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whole issue

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「whole issue」サンプル

「花の葬送」(小西先輩の四十九日過ぎくらいの話、まだ親友な主と花)
「あいしてるっていくらでも言って」(2010年夏に発行した「あいしてる、でも言えない」の、9章の妄想小説に加筆した後日談)
「夢みたものは」(後天にょたで、高校三年生のGWに、主人公が母親と一緒に稲羽に帰ってくる話。一応「スターゲイザー」の続き?みたいなものです)

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「ねぇ、陽介。オレは確かに、ワイルドっていう能力で言えば特別かもしれないけど、それ以外はお前と同じだよ。強さも、経験も、一緒にこっちに入って、ずっと肩を並べて戦ってるお前と何も変わらないし、これからもそうありたいと思う」
ちくり、と陽介の胸が痛んだ。孝介は強い。頭の良さも性格も、外見すら勝てないのに、身体能力も、判断力も、全てが陽介の上をゆく。その人柄ゆえ素直に尊敬できるが、妬む心が全くないとは言えば嘘になる。彼の言葉は嬉しいが、今の陽介には心穏やかに受け取れない。
 孝介は眼前に自らの刀を掲げ、言う。
「なのに陽介はどうして、そうやって自分を卑下するの。お前は、強いよ。寧ろオレよりずっと。って言っても、すぐには受け入れてくれないだろうから、手合わせしようか」
ちょうど武器もあるし、と、孝介は天気の話をするような気軽さで口にする。だが、その銀灰の瞳に浮かぶ色は本気だった。戸惑う陽介の前で、孝介は数歩下がり、抜刀する。
 「オレは、お前が思ってるほど強くない…というか、陽介が強いっていうのがよく分かると思うよ。こっちも手加減はしないけど」
 思ってもみない提案に、困惑と同時に興奮が沸き上がった。これが闘争本能というものなのか。背中を預け合っている、誰よりも頼りになるリーダー。彼と刃を交えてみたいという好戦的な気持ちがむくむくと陽介の中で首を擡げて来た。
(何考えてんのかいまいちよく分かんねぇけど、こいつの言うことだから、悪いコトじゃないだろうし。こんな機会、もうないかもしれないからな)
言われっ放しも癪なので、陽介はにやりと口の端を吊り上げてみせる。
「いいぜ。面白そうじゃん」
にこり、と孝介は笑った。
「じゃあ、やろう。これは喧嘩じゃなくて、紳士的な試合だから、どっちかが負けを認めるか、立っていられなくなったら負け。武器とペルソナ使用はあり、アイテム使用はなし。いいか?」
「オーケイ、リーダー。じゃあ、準備できたら5カウントで開始な」
 広場の端に花を置き、ポケットの中から回復アイテムを取り出して、床の上に転がす。ずっと首に掛けていたイヤホンを耳に掛け、生まれたての刃を鞘から抜き放てば準備完了だ。少し離れたところにいる対戦相手に目をやると、彼は待ちくたびれたように首を回していた。
 「待たせたな、始めようぜ。あ、アイテムここに置いといたから、もし何かあったら使ってくれ」
「分かった。それじゃ、カウント取るぞ。5、4」
ぎゅ、と強く柄を握り締め、陽介は涼やかな声を聞いていた。掌には汗が滲み、心臓がどくどくと音を立てて血を血管に押し流している。体は熱くなるのに、頭はどこまでも冷静だった。アドレナリンが大量分泌されているのだろう。
