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きらきらと・4

次でラスト!最後にちょこっとだけ主花があります。
完二が寝てる間にふたりでむらむらしてるのですが、そこはweb拍手で書くつもりです☆

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「――りせっ!!」
陽介がりせと男の間に割り入るのと、孝介が掌手でナイフを持った男の腕を跳ね上げるのはほぼ同時だった。男の上からナイフが落ちる。一瞬だけ静まり返った会場に、刃の落ちる硬質な音がやけに大きく響いた。次の瞬間、悲鳴と怒声、どよめきが一気に爆発する。
「先輩方、りせさん!こちらへ!!」
狂乱に近い喧噪に掻き消されないよう声を張り上げた直斗に呼ばれ、陽介は茫然としているりせの肩を抱くようにして歩き出した。一瞬だけ振り返って男を床に押さえつけている孝介を見るが、目だけで先に行けと促され、彼はりせと共に従業員用の通路へ逃げ込む。扉を閉じるとが少しだけ轟きが遠くなった。ふう、と溜息を吐いてから、陽介は心配そうに後輩の顔を覗き込む。
「りせ、大丈夫か?怪我、してないな?」
「………だいじょう、ぶ」
今になって恐怖が襲ってきたのか、りせの細い肩は小刻みに震えていた。細い手が縋るように陽介の袖を掴んでいる。きつく握りしめられた指は力を入れ過ぎて白くなっていた。それでも気丈に自らの足で立っている少女の姿に、陽介の胸は締め付けられる。慰めを言おうとして陽介は口を噤んだ。上辺だけの言葉など必要ではないし、彼女を励まし、勇気づけるのは自分の役目ではないと思ったからだ。だから彼はただあやすように優しくりせの背中を叩き続けていた。
「りせ!!大丈夫かい?!」
息を切らして駆け込んできた井上に、りせはちいさく、それでもしっかりと頷く。彼は安堵の息を吐くと、陽介と、直斗に連れられてきた孝介を見て言う。
「りせを守ってくれてありがとう。車を回してくるから、従業員出入り口で待っててくれるかな」
「分かりました」
直斗が答えると、井上は小走りに駆けてゆく。喧騒はまだ続いている。りせの手をそっと外した陽介は、選手交代とばかりに孝介を見やり――その姿に固まった。
「!どうしたんだよ、お前、その格好!?」
孝介は怪我はないようだが、髪も服もぐちゃぐちゃだった。苦笑しながら彼は乱れたシャツの襟を整える。
「りせのファンにもみくちゃにされたよ。よくやった、ってね。直斗が助けてくれなかったらどうなってたことやら」
茶化して言う孝介に直斗も笑った。
「すごかったですよ。りせさんは、愛されていますね」
限界だった涙腺が緩み、とうとうりせの眦から涙が一筋零れた。泣き顔を見られまいと顔を手で覆い、嗚咽を漏らすまいと歯を食いしばるりせの頭をぽん、と叩き、孝介は言う。
「りせ、素敵だったよ。よく、がんばったな」
「…っ、もぉ、何で、このタイミングで言うかな…!泣かないって、決めた、のに、メイクも、崩れちゃう、しッ」
一度決壊した途端、涙は後から後から溢れてくる。4月に仲間の元を離れてからひと月あまり、復帰の重圧に加え嫌がらせまであり、りせは追い詰められていた。崩れ落ちそうになる心を支えていたのは芸能人としてのプライドと、仲間に恥じない自分でいたいという決意だけだ。彼らから優しくされたら心の箍が緩んでしまう。必死に抑え込んでいたものが出てきてしまう。封印していた寂しさや苦しさが涙と共に流れてゆくようで、りせは泣き続けた。
孝介は困ったように小首を傾げると、横で静かに見守っている陽介に呟いた。
「駐車場、結構遠かったよな」
「ん?ああ、そうだな。井上さんが下に来るまで、あと5分くらいはかかるんじゃないか」
「陽介、髪の毛直してよ。どれだけ酷いことになってるのか自分じゃ分からないし」
孝介はりせに背中を向ける。普段の孝介は決してこんなことは言わない。陽介は瞬時に相棒の意図を汲み取り、陽介もりせに背中を向けた。
「しょーがねーな。男前が台無しだぜ、センセイ」
「あ、僕、鏡持ってますよ。どうぞ」
「流石直斗、女の子だねぇ」
「…花村先輩、相変わらずですね」
廊下の一角に、壁を作るようにしてりせを囲む。5分、その間だけは思いっきり泣いてもいいのだ。りせは孝介の広い背中に顔を埋めると、全てを吐き出すかのように泣いた。


