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起点Aから空への距離・5

※陽介女体化(後天)注意
「陽介。その体でどれくらい戦えるか、見せて。足手纏いになるようなら、戦闘には参加させられない」
という訳でセンセイとヨースケが仕合います。戦闘シーンは難しいです…。
にょたならではのやりたいことをいっぱい詰め込み過ぎてすみません。りせちー大好きだよ!

 

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「――だから、オレと陽介が付き合ってるのは、ふりじゃなくて本当。もっと言えば、陽介が男の時から、オレの特別は陽介だけだったから」

仁王立ちする女子四人を前に、陽介は何故かベンチの上で正座を強いられていた。
朝の出来事はあっという間に学校中に知れ渡り、孝介の思惑通りに二人は付き合っていると認定された。クラスメイトからはからかわれ、やっかまれ、女子高生一日目の陽介は生きた心地がしなかった。雪子や千枝が上手くフォローしてくれなければ早速ボロが出るところだった。尽力してくれた彼女達にはきちんと自分の口から事実を――カモフラージュではなく、本当に好き合って付き合っている――ことを伝えたくて、意を決して告白をしたところであった。
ジュネスのフードコートは相変わらず自分達以外の人影はまばらで、その僅かな客も何事かと好奇の目でこちらを見ている。四対の視線の威圧感に陽介は冷汗が止まらない。横に座る孝介は対照的に、いやに堂々としている。彼は言葉こそ殊勝だが、態度は明らかに非を詫びるものではなかった。
「ふーん」
「へー」
「そうなんだー」
「そうだったんですか」
女子の目が剣呑になったのを陽介が見逃さなかった。彼女達の誰もが月森孝介を好きになり、そして想いを告げ、叶わなかったことを自分は知っている。泣いているのを見たことも、慰めたこともある。大切な仲間である彼女達が傷付いたことに罪悪感を覚えながらも、自分は関係を隠したままで孝介を独占していた。卑怯だと罵られても仕方のないことだ。まして、その時点では陽介はまだ男だった。不純だと、道徳に反すると批難されても返す言葉もない。だから陽介は謝ることしかできなかった。
「本っっっっっっっ当に、すみませんでした!!!」
がばり、と頭を下げた陽介に、彼女達は何も言葉もかけてはくれない。嫌われたと、見捨てられたと、じわりと陽介の眦に涙が滲む。
(仕方ない、よな。俺がこんなになっても天城達、本当によくしてくれたのに、俺はそのずっと前からあいつらに嘘、吐いてたんだから…)
許してはもらえなくても、せめて謝意だけは受け取って欲しくて、陽介は意を決して顔を上げる。しかし予想に反して見えたのは、くすくすと可笑しそうに笑う女性陣の姿だった。
「ぷっ…花村くん、おかしい…!」
「あはは…!アンタ、ホントに中身は男のまんまなんだね」
「すみません、つい意地悪をしたくなってしまいました」
「ごめんねセンパイ、だってやっぱり悔しかったんだもん!でももう、いいよ。センパイ達も悩んだんだろうし…二人が特別だっていうの、なんとなく分かってたから」
微笑む彼女達はとても綺麗だった。自分では何年かかっても、彼女達のようにやさしく笑えないだろうと思うくらいに。許してもらえたことに、受け入れてもらえたことに安堵して、申し訳なくて、感情の整理がつかなくなった陽介は最近すっかり緩くなってしまった涙腺をまた崩す。
「ごめっ、ホント、ごめん。お前らにウソ、つきたくなかった。けど、やっぱり俺達、男同士だし、でもすきだし、どうしていいか分かんなくて、ホントごめんな」
涙を滲ませながら陽介は繰り返し繰り返し謝る。りせがお姉さんぶって完二から奪ったハンカチを顔にあててやりながら、「だからもういいってば!」と言葉を止めた。雪子がその細くて綺麗な指で陽介の髪をやさしく撫でる。
「話してくれて、ありがとう。私、月森くんも、花村くんも、大切な仲間だと思ってる。好きな人達には幸せになって欲しいから、応援するよ」
「天城…」
そのまま女子に抱き付きそうな勢いの陽介を、横から伸びてきた力強い腕が浚った。胸の中に納まった細くやわらかな体を満足そうに抱き締め、孝介は笑う。
「ありがとう。みんな、本当にいい女だよ」
「うわ、その姿勢でそのセリフを言いますか…」
「独占欲丸出しですね。あそこまであからさまだと、なんだか却って清々しいくらいです」
千枝と直斗がひそひそ声で交わすのが聞こえたが、仲間の了解を得た彼に怖いものなどなかった。「放せ!」と暴れる陽介を無視して、先程から事態の収束を遠巻きに見ていたクマと完二を呼び寄せる。
「えーっと、センパイ達、オメデトウゴザイマス?」
「ヨースケ、センセイのお嫁さんになるクマね!」
話が飛躍しすぎている二人に、陽介は顔を真っ赤にして反論した。
「アホ!話が飛躍しすぎるわ!!つか俺、一生このままって訳ねーだろ?!今から元に戻る方法を探しに行くんだよッ」
「あ、そうだった」
雪子が今思い出したかのように呟く。陽介の叫びが空しく響く中、一同はいつものように家電売り場へと向かったのであった。