「3」
 孝介はいつも通り、抜き身の得物を下段に構え、腰を落としている。シャドウとは違う、知性ある敵だ。ただ立っているだけでも存在感のある彼からは、自分に対しては決して向けられることのない殺気――この場合は闘志、とでも言うのだろうか――が向けられていて、ぞくぞくした。自分はもしかして、少しおかしいのかもしれない。孝介と、仲間と戦えるのが嬉しいだなんて。
「2」
 ぺろり、と陽介は唇を舐めた。彼がどのペルソナを憑依させているかにもよるが、俊敏さは恐らくこちらが上。だが、あのリーチの長さに加え、彼自身の腕力と、長剣の重さが載った一撃は厄介だ。ヒットアンドアウェイを決め、カウントゼロになった瞬間に飛びだせるよう、陽介は利き足に力を込めた。
(頼むぜ、ジライヤ)
もう一人の自分に声を掛ければ、すぐに諾意が返ってくる。彼もこの状況を楽しんでいる。自然と陽介の口角も上がっていた。
「1――始め!」
 号令と同時に、陽介は地面を蹴って弾丸のように飛び出した。孝介は刀を振り上げ、上段から袈裟掛けにしようとしてくるが、遅い。刃が落ちてくるよりも早く懐に入り込み、連撃を浴びせる。一撃目は柄で防がれたが、二撃目は浅く彼の左の二の腕を裂いた。
 流れ出た朱と肉を斬る感触に思わず動きを止め掛けたが、本気の力で押し返され、気にする必要はないのだと知る。これは死合ではない、試合だ。命の取り合いが目的ではない。終わった後に治療すればいい。
 素早く下がって間合いを確保し、武器を構える。できればもう少し距離を取りたかったが、孝介がそれを許してはくれない。繰り出される剣先を、弾き、交わし、あるいは流す。鍛えられた金属同士がぶつかる硬質な音が、入口広場に激しく響き渡った。
(強えーな、やっぱ)
こちらの攻撃も防がれ、避けられ、当たらない。互いに致命傷を与えられない。自分よりは多少劣るが、十分なスピードと、陽介にはない力のある一撃は、受け止める度に腕が痺れ、体力が削られてゆく。今は拮抗しているが、持久戦に持ち込まれたら不利なのはこちらだ。
 それに、孝介にはどことなく底知れない感じがある。威圧感とでも言うのか、陽介もまだ知らない力を隠していそうな気がするのだ。兎にも角にも気を抜ける相手ではない。
(何とか、突破口を見つけないと)
 「っ!」
ちり、と手の甲に裂傷が走る。ちらりと目をやれば、赤い筋が一本刻まれていた。回復の技は習得しているが、かすり傷を癒している暇はない。見れば孝介はいつのまにか随分と離れた所にいて、ペルソナを呼ぶために意識を集中していた。
(やばい)
 陽介は慌てて駆け出した。孝介は物理も強烈だが、どちらかと言えば怖いのはペルソナの魔法だ。陽介のジライヤには雷という弱点がある。ウィークポイントを突かれ、ダウンさせられてしまったら確実に負ける。
彼の右腕が胸の前に翳される。刀は左腕、下ろされたままだ。一か八か、陽介はたん! と硬い床を踏み切り――飛び回し蹴りを放った。
「っ、あ…!」
「!?」
スニーカーの底に当たる確かな感触に驚いたのは、孝介よりも自分の方だ。千枝に面白半分に教えてもらった足技が、まさか当たるとは思わなかった。
 鞭のようにしなる己の右足を見ながら、陽介の体は武器を持った振り手で重心を変え、中空でターンする。そのまま左足で後ろ回しを放つが、流石にそれはガードされてしまった。右腕を肘で曲げ、顔の高さに構えて足を防いだ孝介が、にやり、と笑う。先程の痛そうな顔は演技だったのだ。