きっかり5分後、涙を止めたりせは孝介達と共に従業員出入り口に立っていた。
赤くなったは隠しようがなく、目元を濡らしたハンカチで押さえているが、その表情は晴れやかだった。乗り付けた井上に促され、一同はワゴン車に乗り込む。井上はバックミラー越しにりせを見た後、冷静な声で言った。
「渋谷のライブ、予定通りいけるかい?」
「…うん。やらせて、ください」
りせは迷いのない目で頷いた。井上はふわり、と空気を和らげると、まるで父親のようなやさしい顔をする。
「強く、なったね。昔の君もがんばっていたけど、今はもっと強くなった。綺麗になった。皆の、おかげかな」」
ミラー越しに視線を受け、孝介達は面映ゆそうに微笑んだ。りせは返事の代わりに誇らしげに笑った。




**********




時計の針の音だけが響く中、完二は最後の仕上げに入っていた。壁にかかった時計が示す時刻は12時過ぎ。約束の時間まではまだある。
(アイツ、上手くやってんのかな)
孝介達が付いているのならば心配ないだろうが、気になった完二はテレビを付けてみた。月森家のリビングに置かれたテレビは、自分達があちら側の世界に出入りするのに使っていたものとそう変わらない大きさがある。スイッチを押したのと殆どタイムラグなく付いた画面は丁度ニュースで、更に偶然にもりせが取り上げられていた。
『――芸能界に復帰したばかりの久慈川りせさんが、本日午前、新宿のCDショップでのライブ中に、突然乱入してきた男に襲われ…』
「!?」
画面に食らいつく完二を嘲笑うかのように、冷静なアナウンサーの声は続ける。
『男はスタッフに取り押さえられ、久慈川さんに怪我はありませんでした。午後に予定している渋谷のCDショップでのライブは予定通り――』
無事、の言葉に完二は肩の力を抜いた。やはり孝介達がいれば間違えはない。完二の心配を見透かしたかのように、机の上に放り出しておいた携帯電話が鳴る。ディスプレイには孝介の名前が表示されていた。慌てて通話ボタンを押すと、受話器の向こうからは相変わらず涼しげな声が聞こえてくる。
『完二。作業は順調か?』
「も、もちろんっスよ!つかセンパイ、りせが…」
大声を出す完二に、孝介はテレビの中で何度も仲間に言い聞かせてきた言葉を口にする。
『落ち着け。ニュースで見たんだな?大丈夫、怪我はないよ。りせ』
がさごそと暫く物音がした後、聞こえてきた声は完二が予想していたよりも遙かに明るかった。
『もしもーし!私は大丈夫だよ!そっちはどう?』
「…おお、こっちだって順調だよ!さっさと取りに来いや!」
りせは「相変わらず声でかい」と毒づくと、声のトーンを落として言う。
『あのね、マスコミが集まるだろうから、スタジオ入りの時間を早めることにしたの。そっちに寄れるのが3時頃になると思う。予定より早いけど…大丈夫?』
完二はちらり、と時計を確認すると、見えていないと分かっていながらしっかりと頷いた。
「問題ねーよ。オレはここでオレのやることをやっから、お前はお前のやること、やって来い」
ひゅ、と息を呑む音が聞こえた気がした。須臾の沈黙の後、りせは絞り出すように呟く。
『…うん。がんばる。じゃあね』
持ち主に戻ることなく切れた電話をソファの上に放り投げ、完二は息を吐き出す。安堵と、そしてもどかしさが綯い交ぜになったこの気持ちを、なんと表現していいのか彼には分からなかった。
作業台替わりにしたローテーブルの上に広げられたドレスを見やる。ドレス自体の修復はほぼ完了していて、元のものよりスカートが短くはなったものの、朱衣は新品に戻ったかのように鮮やかだ。このまま着ても支障はないが、完二はどうしてもやりたいことがあった。八十稲羽から持ってきた道具箱をひっくり返し、目的のものを探し出す。
「あった…!」
一度失ったものは元には戻らない。ならば前のドレスに似せたものではなく、今の彼女に最も似合う形で渡したい。完二はもう一度時計を確認すると、慣れた、けれども慎重な手つきで指を動かし始めた。