「っ、と」
入口広場への着地の際、バランスを崩した陽介の体を孝介の腕がさり気なく支えた。「サンキュ」と礼を述べて陽介はそっと体を離すが、心なしか顔色が悪い気がする。
「陽介、大丈夫?」
「ん、ヘイキ。テレビん中久し振りだからかも。…で、どうする?」
陽介を元に戻すには、あの死神のようなシャドウを捕まえてアナライズをする必要があるという結論に達している。いつものように武器を取り出した陽介を片手で制し、孝介は数歩後ろに下がると、自らも剣を構えた。
「?孝介?」
「陽介。その体でどれくらい戦えるか、見せて。足手纏いになるようなら、戦闘には参加させられない」
リーダーとしての厳しい言葉に皆が瞠目する。しかし陽介は挑発的に笑うと、同じように数歩下がって双剣を構えた。華奢な手の中で銀色の刃が鮮やかに輝く。
「オーケー、リーダー。完二、合図頼む」
二人の視界には既に互いしか入っていない。振り向きもせずに言われ、完二は軽く溜息を吐いた。
「二人とも、ほどほどにしてくださいよ。――始めッ!」
声と共に陽介が踏み出した。その瞬発力と俊敏さは男の時と殆ど変わっていない。スカートの裾が揺れるのも気にせず、風のような軽やかな動きで孝介の懐に飛び込んで、左右から一撃ずつを放つ。しかし彼女の動きを見越していたかのように、孝介は長剣で斬撃を受け止めた。鋭い剣劇の音が入口広場に響き渡る。陽介は刃を滑らせ、二度、三度と確かめるように打ち込むが、軌跡は見切られ尽く孝介に防がれてしまう。振り上げた腕が胸に当たるのが鬱陶しい。彼を負かすのが目的ではなく力を見るための手合わせだが、イメージ通りに動かない体に陽介は苛立ちを感じていた。
(くそっ、女って、こんなに力が弱いのかよ!)
刃を交わしたままぎりぎりと押し合うが、すぐに力負けした陽介が弾き返されてしまう。追撃を恐れて後ろへ跳んだが、孝介は深追いをしてはこない。陽介は舌打ちした。
自分でも攻撃が軽いことは嫌でも分かった。孝介がかなり手加減をしていることも。目の前の男を見据えつつ、くるり、と剣を回しながら陽介は考える。
(今までと同じじゃ、ダメだ)
力は弱くなり、スタミナも落ちている。早くも少し息があがり始めた自分とは違い、孝介は仕合う前から全く変わらず平然としている。速さは然程変わらないが、能力は下がっただけで上がったものが見当たらない。強いて言えば縮んだ分、体が軽くなって小回りが利くようになったことくらいだろう。
(考えろ、俺。置いていかれるなんて冗談じゃねーぞ!)
視線は相手から逸らさないまま、陽介は眉間に力を込めて意識を集中する。一瞬だけ現れた青いペルソナカードは陽介が現出を望まなかったので、ふわりと風を起して消えた。伝わってきた高天原の英雄の波動は以前よりも濃い。ふと思いついたことがあり、陽介は靴の感触を確かめるように数度つま先を地面に打ち付けると、とん!と地面を蹴って跳躍した。
「――来い、スサノオっ!」
足元から生まれた風が陽介に疾風の加護を与える。ふわり、とまるで鳥が飛翔するかのように、彼女の体が浮いたように見えた。次の瞬間、皆の視界から陽介の姿が消えた。
(?!いない?)
