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陽介と中華

過去のweb拍手お礼小説サルベージです。
食べ物シリーズ(とか言いながら2回しか続かなかった…そしてもう一つは行方不明になってしまったため掲載できず…)です。物を食べる描写が上手い書き手になりたいと常々思っています。

 

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店内に染み付いた食物油の匂いは、空腹時には食欲をより掻き立て、満腹時には胃もたれを倍増させる。商店街で唯一と言っていいほど流行っている愛家のテーブル席に座り、自称特別捜査隊のリーダーとその相棒は遅めの昼食を採ろうとし ていた。
「うーん、どれにしよっかなー…」
陽介は年季の入ったメニューを手に真剣な顔をしている。運動部の仲間と共に訪れる機会の多い孝介はある程度食べるものが決まっているので、水を飲みながら陽介が決めるのをのんびりと待った。
「よし!じゃあ俺、五目焼きそばとギョーザのセットで!」
「じゃあオレはチャーシューメンと麻婆丼」
当然のように主食を二つ三つ頼む孝介に最初こそ驚いたものだが、今となってはそれが普通だと思うようになっていた。逆に常人程度の量しか食べていないと、体調が悪いのかと不安になるくらいである。孝介は見た目こそ細いがしっかりと筋肉がついており、密度の濃い生活を送っているため運動量もかなり多い。あの体を維持するには相応のエネルギーが必要なのだろう。つい1時間ほど前まで自分を組み敷いていたしなやかな体を思い出し、陽介は少し赤くなった。
背丈こそあまり違わないが、自分と孝介では体つきが全然違う。同じ男のはずなのに、自分を易々と抱え込み、キスと巧みな指先で力を奪って、壊れるのではないかと思うほど揺さぶり、追い詰めるのだ。昨晩から孝介を受け入れ続けた尻と腰が鈍く痛む。動くのもだるかったが空腹も耐えがたかったが、堂島家には残念ながらろくな食材がなかったため、こうして商店街まで出てきた訳である。
オーダーを終え、陽介は水を飲みながら向かいに座る孝介をちらりと見た。涼しげなその顔に、自分を貪っていた時の獣じみた情欲は欠片も感じられない。そこにいるのは誰もに慕われる「月森孝介」だ。それが少し悔しくて、陽介は机の下で軽く足を蹴ってやった。
「いてっ。…陽介、ご機嫌斜め?」
「別にー」
視線を逸らしても、孝介が薄く笑みを浮かべて自分を見ているのが分かる。益々悔しくなり顔を背けると、膝に暖かいものが触れた。孝介の手だ。
「足りなかったの?あんなにいっぱい出たし注ぎ込んだのに?」
天気の話でもするような気安さで、しかしとんでもない内容を孝介はさらりと口にする。一瞬送れて顔を真っ赤にした陽介の反論を封じるかのように、孝介の手は行為の最中の愛撫のようなタッチで足を撫で始めた。ジーンズの分厚い布地越しでも、慣らされた体は反応してしまう。僅かに跳ねた肌を見逃さず、孝介は次第に手の動きを大胆にしながら続けた。
「食べたらもう一回、したいな。今日はバイトないんだろう?意地悪したお詫びにうんとやさしくするから」
「…ヤだ。もう無理。今日はゆっくりしたい」
一緒にいたいけど、そういうことはしたくない。言外にその気持ちを伝えると、孝介はあっさり「分かった」と引き下がる。大事にされているなぁと感じ、陽介の心は温かくなった。
そうこうしているうちに、熱々の中華が食欲をそそる匂いを撒き散らしながら運ばれてくる。先程までの甘いムードはどこへやら、食べ盛りの男子高校生二人は目の前の食べ物に集中した。
「うっめー!この濃い味がたまんねー!」
たっぷりの野菜と、幾許かの肉と海鮮が絡んだ太い麺をすすり、陽介は言う。五目焼きそばは餡がカバーとなってなかなか冷めない。はふはふと息を吐きながら、それでも食べる手は止まらない。体が欲しがるままに食物を貪る。湯気が立ち上る料理は視覚だけで美味しさを倍増させるから不思議だ。
続いて絶妙の焼き色をつけられた餃子をひとつ摘み、タレを付けて口の中に放り込む。熱々の肉汁が口の中に広がり、陽介はとても幸せな気分になった。
陽介が呟いている間にも、孝介は淡々と食事を続けている。彼の食べ方は綺麗だ。がっつく、ということもなく、かき込む、ということもなく、ただ冷静に、迷うことなく箸を進める。どんぶりを覆っていた秘伝のタレで煮込まれた何枚ものチャーチューが、その下に敷かれたネギが、もやしが、瞬く間に彼の口の中へ運ばれ、咀嚼され、嚥下されてゆく。麺を半分くらい食べたところで、孝介は手をつけずにいた麻婆丼に着手した。やはり餡のおかげであまり冷めていないそれをレンゲで掬い、整った形の口を開けて飲み込む。油でてらてらと濡れた唇の中に見えた、赤い舌がみょうに卑猥だった。
(あの舌で、舐められて、イかされたんだ)
濡れた唇はキスの後とよく似ている。連鎖的に行為を思い出し、陽介の体は熱くなった。
「…陽介?そんなに見つめられると食べにくいんだけど」
「な、なんでもねーよ!」
食べる?と差し出されたレンゲ、その上に載せられた麻婆豆腐とご飯をありがたく頂戴し、お返しに餃子を一つ進呈する。箸で摘まんで口に寄せてやると、孝介は雛鳥みたいに無防備に口を開けて、嬉しそうに飲み込んだ。その様を可愛いと思ってしまう自分は相当この男にやられていると、陽介は自覚している。
「なぁ」
「ん?」
ちゅるり、と最後の麺を吸い込み、スープを堪能していた孝介の顔を見ず、陽介は呼びかける。
「……あんまり、ひどくしないんなら、いーよ」
孝介は軽く眼を見開いた後、にこり、と心底嬉しそうに笑った。



END

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