**********




「ほらよ」
3時を少し過ぎた頃、再び孝介の家を訪れたりせに完二は玄関先でドレスを渡した。焼け焦げ、汚れた無残な様は少しも残っていない、うつくしい光沢を放つ彩衣をりせは宝物のようにきゅうと抱き締める。
「ありがとう…!」
その言葉だけで全てが報われた気がした。照れくささを隠しながら、完二は次いで後ろ手に持っていたものを差し出す。
「あと、これもやる。裾が短くなっちまったから、ちっとでも華やかな方がいいだろ」
それはドレスとお揃いの布と、赤いオーガンジーで作られたコサージュだった。花弁をあしらった金色の飾り紐とのコントラストが鮮やかだ。りせは大きな眼を更に見開き、言葉もなく掌に載せられた花を見つめる。
「…んだよ、気にくわなかったか?」
少し不安になって訪ねると、りせはぶんぶんとツインテールを揺らして首を横に振った。
「そんなワケないでしょ!逆よ、逆!もー、どうしてあんたみたいにゴツイのからこんなキレイなものができあがるのか、ホント分かんない!!…ありがたく、もらってくね」
りせははにかむ様に笑うと、ドレスを体に押し当て、コサージュを胸に載せる。ひらひらと揺れるドレスと艶やかな花飾りは、完二の見立てた通り、いや、それ以上に彼女に似合っていた。
「りせさん、そろそろ」
時計を見た直斗に促され、りせは弾かれたように動き出す。完二が差し出した紙袋に慎重にドレスをしまい、踵を返してドアを開けた。扉の向こうから午後の光が差し込み、ずっと部屋に籠っていた完二の目を焼く。逆光の中で手を振る彼女はきらきらと光っていた。
「じゃあね!テレビ、ちゃんと見ててよねっ。行こ、直斗くん」
「はい。では行ってきます」
少女達は連れ立って光の中へと飛び立ってゆく。玄関には男三人だけが残された。
「センパイ達は行かないんスか?」
「ああ。中は警備がしっかりしてるから直斗だけで十分だって。という訳で、オレ達はひとまずお役御免だ。…よくがんばったな、完二」
子供みたいに孝介に微笑まれながら頭を撫でられ、完二は嬉しさと恥ずかしさに顔を背ける。けれども手を払いのけることはしなかった。たった一歳の差しかないのに、目の前の先輩の手は大きく、硬かった。幼い頃に同じように父親に撫でられた記憶と、今与えられている温もりが重なる。目の奥がじんわりと熱くなった。
「やめてくださいよ、ガキじゃねーんだし」
陽介は何も言わず、にやにやと人の悪い顔をして二人の様子を見守っている。孝介がいない時はまるでリーダーのように頼りになったのに、参謀に戻った途端に調子に乗るのだから始末が悪い。それでも、悔しいことに完二にとって陽介は先輩で、尊敬できる強さを持った存在だった。その細い体で潰されそうなほどの重責を受け止め、立っているの知っている。手が届きそうなほど近くにいるのに、指先が触れることは叶わない。だから余計に腹立たしい。大役を終えた安堵から疲労が一気に襲ってきたこともあり、完二は無言で陽介の足を蹴った。
「いっ…!何すんだよッ」
「アンタの顔がムカツクんだよ!」
「この顔は生まれつきだっつーの!」
孝介は額に手を当て溜息を吐いた。きゃんきゃんと騒ぎだした二人の仲裁に入るのも久しぶりだ。嬉しくもあるが騒がしいことには変わりない。
「二人共、そこら辺にしておいてくれ。完二、疲れただろう。何か作るから一休みするといい。陽介も上がって」
孝介に背を押され、一同は居間へ移動する。ソファに体を埋めた途端、完二は大きな欠伸をした。
「センパイ、すんません、後で片付けするんで少し寝てもいいっスか?」
「ああ。客間に布団引くからちょっと待っててくれ」
お茶の準備の手を止める孝介に、完二は軽く手を振る。
「や、もうここでいいっス。つーか限界…りせのテレビの時間になったら、起こして、ください…」
完二はずるずるとソファに沈み込むと、程無くして寝息を立て始めた。陽介は後輩を見下ろしながら苦笑する。
「昨日も気ィ張ってて眠れなかったみたいだし。…完二、よくがんばったよ。スゲーよな」
「ああ。陽介、ちょっと手伝って」
まだ成長途中とはいえ、完二は仲間内で最も体格に恵まれている。布団に移すことは諦め、二人がかりで足を掴んでなんとかソファに横たえた。孝介が上掛けを持ってきて掛けてやっても、完二はぴくりとも動かない。心地よさそうに眠り続けている。陽介はやさしい笑顔で囁いた。
「おつかれさん。ゆっくり休めよ」
(そういう顔してれば、完二も怒らないと思うんだけどな。…いや、やっぱりダメだ)
陽介がどれほどやさしい顔をして笑うかは、自分だけが知っていればいい。離れても弱まるどころか強まってゆく独占欲に、孝介は内心で苦笑した。何も知らない当の本人は、軽やかな足取りで孝介の元へ歩み寄ってくる。
「なぁなぁ、お前の部屋見せてくれよ。超興味あるんだけど」
「いいよ。っていうか陽介、それは誘ってるって取るけど?」
柳腰に腕を回して抱き寄せる。首筋に顔を埋めて囁けば、感度のいい体はそれだけで震えた。
「……シャワー、浴びたい」
「じゃあ、一緒に入ろうか」
目も眩むほどの笑顔で孝介は答える。身の危険を感じ抵抗する陽介を問答無用でバスルームに連行しながら、孝介は繋いだ手から伝わる久方ぶりの温もりを噛みしめていた。




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