瞬きにも満たない間の後、すぐ傍から殺気を感じ、孝介は眼前に迫った刃を直感だけで受け止める。そこには一瞬のうちに間合いを詰めた陽介がいた。下段から左腕での切り上げ。なんとか体を反らして交わすが、次いで溜めていた右での薙ぎ払いがくる。スピードが先程よりも格段に上がっていることに孝介は気付いた。更に加速を上手く剣に乗せ、一撃一撃の重みが増している。僅かの間に陽介は女の体での戦い方を見出したらしい。
(流石、オレの陽介)
「もういっちょ、だ!!」
くるり、と体を反転させ、陽介は連続して攻撃を放つ。寸分違わず同じ場所を突かれ、受け止めことしたもののはしった痺れに孝介は一歩退いた。その隙を見逃さず、再び陽介が地面を蹴る。彼女の姿が掻き消える。
――どくん。
突如として胸を襲った得体の知れない不安に、孝介は手合わせの最中であることも忘れて硬直した。後ろに回り込んだ陽介が、すらりと伸びた綺麗な足を、細いが健康的に肉のついた太股を、際どいところまで惜し気もなくスカートから覗かせ渾身の一撃を放つ。しかし避けようとも防ごうともしない相棒に、彼女はすんでのところで手首を返すことに成功した。双剣の刃ではなく柄が孝介の左肩に叩き込まれる。肉を打つ不快な感触が手に伝わってきた。
「ぐっ…!」
「!バカ野郎!何呆けてんだよ?!」
孝介は呻き声をあげて無様に尻もちを着いた。陽介は武器を放り出すと慌てて孝介の横に膝を吐き、カッターシャツを引っ張って怪我の具合を確認する。傷は無いがかなり腫れていた。回復のために喚んだスサノオが注いでくれる燐光を受けながら、孝介はやわらかなふくらみを持つ胸が規則正しく上下するのをぼんやりと眺めていた。やがて役目を果たした神の依代は中空に掻き消える。
「…もう、痛くないか?」
大きな瞳で心配そうに尋ねられ、孝介は小さく頷いた。あからさまにほっとした表情を浮かべる陽介のハニーブラウンを優しく撫でながら、孝介は動揺を隠して言う。
「ああ。ごめん、陽介が今日は黄色だったから、ちょっと油断した」
「は?黄色?」
頭上に疑問符を浮かべて首を傾げた陽介だったが、数十秒後に孝介の言葉の意図を理解し、スカートを押さえ顔を真っ赤にして怒鳴りつける。
「み、見たのかよ!!お前ほんっと油断ならねーな!」
上手く矛先を逸らせたことにそっと息を吐きながら、孝介は淡々と言い返す。
「だって見えたんだから仕方ない。戦闘には連れて行くけど、スパッツ履かなきゃダメだからな。お腹冷えるし、見えちゃうし。不安でオレが戦えない」
「お前は俺のオカンか!」
「彼氏です。あ、でも外では脱いで欲しいな。陽介の綺麗な足を隠すのは勿体ない」
「…っ、もう黙ってろ!口開くな!!」
肩を怒らせて立ち上がった陽介は、孝介を置いて仲間達の元へ去ろうとする。余分な肉のない、肩甲骨が翼の形に浮き出た背中にまた不安がよぎり、孝介は咄嗟に腕を掴んで陽介を引き留めていた。はっとしたように振り返った彼女は、不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「?どうしたんだよ」
自分の顔が余りにも心細そうだったのか、陽介は手を振り払うことはせず、掴まれた腕を逆に掴んで力を込め引っ張り起こしてくれた。繋がっている。彼女はここにいる。確かな温もりにようやく孝介は少しだけ安堵を覚え、微笑むことができた。
「なんでも、ないよ」

