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「月光アウフヘーベン」サンプル ※R18

※R18
最初の影主×影村の部分まるごとです。触手。

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 「…始まった、みたいだな」
スサノオが天井を見上げ、呟く。イザナギは目だけで頷いた。
 二人がいるのはテレビの中の堂島家、その居間だ。電気は点けていない、というよりも、こちらの世界に電気などというエネルギーはない。明りがなくとも人ならざるイザナギには視界は明瞭で、不便さなど感じなかった。
 年季の入った木の壁も、少し色褪せた畳も、家具の配置も、どれもが現実と寸分違わない。何も知らない者が連れてこられたら、異世界だとは分からないだろう。もっとも、引かれたカーテンの向こう側の景色を見てしまえば、すぐに差異に気付くだろうが。現実の空は滴り落ちてきそうなほどの重い血の色をしていないし、月もあんなに大きくない。大気は狂騒に満ち満ちて、あちこちから狂ったようなシャドウの叫びが上がっている。狂乱の夜はまだ終わっていない。
 どしん、と階上で何かが倒れた音がした。声こそ聞こえないが、今頃すぐ上の部屋では、自分達の本体が獣のように激しく求め合っている。例え体から乖離しても、繋がりは切れた訳ではない。見えない臍の尾のように伸びた糸から、声が、孝介の想いが流れ込んで来る。
 ――かわいい、かわいい、やさしくて綺麗な陽介。大切にしたい、守りたい。けれども、同じくらい酷くして、傷付けて、泣かせたい。他の誰の目にも触れない場所に閉じ込めて、自分がいないと生きられないようにしてしまいたい。話すのも、笑いかけるのも自分だけでいい。
(我ながら、狂気的だな)
年の割に自制心の強い月森孝介は、常は必死に己を律しているが、仮面を剥ぎ取ってしまえば人一倍支配欲が強い獰猛な雄だ。そして、この世界に満ち満ちている狂気によって、彼の理性の箍は吹き飛んでしまった。今の孝介の頭の中は、陽介と、彼との交わりで得られる快楽を得ることでいっぱいになっている。本能のままに欲し、貪る。その暴力的なまでの激情はイザナギにも伝染して、ひどく体を熱くした。
 「お盛んなことで」
スサノオは靴下を脱ぎ、適当に投げ捨てると、ソファに腰掛け足を組んだ。完璧に寛ぐ姿勢だ。今の自分達の姿は本人を忠実に模していて、違っているのは瞳の色くらいである。欲してやまない陽介の、制服の裾から覗く白く細い手首に、踝に、ずくりと体の芯が疼いた。
 イザナギは衝動のまま、スサノオに手を伸ばす。しかし、金色の瞳に明らかな欲を浮かべているにも関わらず、彼はイザナギの指を叩き落とした。スサノオは色香を滲ませながら、嫣然と微笑んでいる。本体と違って気位が高く気紛れな彼は、そう簡単に触れさせてくれるつもりはないらしい。
 風の申し子は皮肉げに言う。
「お前は、『俺』が好きなんだろ?」
声から自虐の響きを感じ取り、イザナギは軽く眉を潜めた。彼の言いたいことは分かる。否、同じ「影」である自分にしか理解できないだろう。届かないと分かっていながらも、イザナギは言の葉を唇に載せた。
「お前も陽介だよ。だから好きだ」
 途端、スサノオは双眸に怒りを灯らせた。彼は刺々しく吐き捨てる。
「俺はそんな、オマケみたいな愛情じゃヤなんだよ。孝介の中で、全部の一番じゃなきゃ」
「……」
イザナギは何も言えない。スサノオの願いは、そのまま自分の想いでもあるからだ。
