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起点Aから空への距離・6

※陽介女体化(後天)注意
やさぐれて更新してみました。体の変化についてゆけない陽介に、更なる災難が。
なんていうかこういう話を真面目に書いている自分がちょっぴりしょっぱくなる瞬間があります…。でもいいんだ、すきだから!
誰か私のためにバトルあり恋愛あり笑いあり涙ありのにょたを書いてくれないだろうか。にょた村はもっと市民権を得てもいいと思うのですよ!
 

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晴れと小雨を繰り返しながら、日々は表面上は恙無く過ぎてゆく。
陽介の苦悩も葛藤も、特別捜査隊の尽力も嘲笑うかのように、死神のようなシャドウを見つけることができないまま時間は流れ、気がつけば一週間ほどが過ぎていた。慣れというのは恐ろしいもので、最初こそ違和感を感じていた陽介の姿にも声にも、既に違和感を感じなくなり始めている。彼女は気丈に振舞ってはいるが、花が萎れるように日に日に元気がなくなってゆくのが見て取れ、考介は胸が痛くなった。
今日は金曜日。週末に想いを馳せる学生達と教師達で学校の空気は少し浮ついているが、特別捜査隊二年のメンバが集う屋上だけは、そんな空気とは無縁だった。
「今日もテレビの中、行く?」
人の多い所を避けたがる陽介に合わせ、最近は皆で屋上で昼食を摂っている。今日は陽介を元気付けようと考介が作ってきた肉じゃが弁当だ。雪子に尋ねられ考介は逡巡した。誰も文句は言わないが、ほぼ連日テレビの中に潜っているため、疲労も私生活でやるべき事も溜まり始めている。そろそろ休みを入れた方がよさそうだが、陽介の心境を考えると少しでも手がかりを掴みたかった。例え今日も徒労に終わるとしても。
しかし当の陽介が静かに首を振る。
「今日はやめとこうぜ。ここんとこずっと潜りっぱなしだったし。…ゴメンな、俺のせいで」
自分のために他のメンバの生活を犠牲にしていることを心苦しく思っていたのだろう、すまなさそうに謝られ雪子は慌てて首を振った。
「気にしないで。月森くんも言ってたように、私達皆の問題だもの」
「そうだよ。っていうか花村、顔色悪いよ?具合悪いの?」
好物であるはずの肉じゃがを半分以上残したまま箸を止めている陽介の顔を、千枝が心配そうに覗き込む。形のよい眉は軽く潜められ、顔色はいつもより白かった。陽介はちいさな声で「はらがいたい」と呟く。
「冷えたのか?陽介、とりあえずこれ着てて」
肌寒い風を気にもせず考介は自身の上着を脱ぎ、陽介に着せる。服のサイズは殆ど変わらなかったはずなのに、彼の上着はすっぽりと陽介を覆ってしまった。じんわりと伝わる温もりに少しだけ力を抜きつつも、陽介の顔は益々険しくなる。
(こんなに、違ってるんだ)
自分が女になってからというもの、孝介は関係を隠すことを止めたため周りの目を気にしなくはなったが、陽介への態度は今までとあまり変わらない。男同士の時のよう遠慮なく手も口も出る。変わったのは陽介の体と、孝介の行為を受け取る心だ。以前よりも守られていると、甘やかされていると感じる。そして、それを享受してしまいそうになる。体に引きずられて、心まで本当の女になり始めているのだろうか――浮かんだ考えにぞっとし、陽介は慌てて首を振った。
「陽介?」
「や、なんでもない。いいよ、お前が風邪ひいちゃうだろ」
「そんなヤワな体してないよ。…熱、ちょっとあるな」
考介は膝に乗せられた弁当箱を退かし、断りもなしに額をくっつける。至近距離にある長い睫と整った顔をいつまで経っても見慣れることができず、陽介はどきりとした。
「リーダー、ホントに花村のお母さんみたいだね」
「お母さんにしては、大分邪な感じがするけど」
千枝と雪子がひそひそ声で会話を交わす間にも、陽介の体調は降下してゆき、段々と前衛姿勢になってくる。
「花村くん、本当に大丈夫?お腹、どう痛いの?」
雪子の問いに、陽介は脂汗をかきながら切れ切れに答えた。彼女は無意識のうちに、下腹部を庇うように腕を組んでいる。
「なんか…下っ腹がすげー痛い。この辺が内側からっ張られてるみてぇ。あと、頭もガンガンするし気持ち悪ィ…」
「――あ」
「もしかして」
陽介の深刻に思い当たる症例が浮かんだ二人は顔を見合わせる。とうとうその場にしゃがみ込んだ陽介を、孝介は抱き上げて保健室へ連行しようとしたが、千枝に学ランの背中を掴まれ止められた。
「ストップ、リーダー!…あのさ、花村と話したいんだけど、ちょっとだけ向こう行っててくれないかな?」
「でも、陽介を保健室に連れて行かないと」
困ったように言われ、どう話していいか千枝が言葉を詰まらせると、後ろから雪子のフォローが入る。
「月森くん。あのね、花村くんは多分、病気って訳じゃなくて、その…」
口籠る雪子に、孝介はややあってから彼女達の言いたいことを察した。陽介をそっと下ろすと、「終わったら声かけて」と言って屋上のドアを潜ってしまう。置いて行かれた陽介は不安そうに雪子達を見た。千枝がこほんと咳払いをする。
「えーと、花村。女の子の日って言って、分かる?」
見る見る間に顔を真っ青にした陽介の顔が、そのまま回答だった。しかし認めたくないのか彼女はいやいやをするように首を振る。あやすように、諭すように、雪子がやわらかな口調で告げた。
「花村くんの症状、生理痛だと思う。体が女の人になっちゃったなら、自然と来るはずだよ」
「……………………いや、だって、それじゃ……」
ふらり、と傾ぐ体を雪子と千枝は二人がかりで支える。
「ちょ、花村くん!しっかり!」
「リーダー!来て!!」
勢いよく扉を開けて現れたリーダーは、有無を言わさず陽介を抱え上げると今度こそ保健室へ直行した。モーセのように割れる人波をぼんやりと眺めながら、陽介は自分の中で何かが変わりつつあるのを確かに感じていた。