(陽介がどこかに飛んで行ってしまいそうで怖かったなんて、言えない)

根拠のない妄想だと理性の上では分かっている。けれども、彼女が自分の手の届かない場所へ行ってしまいそうな予感がして、孝介は不安を払拭することができなかった。




結局、その日は死神シャドウと遭遇することはなく、気配を掴むこともできないまま終了となった。
「やっぱ、そう簡単にはいかないか」
入口広場まで戻り、今日の探索結果を整理し終えた後、陽介は苦笑を浮かべた。内心でどれほど焦り、落胆しているかを計ることはできないが、その声にも表情にも覇気がない。萎れてしまった陽介の笑顔を取り戻そうと、努めて明るく雪子と千枝が言う。
「また明日、来よう?」
「大丈夫、きっと見つかるって!」
こくり、とあどけない仕草で頷く陽介の姿はひどく庇護欲を掻き立てた。思わず相好を崩した完二の脇腹をりせがつつく。
「バカンジ!殺されるわよ!」
「う、うるせー!分かってら!」
二人のやりとりを面白そうに傍観していた直斗だったが、ふと思い出したように陽介に尋ねる。
「花村先輩。テレビの中に来たことで、何か体に変調は感じませんか?」
「…いや、特には。強いて言うなら、なんとなく落ち着かないっていうか…ま、俺が焦ってるせいだと思うけど」
眉間に皺を寄せた陽介の頭に軽く手を置き、孝介が諭すように言う。
「しばらくはテレビの中に潜って手がかりを探そう。皆も忙しいとは思うけど、できるだけ一緒に来てもらえると嬉しい。早く陽介を元に戻してやりたい」
孝介の言葉に反射的に口を開きかけたりせだったが、咄嗟にそれが口に出してはいけないことであるのに気付き、慌てて返事をすり替える。「もちろん!」と彼女が言えば、気のいい仲間達も口々に賛同し、士気を保ったままテレビの外へと帰還を始める。いつものようにしんがりを務める孝介は、常なら一番手か二番手で外へ出るクマが未だ残っているのを見て小首を傾げた。
「どうした?」
「センセイ…」
広場にはもうクマと孝介しかいない。いくつものスポットライトに照らされながら、クマはおずおずと口を開く。
「一昨日の夜、クマ、すごい嫌な気配がして目が覚めたの。そしたらヨースケが起きてるのに寝てるみたいな感じで、テレビの中に頭を突っ込もうとしてたんだクマ。クマが体を張って止めてあげたんだけど、ヨースケ、何にも覚えてないって言うクマよ。ヨースケから聞いてるクマ?」
「…いや、何も聞いてない」
初めて聞く事象に孝介の表情は自然と硬くなる。眉間に皺が寄っていたのだろう、クマが少し怯えたように「怒った?」と尋ねた。孝介は少し表情を和らげ、目の前のプラチナブロンドを撫でてやりながら首を振る。
「いや、クマには怒ってないよ。ありがとう、クマのおかげで陽介は助かったんだな」
大きな掌に撫でられ、クマは嬉しそうに顔を綻ばせた。しかしすぐに表情を曇らせる。
「センセイ。クマ、ちょっと怖い。ヨースケがどこかに行っちゃいそうで、怖いクマ…」
クマは人とは違う、嗅覚にも近い鋭い感覚を持っており、今まで幾度となく助けられてきた。クマの心配を杞憂だと笑うことは孝介にはできない。軽やかに飛び去って行く陽介の背中が脳裏に浮かび、胸が締め付けられるように痛む。自分をも安心させようと頭に置いた手に力を込め、孝介は力強く言う。
「陽介はどこにも行かせない。クマ、できるだけ陽介と一緒にいてくれるか?何か気付いたことがあったら、いつでもいいから連絡してくれ」
「分かったクマ!」
クマは抱えていた荷物を下ろしたかのような軽やかな足取りで、外へと繋がるテレビを潜る。最後にもう一度広場を見回して自身も帰ろうとした孝介だったが、背後から視線を感じて弾かれたように振り向く。しかしそこには誰もいなかった。びゅう、と一際強く吹いた風が、嘲笑う声のように聞こえた。


帰り道、星空を見上げながらりせは大きな溜息を吐いた。
「私、サイテーだ…」
あの時、思わず孝介に問おうとしてしまった。『花村センパイが男に戻って、本当にいいの?』と。
彼ら二人の絆が男女の境を越えたものだというのは感じている。陽介の体が女になり、世界もそう認識している今なら二人の中を阻むものは何もない。年齢の割には先を見据えているリーダーのことだ、りせの考えたことなど既に幾度も葛藤を繰り返しているだろう。けれども孝介は、少なくとも表面上は迷いなく陽介を元に戻してやりたいと言う。
(月森センパイ、本当に花村センパイのこと、すきなんだ)
これ以上ないほど自分に都合よく手に入ろうとしている宝物を、みすみす逃すなどりせにはできない。できないと思うと同時に、そこまで深く相手のことを思いやれる関係に憧憬を抱かずにはいられない。
(だから、センパイは、リーダーなんだよね)
「あーあ。恋、したいな!」
ツインテールが歩調に合わせてゆらゆらと揺れる。彼女の頭上では三日目の月が細く笑うように輝いていた。




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