 影は影でしかない。本体となる人間がいなければ生まれてもこなかったし、宿主がいなければ存在を保てない。自分達は太陽が無いと輝けない月とよく似ている。
 スサノオがただひたすらに孝介だけを求めるように、イザナギも陽介を渇望している。彼の「特別」になりたい。手に入れたい。
だが、花村陽介の恋人は、主である月森孝介だ。陽介を得るためには孝介を排除しなければならない。しかし、孝介を殺せば自分も消えてしまう。何より、陽介の孝介への情は盲目的なほどに深く、恋人を害した者を愛してくれるはずはない。つまり、どんなに望んでも、絶対にイザナギは陽介の一番にはなれない。
己のせいで自身が満たされないという大いなる矛盾を抱えながら、それでも求めずにはいられない苦しみを、本人達は露も知らずに睦み合っているのだ。やりきれない。やりきれなさすぎて――全てを壊してしまいたくなる。狂気に背中を押され、破壊衝動がふつふつと沸き上がってきた。
だが、イザナギは自らを律した。壊すのは簡単だ、いつだってできる。ならば、今しかできないことをした方がいい。例えば、目の前にいる愛しい人の一部を手に入れるとか、だ。
 挑発するようにスサノオが笑う。
「なぁ。俺のこと、満足させてくれんの? あいつの影でしかないお前が」
影は本人との比較を何よりも嫌う。それを知っていながらわざと口にするスサノオは、こちらの忍耐と献身を試しているのか。ならば示してやろうと、イザナギは跪き、スサノオの右の爪先に口付けた。
 「!」
流石にこれは予想外だったらしい。長い睫毛に縁取られた瞳が大きく見開かれたのが面白くて、イザナギは踵を恭しく捧げ持ち、指の一本一本を口に含んで、丹念に舌で愛撫する。指と指の間をざらりと舐めれば、ひくり、と下肢が震えた。
 わざと音を立ててしゃぶりながら、上目遣いでスサノオの様子を伺えば、頬は赤く、眉根は何かを堪えるように寄せられている。上着の裾に隠された中心は、たったこれだけの愛撫で不自然な形に盛り上がっていた。感じているのだ。
(かわいい)
本当は、今すぐに服を剥ぎ取り、床に引き倒して、猛った肉棒を突っ込んで無茶苦茶に犯してやりたい。月がもたらす狂気の波動に抗うのは難しく、こんなまだるっこしい前戯をしなくても、快楽を与えてやればスサノオも体を開くだろう。発情しているのは同じなのだから。
 だが、それではつまらない。自分を屈服させようとした彼に、思い知らせてやらなければならない。征服されるのはどちらかということを。陽介の心の欠片である彼を屈服させ、気が狂うほどの悦楽に溺れさせる。想像しただけでひどく興奮した。
 ほっそりとした足を掲げたまま、指で、手の平で、唇で、彼の足を味わう。足首からふくらはぎ、膝、内股へ段々と昇ってゆくが、膨らんでいるそこには触れない。厚い布地越しの刺激に、スサノオはじれったそうに腰を揺らした。浅ましい反応にイザナギは口角を吊り上げる。
「どうされたい?」
だが、スサノオは折れない。淫蕩に色付いた顔をしているくせに、両目をぎらぎらと光らせ、誘うように自らの上半身を撫でて言う。
「お前こそ、どうしたい?」
(ああ、本当に、かわいい)
本気を出せば、スサノオの命など簡単に、とまでは言わないが、奪うことができる。力量差が計れないほど彼は愚かではないはずだが、それでもイザナギを焚き付けてくる勝気さが、可愛らしくて仕方がない。その愛らしさに免じて、今回はこちらが折れてやることにした。
イザナギはやさしく微笑み、孝介が菜々子を前にした時のように、穏やかに告げる。
「お前の服を引き千切って、縛り付けて身動きを取れなくして、体中にオレの噛み痕を付けて、その可愛い顔を涙と涎と汗と精液でぐちゃぐちゃにして、腹が膨れるくらい中で出してやりたいよ」