結局、陽介は早退し、その日の探索はお流れとなった。
久々に体が明いたので学童のアルバイトに顔を出し、菜々子と夕飯を作って団欒を楽しんだ孝介は、部屋に戻って携帯を開く。時刻は22時過ぎ、大概の高校生ならまだ起きている時間だ。
発信履歴の一番上にある名前にカーソルを当て、通話ボタンを押す。コール音が何回か続いた後、低い、けれども以前よりはずっと高い声で「もしもし」と聞こえた。
「陽介、大丈夫?」
『あんまり…ダイジョウブじゃ、ないかも。女って、マジすげぇ…毎月この痛みと戦ってるなんて、本気で尊敬するわ』
テレビの中でシャドウに痛恨の一撃を食らっても食いしばる陽介だが、生理痛には勝てないらしい。苦笑の気配が伝わったのか、受話器の向こうからは抗議の声が聞こえてきた。
『お前もいっぺん女になってみろ!血ィ出るんだぞ!真っ赤なんだぞ!!すげー怖いし痛いし大変なんだからな?!』
「ごめん、馬鹿にした訳じゃないんだ。その…あんまりにも陽介が陽介らしくて」
謝られて多少は溜飲が下がったのか、陽介は少し落ち着いた口調に戻った。
『んだよ、それ。まぁ、明日が土曜でよかったよ。薬のおかげで痛みは大分マシになったけど、学校行くのはしんどかったし。…なぁ』
陽介は一度言葉を切ると、一言一言を押し出すように呟いた。
『俺、このまま…ホントに、女になっちゃうのか、な?』
気丈に振る舞い続けてきた陽介が漏らした嘆きに、ひゅ、と孝介は息を飲んだ。気休めに否定をすることは容易いが、元に戻れる保証などどこにもない。安直な慰めはあまりにも無責任な気がして孝介は言葉を探してしまう。何より、孝介自身が陽介に適当なことを言いたくなかった。人の心の機微に敏い陽介は困惑を感じ取ったのだろう、泣きそうな声で言い重ねた。
『悪ィ。お前だって分からないよな。気にしなくていいから』
「――気になるよ。陽介のことなら、なんだって」
そうしてまた自分の気持ちを押し込める陽介に、憤りに近い切なさを覚えて孝介は強い口調で返す。顔は見えないが泣きそうな顔をしているに決まっているのだ。いてもたってもいられなくなり、孝介はジャケットを掴むといささか乱暴にドアを開けた。
「陽介。今から行ってもいい?」
『!いや、いいって!つか来んな。もう遅いし、菜々子ちゃんが一人になっちゃうだろ?』
最近は孝介は毎日のようにテレビの中に潜っており、遼太郎の帰りも遅かったため、菜々子は大分寂しい思いをしていたらしい。健気に「だいじょうぶ」と笑いながらも傍を離れようとしなかった幼い妹の姿に孝介は躊躇する。
「でも」
『でもも何もないの!…今日はホントにいいからさ、明日見舞いに来てくれよ』
重ねて言われ、孝介は渋々承諾する。明日の朝に行く約束を取り付け、二言三言言葉を交わした後、おやすみの挨拶をして電話を切った。
ジャケットを放り投げ、ソファに乱暴に腰を下ろし、孝介は大きな溜息を吐く。
(今すぐ、抱き締めてやりたいのに)
細くしなやかな体をすっぽりと腕の中に包み、やわらかなハニーブラウンの髪に指を入れて思い切り撫でてやりたい。大丈夫だと軽々しく言うことはできないから、せめて近くにいて温もりを与えたい。たった15分の距離でももどかしい。3月に訪れる別れの際、果たして自分は平静でいられるだろうか――孝介は刻々と迫っている別離をあえて気付かなかったことにして、もう一度溜息を吐いた。