【花の葬送】

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(言っても、いいのかな。好きだって)
手を伸ばしてもいいのだろうか。奇跡をにわかには信じられないが、想いが実ったのならば、長い間封じ込めていた思慕を言葉にしてもいいのだろうか。
 誰だって、傷付くのは怖い。愛という感情は人それぞれで、裏切られるかもしれないし、勘違いかもしれない。それでも、自ら動かなければ、何も変わらない。どうせ最後の恋にするつもりだったのだ、もう隠し通すことができないのなら、いっそ当たって砕けてみようと陽介は腹を括った。
 立ち上がり、孝介に向き直る。何事かと凝視する彼の目の前で、陽介は自らの腰紐を解いた。しゅるり、と衣擦れの音がして、帯が落ち、浴衣の前がはだける。顕わになった肌に、孝介が息を呑んだのが分かった。
 つう、と指先で、体中にはしる縄の痕と鬱血を辿る。
「よく見てください。俺、汚いでしょう? 男のくせに、男に抱かれてるんです。先生にされたのよりも、もっと酷いこと、今まで何人もの男に、何度も何度もされてきました。これからもきっと。…それでも、いいんですか?」
返事の代わりに孝介は腕を伸ばし、陽介の腰を引き寄せた。傾いだ体を難なく受け止め、きゅうと抱き締めて、彼は涙交じりの声で囁く。
「花村さんは、汚くなんてありません。オレは貴方が好きだから、これからも抱きたい。でも、体だけじゃいやなんです、心も欲しいんです。貴方は、オレが守ります。もう他の男には触れさせません。だから、オレのこと、好きになってください。――愛してるんです」
 歓喜に魂が震える。今まで陽介に、こんなにもやさしくて激しい愛を向けてくれた相手はいなかった。もしかしたらいたのかもしれないが、陽介の心の内側にまでは届かなかった。陽介は唐突に諒解した。涙が出たのは、彼とは心が通じた状態で抱かれたかったからなのだと。
「花村さん。お願いですから」
 涙交じりの懇願に、陽介は触れるだけのキスで応えた。驚く孝介の手を掴み、大きな掌を自らの胸に導く。
「さわって、ください。どきどきしてるでしょう?」
「……」
どう答えていいのか迷っている愛しい人に、陽介は微笑みかけた。
「俺も、月森先生のことが、好きです。好きな人に好きって言ってもらえて、こんなに近くで触れられて、心臓がおかしくなっちゃいそうです」
「花村、さん」
 すぐ近くで聞こえた濡れた声に、ずくり、と花芯が疼いた。陽介は初めて、自らの意思で、男を誘った。
「月森先生、抱いてください。俺のこと、滅茶苦茶にして、先生だけのものにして」




**********




 「………」
開いた口が塞がらない、ということが実際に起きるのを、陽介はこの一年余りのうちに数度体験している。人生でそう多くもないであろう貴重な現象は、月森孝介に起因するケースが非常に多かった。今回もだ。
 「……………」
叫びたかった。暴れたかった。この蟠りをどこかにぶつけたかった。だが、ここは旅館であって自分の家ではないし、時刻ももう遅い。こんな時間に大声を出したら、変質者だと思われてしまう。