やわらかな声色に狂気を滲ませれば、スサノオは満足したように頷いた。伸ばした腕は、今度は振り払われなかった。
 制服に包まれた肢体を引き摺り降ろし、膝の上に乗せる。抱き締め、体を弄っていると、ふいに首筋に痛みを感じた。
「っ」
首を巡らせれば、スサノオが噛み付いていた。キスマークと呼べるようなもののではなく、皮膚を食い破られて血が出ている。彼はにやりと笑い、形のよい唇に付着したイザナギの血を、赤い舌でぺろりと舐めた。
 口の端を伝う朱と白い肌のコントラストが鮮烈で、一気に体温が上がる。我慢ができなくなり、イザナギもスサノオの喉元に歯を立てる。首、鎖骨、胸、どこを噛んでもスサノオは嬉しそうに鳴く。酷く扱われるのが好きなのだろう。
「変態。痛いのが気持ちいいんだ」
反論は悲鳴に変わる。勃起しているスサノオのものを、イザナギがきつく握り込んだからだ。全く触っていないにも関わらず、スサノオの性器はがちがちになっている。乱暴に衣服の前を暴き、既にしとどに濡れている堪え性のない肉棒を幾度が扱いてやると、スサノオはハニーブラウンの髪を振り乱し、甘い悲鳴を上げて呆気なく達した。
「あ、んっ、ア――!!」
張り詰めた先端から、びゅるびゅると勢いよく精子が噴き出る。白い迸りはイザナギの手と双方の服を汚し、性のにおいを撒き散らした。スサノオはくったりとイザナギの胸板に凭れかかりながら、荒い息を整えようとしている。そんな彼をそっと畳の上に横たえると、イザナギは立ち上がり、自らの上着を脱ぎ捨てた。
 熱い息を零しながら、期待の籠った目を向けて来るスサノオを見下ろし、イザナギはやわらかく笑う。しかしスサノオに触れることはなく、代わりに右手で空を掻いた。
次の瞬間、空間が揺らぎ、足元から闇色の太い触手が何本も生えてくる。イザナギの魔力で作ったものだ。主の意思を反映してある程度自由な形を取れるそれは、これからされる行為を察して逃れようとしていたスサノオの手足に巻き付き、瞬きの間に動きを封じた。
「おい! 何すんだよ、放せッ!!」
返事の代わりに、うねる触手がスサノオの体を爪先が辛うじて床に着くくらいの高さに吊るし上げる。イザナギは特等席のソファに腰を下ろし、つい先程までスサノオがそうしていたように、足を組んで傍観の姿勢を取った。いい光景だ。    
「言っただろ? お前の服を引き千切って、縛り付けて身動きを取れなくして」
触手はスサノオの学ランのボタンを千切り、インナーシャツを引き裂く。ヘッドフォンも吹き飛んだ。次いでバックルを破壊して下着ごとズボンを下げ、下肢を剥き出しにする。スサノオは必死に抵抗を試みているが、手足を縛られては身動ぎ程度にしかならない。殺気と共に放たれた風の刃も、イザナギが軽く手を翳しただけでそよ風になって霧散した。甘い顔立ちが絶望に彩られる。たまらない。ぞくぞくする。イザナギはうっそりと笑った。
「体中にオレの噛み痕を付けて…は、もうやったから、可愛い顔を涙と涎と汗と精液でぐちゃぐちゃにして、腹が膨れるくらい中で出してあげる。ほら、足開いて」
「っ、誰が…!」
それでもスサノオは素直にならない。だからこそ甚振り甲斐があるというものだ。触手に命じで無理矢理に右足を掬い上げ、顕わになった秘部に、わざわざ男性器に似せた先端を押し当てる。切っ先に作った小さな穴からこぷこぷと溢れ出す体液の熱さも、大きさも、普段彼の本体が受け入れているものと変わらないはずだ。
「やだ、んなの、やめ」