「――ヨースケ、センセイと話してたクマ?」
髪から雫を滴らせたクマが、ぺたぺたと足音を立てながら近付いてくる。ベットに伏していた陽介はのろのろと体を起こすと、首に巻いてあったタオルを取ってクマの頭を拭いてやった。
「もー、乱暴クマね!もっとやさしくしてちょーだい!…センセイ、何て言ってたクマ?」
「明日の朝、様子見に来るって。お前、明日は遅番だっけ」
今の陽介はとても働ける状態ではないのでアルバイトは休んでおり、クマをはじめ周りの負担が増している。申し訳ないと思いつつも、職場復帰はまだ遠そうだ。せめてもと労いを込めて美容師のように頭をマッサージしてやると、クマは気持ちよさそうに目を細めた。
「はー、極楽クマ…」
「お前、ホントおやじくさいよな。あ、そうだ。今日は布団で寝てくれよ」
一週間ほど前の夜、陽介が夢遊病のような状態になってから、クマはずっと同じベッドで寝ている。そのおかげかどうかは分からないが、あれ以来夜中に目が覚めることはなかった。広さや寝心地は特に問題ないのだが、今日ばかりは自分からする血のにおいが気になって同衾はしたくなかった。女子達にそれとなく言い聞かされたのだろう、クマは余計なことは言わず「仕方ないクマね」と客用布団の準備を始める。
「ヨースケ。クマ、おつかれだからもう寝ちゃうけど、何かあったらエンリョなく起こすクマよ?」
「ん。ありがとな、おやすみ」
疲れているというのは本当なのだろう、クマはすぐに健やかな寝息を始める。陽介はそっと電気を消すと、今日は一人きりのベッドに潜り込んだ。下腹部の鈍痛と、引き攣れるような痛みに自然と膝を抱えるような形で横向きになる。
「ちくしょう…いてぇ」
呟きと共に涙が零れた。何故、どうして自分だけ――仲間達の前では決して口に出さないように努めてきたが、そろそろ限界かもしれない。陽介は息を大きく吐き、懸命に嗚咽を堪える。一度寝入ったクマは余程のことがない限り起きないのだけが救いだった。
カーテンの隙間から覗く月は満月。いやに丸々とした月は何かを企んでいるようだった。




**********




『おいで』
呼ばれている。名を呼ばれた訳ではないのに、その声は自分に、自分だけに向けられているのが分かる。
『こっちに、おいで』
男なのか女なのか、老いているのか若いのかも分からない、不気味なほど静かな声。だが何故か抗い難い力を持っていて、陽介は霞がかった視界の中を、吸い寄せられるように声のする方へと向かってゆく。刺すような夜の空気も、冷たいフローリングの床の感触も感じない。ふわりふわりと、まるで羽が生えたかのように体が軽い。楽しくなって陽介は笑った。
(空、飛ぶのって、こんな感じなのかな)
今ならどこへでも行けそうな気がする。肉の壁を取り払い、心のままにどこへでも。何か大切なものを忘れているような気がするが、それよりも好奇心が勝った。飛ぼうと思ったその瞬間、腕を何かに掴まれ陽介は動きを止める。

『つかまえ た』

無邪気な声が耳元で聞こえ、それと同時に彼女の意識は途絶えた。



「ん…」
妙な寝心地の悪さを感じ、クマは眠い目を擦りながら体を起こした。まだ夜中のはずなのに、部屋は何故かほんのりと明るい。
隣のベッドはもぬけの空だった。嫌な予感がしてテレビの方を見れば、そこには陽介の後ろ姿があった。しかし、彼女の体にはテレビから生えた黒い帯が、触手のように絡み付いている。古びた漆黒の布は死神の衣に酷似していた。
「!ヨースケ!!!」
クマは布団を跳ね飛ばし、陽介の体にしがみ付く。徐々に彼女の体を引き込もうとしている帯を力いっぱい引っ張るが、伸びるだけで破れはしなかった。
「ヨースケ、起きて、ヨースケ!!」
陽介の瞳は開いているが、そのヘーゼルの瞳はガラス玉のように冷たく、ここではないどこかを見つめている。いくら揺すっても、叩いても、反応を返してはくれない。そうこうしているうちに、陽介の手がテレビの中に沈み込んだ。男の時なら体が閊えてしまいそうだが、今の彼女ならぎりぎり通り抜けられるくらいの大きさはある。クマは一か八か自分の手を画面に突っ込み、己の仮面の名を呼んだ。
「キントキドウジ!!!」
画面の中で凍てつく吹雪が吹き荒れる。遠くから耳障りな悲鳴が聞こえたかと思うと、陽介を縛っていた帯が掻き消えた。どさり、と音を立てて陽介がその場に崩れ落ちる。
「よ、よかったクマ…!」
安堵と、今更ながら襲ってきた恐怖にクマは思わずへたり込んだ。膝立ちで陽介の傍により、彼女の名前を呼んで頬を軽く叩くが、反応がない。
「…ヨースケ?」
ゆさゆさと体を揺らし、先程より強めに叩いても、彼女の閉じられた瞼が開くことはなかった。クマは半泣きで陽介に買ってもらった携帯電話を取り出し、縋るように彼の名前が表示された番号をコールする。繋がるまでの数秒が、今のクマには数十分にも感じられた。
『…もしもし?』
「セ、センセイ!!ヨースケが、ヨースケが…!!」




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