取った杵柄というべきなのか、完二は八十稲羽の素行の悪い者達を大抵は把握している。残念なことに八十神高校にも、商店街にも何人かいて、完二や陽介など目立つ者につまらない嫌がらせをしてくることがままあったが、最近はまるで善良な学生のように大人しくなっている。小さな町だ、警察に補導されたとなればすぐに噂話が広がるはずだが、今の所は何も聞いていない。点と点を結び合わせ、考え付いたあるひとつの可能性に完二は背筋が冷えたが、りせを見習って思考をシャットダウンすることにした。
(まさか、な。でもあのヒトなら、やりかねねぇ)
「完二ー!置いてくよ!」
完二は雑念を払うように駆け出し、校舎への扉を潜ったのだった。




放課後、夕暮れの中を孝介と陽介は連れ立って歩いていた。
孝介の手にした袋の中には空の重箱と、保冷パックに入った小さな弁当箱がある。学校に来られないクマのために別にしておいたものだ。それを届けに花村家へと向かっている最中である。肩を並べ、他愛もない話をするのも暫くぶりで、何もかもが幸せで堪らない。余程締まりのない顔をしていたのだろう、幾度か陽介から注意されたが、孝介はどうしても頬が緩むのを抑えられなかった。
「お前、本っ当に俺の前では格好悪いのな」
「そうかな。だって嬉しくてたまらないんだ」
「答えになってないし」
拗ねたように唇を尖らせる陽介にキスしたい衝動を堪え、孝介は開いている方の手をそっと伸ばした。陽介がぴくり、と震えたが、気付かなかったふりをして指先を絡める。緊張は感じるものの振り払われることはなく、伝わってくる温もりに泣きそうになった。
「…誰かに見られたら、どーすんんだよ」
「大丈夫。誰もいないし、万が一見られたらオレがうまく誤魔化すから」
「お前、嘘つくのキライじゃなかったっけ」
「嫌いだよ。でも身を守るために必要な嘘もある。心苦しくは思うけど、オレとお前のバラ色の未来のためなら仕方ない」
最上級の笑顔で囁けば、陽介は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
「恥ずかしい、やつ」
「お前に関しては余裕がないから。言っただろ、手加減も遠慮もしないって。…好きだよ、陽介。後でキスしていい?ダメって言ってもするけど」
恥ずかしさに耐えられなくなったのか、陽介は顔を背けてしまった。けれども繋いだ手が離されることはない。目眩がしそうなほどの幸福の中、孝介はもう一度「あいしてる」と囁いた。
(ホント、恥ずかしい奴)
陽介は羞恥で隣に立つ男を見ることができず、せめてもと心の中で毒づいた。きっと口に出しても、彼は嬉しそうに微笑むだけなのだろう。悲しませるよりも、苦しませるよりも、笑っていて欲しいと願ったのは自分だが、方向性を間違ってしまった気がしないでもない。昨晩のテレビの中での行為を思い出し、陽介はこれ以上ないほど顔を赤くした。頭に血が上り過ぎてくらくらする。孝介が手を引いていなければ、その場にしゃがみ込んでいただろう。
(だって、俺、こいつと…!!)
「陽介?どうしたの?」
眼前には端正な孝介の顔があった。心配そうな案じ顔からは、彼の自分に対する慈しみを疑うべくもなく感じる。彼の優しさは親友だった時と何も変わらない。大事にされてきたことを改めて実感した。言葉の代わりに繋いだ指に力を込めれば、孝介は何も言わずに握り返してくれる。この温もりと熱は、そして沸き起こる幸福感と充足感は、親友では得られなかったものだ。
(どうしよう、しあわせだ、俺)
これが幸せだというのなら、その先には何が待っているのだろう。未だ頭の中は混乱を極めていてるが、彼の傍にいたいという心だけは間違えないと断言できる。流されているのかもしれないが、気持ちは堰が決壊した奔流のように孝介の方へと流れ始めている。未来のことは霞がかったように見えないけれど、孝介がいれば何も恐れるものはない気がした。
(手始めに、キスくらいは、許してやるか)
アスファルトの上に長く延びる二つの影は、やがて寄り添うように一つになった。




END

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