拒絶を無視し、ゆっくりと胎内へ沈めてゆくと、そこは思ったよりもスムーズに異物を受け入れた。よく見えるように角度を変えさせれば、スサノオの後ろはいっぱいに広がりながらも、切れることなく男根を咥え込んでいる。恋人以外を受け入れたことのないそこに黒くて太いものが突き立てられている光景は、イザナギをひどく欲情させた。
 もっと彼を乱したい。欲望の赴くまま、イザナギはスサノオを苛んでいるものに命じ、一息に奥深くまで貫く。
「ひっ、あ、ああぁ!!!」
スサノオは綺麗に体を逸らせ、叫んだ。ひくひくと小刻みに震えているのは痛みと衝撃のせいだと分かっていながら、イザナギは攻めの手を休めない。腕の太さほどもある触手で細腰をがっちりとホールドし、ずんずんと下から激しく突き上げてやる。拘束に回っていない触手は粘液を分泌しながら、スサノオの乳首を、脇腹を、膝裏を、舐めるように這い回った。イザナギの愛する陽介の顔が、苦痛と快楽に歪んだ。
 「や、あ、っ、あッ、う」
形のいい唇はだらしなく開きっぱなしだ。頬が濡れているのは唾液か、それとも生理的な涙か。触れてもいないのに、萎えていたはずのスサノオのものは天を向いており、だらだらと先走りを零し、筋の浮いた幹をはしたなく濡らしている。律動に合わせてぶるぶると性器が揺れ、垂れた蜜が床に染みを作った。このままだとすぐにまた射精してしまうだろう。それではつまらない。
 イザナギの意を反映して、細い蔓がスサノオの猛りの根元を堰き止める。痛みにスサノオが目を見開いた。
「!!」
「自分ばっかり何度もイくのはずるいんじゃない?」
「てめ、ぇ、ッ、うぁ! あっ、あ…!!」
スサノオの腹の中で触手は膨れ、そして、勢いよく汁を吐き出す。体を強張らせたスサノオの後ろから、呑み込み切れなかった白い汁が滲んでいた。
ずるり、と幾分萎えた触手を引き抜くと、栓がなくなり、腹の中でぶちまけた体液が溢れ出す。ぼたぼたと音を立てて床に落ち、あるいはすべらかな内股を伝って滴る体液を、イザナギは満たされた気持ちで眺めた。
 「……も、いいだ、ろ」
息も絶え絶えに訴える金色の目は、まだまだ反抗的だ。だからイザナギは悠然と微笑みながら首を横に振り、再び触手をぐちゃぐちゃになった穴に挿入し、無茶苦茶に揺さぶってやった。

 激しすぎる責め苦にスサノオが泣きながら幾度も達し、すっかり抵抗する気力を失ったのを見て、イザナギはようやく触手を消す。辛うじて服だと分かる残骸と、様々な液体を纏わり付かせ、愛しい影は床に転がっていた。そんな彼をやさしく抱き締め、今度は宝物のようにやさしく犯した。
「あ…んっ、あ、ふぁ」
「気持ちいい?」
スサノオはこくこくと、幼子のように素直に頷く。それを見たイザナギの胸の中に、暖かな感情とどす黒い衝迫が広がってゆく。
 やさしくしたい、けれども、酷くしたい。守りたい、でも、傷付けたい。相反する感情は紛れもなく「月森孝介」が内包するものであり、今イザナギがスサノオにぶつけているのも、孝介が抱いている激情の一部だ。それを体現しているだけに過ぎない。
 今夜の自分達は、本体という枷から解き放たれた、剥き出しの本能である。だから思うがままに欲し、貪る。悪いことではない。今夜は狂乱の夜なのだから。
「こう、すけ」
うわごとのようにスサノオが呼ぶ。彼は自分を見ていない、だがそれはお互い様だ。イザナギとてスサノオの向こうにいる陽介を見ている。分かっていながら抱き合う自分達は、酷く悲しくて滑稽な存在なのだろう。それでも、求めずにはいられない。
「…スサノオ」
戯れにキスをせがむと応えてくれた。空虚だった心が少し満たされた気がした。

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