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男の子とか、女の子とか・4月12日

※陽介女体化(先天)注意
過去のweb拍手お礼小説からのサルベージです。ついに先天的女体化まで初めてしまいましたorz 寛容さオカン級の方のみ読んでやってください!
このシリーズは他と主人公が違います。名前は「御堂漣(みどう れん)」です。よろしくお願いしますー

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御堂家には3人の魔女がいる。

一人は漣の母で、残る二人は母の妹だ。肉親の贔屓目抜きにしても、彼女達は美しく聡明で、また、そんじょそこらの男よりも漢気にも才能に溢れている。母は当然ながら既婚者だが、叔母達はまだ家庭を持っておらず、漣の家に居候、というか同居していた。叔母達は母よりも一回り近く年が離れていることもあり、漣にとっては年の離れた姉という感覚だ。
彼女達は揃いも揃って頭が切れ、楽しいことが大好きで、それぞれ方向性は違うものの一癖も二癖もある強かな女達である。その手にかかれば物事はまるで魔法のように、否応なしに彼女達の意図する方向へと運ばれてゆく。漣は生まれた時から魔女達の魔法にかけられ、教育という名の圧力を受けてきた。決して虐待や人格否定ではなく、寧ろ人並み以上の愛情を注いで育ててもらったとは思うのだが、その方向性がいささか極端かつ彼女達の趣味に偏り過ぎているのだ。

彼女達の「教育」により体に刻み込まれたことは、何よりも先ず彼女達への服従だった。
次いで女性には優しくすること、言葉遣いと立ち振る舞いをスマートにすること――つまり、「女にとって理想の男」であること。
例えテスト前であっても、晩酌の相手を仰せつかれば酒の摘みを作って話に付き合うし、買い物に行きたいと言われれば荷物持ちに同伴する。その結果、テストの順位を落とそうものなら容赦なく馬鹿にされる。軽くトラウマだ。おかげでいつ何時呼び出しがかかっても学業に支障がでないよう効率よく頭を使う癖ができ、塾に通わなくても進学校の学年上位に食い込めるようになった。感謝するべきなのかもしれないが、複雑な気分だ。
叔母達は漣を男とはみなしておらず、ガールズトークを通り越した猥談にも頻繁に付き合わされる(流石に母は参加しない)。ここでも気の利いた返答をしないと機嫌を損ね、けちょんけちょんに詰られる。女性がいかに崇高な生き物であるかを声高に説かれ、男性がいかにろくでもない下等な存在であるかをさも漣の責任であるかのように言及され、最後には酔いつぶれてぐでんぐでんになった彼女達を介抱する羽目になるのだ。おかげで女性心理には否応なしに敏くなってしまい、女子からの評判はすこぶるいい。やはり複雑な気分だ。

どんなに理不尽でも、彼女達に逆らおうものならば命の危険を感じるほどの恐怖を味合わされる。やられたことは基本十倍返しだ。漣の中では女性は守られるべきか弱い存在でも、綺麗で尊い存在でもない、サバンナの肉食獣のような獰猛で圧倒的に強い畏怖の対象である。
加えて、御堂家は総じて女系であり、女の立場は強く、男の立場は極端に弱い。やるせなさを共有できる数少ない相手であるはずの父親は、母のためにそれなりに由緒正しかった家を捨てて御堂家に婿入りしたほど彼女を愛しており、母やその妹達から突き付けられる無理難題にも近い我儘を嬉しそうに受け入れているため話にならない。自分の意思を無視して強制かつ矯正されるのは非常に面白くなく、幼い頃は幾度も反抗したのだが、大人で行動力も経済力もある彼女達に子供でしかない漣が勝てる筈もなく、小学校中学年の頃には既に諦めがついてしまった。

そうして強すぎる女達に囲まれて育った漣は、気がつけば女性という存在に夢が持てなくなっていた。
女というものの本質が御堂家の女達なのだとしたら、同年代のどこかふわふわとした女子も、笑顔の下では彼女達と同じようなえげつないことを考えているということである。そう思うと友人達のように、恋に浮かれ、誰かと深い仲になることが躊躇われてしまうのだ。彼女達が嫌いな訳ではない、寧ろ愛しているが、体に染みついた畏怖はそう簡単には消えてはくれない。また、正直なところ、同世代の女の子と付き合っても、刺激に乏しく物足りなさを感じてしまう。漣の中での女性の基準は、母や叔母など世間一般からは規格外に設定されてしまっているからだ。
周りが次々と「大人の階段」を登ってゆく中、漣だけは心も体もぽつりと踊り場に取り残されている。勿論、ちっぽけなプライドが邪魔をして誰にも言えなかったが。そして、魔女達はそんなことはとっくにお見通しだろうが。




**********




すう、と朝の清浄な空気を胸一杯に吸い込み、吐き出す。冷たさが血液を廻り、頭が覚醒してゆく。その心地よさに漣は思わず笑みを浮かべた。
「行ってきます」
「おう。気を付けてな」
「行って、らっしゃい」
叔父と幼い従妹に見送られ、連は仮住まいとなった堂島家を出た。今日は記念すべき魔女達の支配から逃れた一日目だ。いいことがありそうな気がする。