【あいしてるっていくらでも言って】

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※陽介女体化(後天)注意

 ゴールデンウィークをこれほど待ち遠しく思ったことはない。そして同時に、憂鬱に思ったのも。
(何で、どうして、こうなったんだ)
オレは隠す気もなく、寧ろ相手に聞かせるために、大きな溜息を吐いた。だが、相手はそんな殊勝なタイプではない。沖奈止まりの特急、二人掛けの座席の横に座った母親は、面白そうに唇を吊り上げる。
「何よ、あんなに楽しみにしてたのに、溜息なんか吐いちゃって」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
 父と叔父いわく、オレと母親はそっくりらしい。確かに髪や目の色は母親譲りだが、困ったことに一番似ているのは性格だ。好きなものに一直線で、それ以外には実はあまりやさしくできない所とか、楽しいことが大好きだとか。
 母はにこり、と笑い、全く悪びれない調子で言う。
「だって、こっちに戻って来てから一度も遼太郎の所に挨拶に行ってないのよ? 一年間もあんたを預かってもらったのに。それに、菜々子ちゃんにも会いたいしね」
「嘘…とは言わないけど、一番の目的は、それじゃないだろ。というか、わざわざオレと来なくても、後で父さんと一緒に来れば良かったじゃないか」
どうしても恨めしげな口調になってしまうのは仕方がない。だってこの母親は、オレの彼女――花村陽介を見るために着いてきたようなものなんだから。
 両親がゴールデンウィークに叔父の所に行く、というのは聞いていたけど、別行動だと考えていた。二人は休みの日でも大抵仕事をしているから、連休いっぱいあっちにいるつもりのオレとは予定が合わないと思っていたから。
 なのに、この行動力のありすぎる母親は、今朝になって急に、自分も共に行くと言い出した。父親が来るのは明後日だ。両親が揃うまでの間、仲間とめいっぱい遊んで、陽介と思う存分いちゃつこうと企んでいたオレの脳内計画は、見事に崩れ去った。
 普段は息子の交友関係に過干渉するような、面倒臭い親ではないが、今回は介入してくる理由がある。陽介だ。
 オレは、夢を夢で終わらせたくはない。だから正直に、稲羽で彼女ができたこと、大学生になったら同棲して、将来は結婚したいという意思を、帰国早々両親に打ち明けた。驚きはされたし、諭されもしたが、馬鹿にはされなかった。そういう時、この親の子供でよかったと思う。
 母親としては、息子がそこまで言う相手を見たいと思うのは当たり前だろう。まだまだ実感は沸かないが、結婚、なんて単語を出してしまった以上、オレと陽介の間だけの問題では済まされない。互いの家がどうしても絡んで来る。
 今回の稲羽訪問では、うちの両親は花村家へ挨拶には行かない。オレ達が受験を終えて、その時点でもまだ同棲の意思があれば、正式に両家顔合わせをするという形で落ち着いている。でも、親としては息子の彼女を少しでも早く見てみたいものなんだろう。オレはまだ親になったことはないけど、もし菜々子に彼氏ができたら、あの子にふさわしい男かどうか自分の目で見定めないと気が済まない。きっとそんな心境なのだと思う。つまり、仕方がないのだ。
 その辺りは陽介も理解してくれていて、今朝電話で母親も一緒なのを伝えると、驚愕はしたが覚悟を決めてくれた。きっと今頃、天城あたりに、服が決まらないだとか、どんな挨拶をすればいいとか泣き付いているだろう。申し訳ない。でも、オレのためにいっぱいいっぱいになってくれている陽介を想像すると、幸せになる。
 ちなみに、母とは趣味も似ているので、陽介が受け入れられないという心配はまず、ない。そもそも、あんなに可愛くて、まっすぐで、気遣いもできる人間を嫌える者がいるはずないだろう。もしいたら、オレは全力でそいつを叱る準備はできている
「…あんた、ほんと、だらしない顔になったわね。折角格好よく産んであげたのに。また陽ちゃんのこと、考えてるんでしょ」
母親の呆れ声に、オレは慌てて意識を戻した。陽介は先日、戸籍上の名前を「陽」に修正している。「陽介」はあだ名だと親には説明しておいた。いくらあだ名だと言っても、女の子に男の子の名前を付けるだなんて! と怒られたが、オレや仲間達にとっては、やっぱり陽介は陽介だから、仕方がない。
 『――間もなく、沖奈、沖奈。終点です。どなた様もお忘れ物のないよう、ご準備ください。沖奈駅からの乗り換えをご案内致します。八十稲羽方面――…』
アナウンスによって会話が中断され、オレ達は無言で降りる準備を始めた。あと三十分後くらいには、八十稲羽に着く。そこには遼太郎さんと菜々子、それに仲間達が出迎えに来てくれているはずだ。一ヶ月と少しぶりの再会に、期待と不安を胸に抱いて、オレはゆるやかに流れ、やがて止まる景色を眺めていた。

 (もうすぐ、会える)
手を伸ばしても触れられない距離が、もどかしい。電話でしか声が聞けないのが、切ない。いつだって、心が離れていないか、忘れられたりしていないか、怖くなる。でも、まだ子供のオレ達は、諦めて受け入れるしかない。
 共にいられる条件が、年を重ねることだというのなら。オレは今すぐ、大人になりたい。




【夢みたものは】

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