両親、及び、叔母達の海外赴任を聞かされたのは数週間のことだった。そして叔父の元へ行くよう命じられたのもその時だ。逆らう気など最初からなかったが(徒労に終わるだけであることが身に染みている)、漣は純粋に興味があったのだ。婿養子の父親とは違う、正真正銘の御堂の男である遼太郎に。
八十稲羽に向かう途中に色々あった気がするが、その辺りはあえて思考の隅に追いやっておく。忘れる訳ではないが、興味のないこと、案じても仕方のないことに脳のメモリを割くよりは、今集中したいことに能力を割り当てる方が効率が上がるからだ。今の自分にとっての焦点は、霧に包まれた異空間や異形、長っ鼻の老人と謎の美女よりも、新しい家族との暮らしとハイスクールライフをいかに充実して送るかという点だけである。
(遼太郎さんと菜々子は、御堂家の奇跡だ。うん)
漣は教えられた八十神高校への道を歩きながら、心の中で何度も頷く。物心付いてから初めて会った叔父は、何事もそつなくこなす父とは全く違う、絵に描いたような不器用な「漢」だった。婿入りしているため苗字は違うが、遼太郎は正真正銘、御堂の血筋であり、母の弟、叔母達の兄にあたる。彼も魔女達には散々苦労させられてきたようで、自分に向けられる視線は労わりと同情に満ちていた。二人の間に言葉はいらなかった。叔父とはとても仲良くなれそうな気がする。
菜々子は母方の、堂島の血が勝ったのだろう。あれほど健気で愛らしい女の子は御堂家には一人もいない。人見知りをすると叔父が言っていたように、まだ自分には懐いてくれないが、漣は早くもあの子のためならなんだってしてあげたい気分になっている。妹がいたらこんな感じだろうか。朝食を用意してくれた菜々子のたどたどしい手付きを思い出し、連は微笑んだ。しかしすぐに表情を曇らせる。
(…にしても、不躾だなぁ)
田舎の高校ゆえ殆どが顔見知りなのか、道行く学生達からはあからさまな好奇の目を感じた。生憎と同年代の視線程度で萎縮するような繊細な神経は持ち合わせていないため、漣はすれ違う人々や田舎そのものの景色をさり気無く観察しながら堂々と通学路を歩いた。女子のレベルは結構高いし、制服も可愛い。数週間前まで通っていた都心の学校は男女ともにブレザーだったので、学ランとセーラー服というのはなかなかに新鮮だった。
漣とて健全な男子高校生だ。女性に夢を持てないとは言っても、可愛い女の子は大好きだし、それなりに興味もある。女性好みの立ち振る舞いと、父母から受け継いだ美男子と形容して差支えない外見からとっくに童貞を捨てたと友人達には思われているが、漣はまだ未経験である。せいぜいが拙いキス止まりだ。だからこれからの一年、魔女達の干渉がないこの土地で、呪縛を断ち切り心から愛する人を見つけたい――そんな野望を抱いていた。意気込みに連はそっと拳を作り、力を込めた。

その時、ふわり、と風が動いた。

徒歩での通学者が多い中、一台の自転車が横を通り過ぎる。さらりと揺れるやわらかなハニーブラウンの髪、一瞬だけ見えた横顔はモデルのように整っていた。すらりとした形の良い足を短いスカートの裾から惜しげなく晒し、オレンジ色のヘッドフォンを耳に付けた彼女は、この田舎町にあってやけに都会的で、浮いている。
残像に目を奪われ何ともなしに後姿を見送っていると、彼女を乗せたオレンジ色の自転車が不意に傾いだ。よくよく見ればハンドルは不安定に揺れ、ペダルは扱ぐ度にギコギコと不機嫌な音を立てている。そのうち進路は道の中央から徐々に右に寄り始め、あと数秒後にはごみ集積場に突っ込むのは火を見るより明らかだ。
(でも、まぁ、どうにもできないし)
魔女達の教育によりフェミニストぶりを遺憾なく発揮している漣だが、心の底から女性全てを愛し、優しくしたいと思っている訳では決してない。どちらかというと彼の態度は対処療法的なそれで、名も知らぬ女子生徒が転ぶことが予見できても、わざわざ危険を取り除くために動いてやる義理はないと思っている。ただ、誰だって痛いのは嫌なので、怪我をしないことくらいは祈っているが。
「――うわっ?!」
案の定、彼女は悲鳴と派手な物音と共にごみ置き場に突っ込んだ。今日が資源ごみの日で良かったな、と漣は思った。燃えるごみだったら目も当てられない。
アスファルトの上に転がった彼女を助け起こす者は誰もいない。その事に漣は少し違和感を覚える。
(普通、田舎って皆知り合いで、助け合い精神が強いものじゃないのか?案外冷たいんだな)
彼女は打ちどころが悪かったのか、蹲ったまま動かない。漣は見向きもしない周りの生徒達に苛立ちを感じながらも表情に出すことはなく、彼女の前に立って手を差し伸べた。
「大丈夫?」
彼女はのろのろと顔を上げる。現れた顔は予想以上に整っていて、漣は思わず息を呑んだ。こぼれそうなほど大きなヘーゼルの瞳と、それを縁取る長い睫毛。眉は細く整えられているが、化粧自体は決して濃くない。元々の造作が整っているからだろう。ふっくらとした形のよい唇、白く滑らかな肌、細い手足、どこをどう取っても文句なしの美少女だ。
少女はぱちり、と不思議そうに眼を瞬かせると、次の瞬間顔を真っ赤にした。
「お、おま、見て」
口をぱくぱくして何かを言おうとしているが、羞恥で頭が回らないのか殆ど言葉になっていない。華やかな外見とは違い中身は初心らしい。好ましいギャップに漣は好感を抱く。
「とりあえず、立ったら?」
再度手を差し伸べると、彼女はおずおずと自らの手を重ねた。少し低い体温、そしてやわらかな感触に、漣の胸はとくりと高鳴る。力を入れて引っ張り起こしてやると、彼女は照れながらも太陽のような輝かしい笑顔で「サンキュ」と言った。


これが御堂漣と、ありとあらゆる意味で彼の相棒となる花村陽の最初の出会いだった。



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