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君しかいらない

※R-18、陽介女体化(後天)注意
大遅刻でバレンタイン小説ですorz しかもにょたで18禁です。うちの主人公はがっつきすぎなのにみょうにオヤジくさいです。みなさまのカコイイ主人公を見習わせたいです。私の脳に。
当初はそんなつもりはなくて普通に主花でほのぼのだったのに!エアーをリードできない書き手で本当にもうしわけないきもちでいっぱいです…。
途中で完二と陽介が一緒にスウィーツを作ってますが、その部分は切り出してweb拍手お礼小説にしますので、よければ読んでやってください。
にょたでエロが多いの実はかなり気にしています。なんか恥ずかしい。ううう。

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バレンタインが近付くと、デパートの地下も揺れる。
2月13日、日曜日。ジュネス八十稲羽店地下の催事場は、この閑散とした町のどこから集まったのか分からないほどの人で朝からごった返していた。一年で一番冷え込む時期だというのに、エアコンの温度は初秋並になっている。しかし、暑い。コートとマフラーを着込んだ女性達は汗だくになりながら、必死の形相で求め棚に群がる。某テクノポップなアイドルユニットの歌の通り、喧噪と足踏みで心なしか建物が振動している気さえした。まるで戦場だ。
陽介は若干引きつつも、ありったけの在庫をバックヤードから出し補充してゆく。それでも人気のある商品は文字通り飛ぶように売れ、すぐになくなってしまう。今残っているのは入荷量の多い有名な製菓会社の、言ってしまえば特色に欠けるチョコレートが殆どで、珍しいショップのものは殆ど売り切れてしまった。更に残っている物の中でも、手頃な価格でそれなりの量が入っているものからどんどん掃けてゆき、売り切れも出ている。それでも客足は途絶えず、客の購買意識も高い。特設会場に配置されたスタッフは皆てんてこまいだ。
「花村さん!メリーのアソート5個ってまだ在庫あった?!」
「さっき俺が持ってきた箱で最後です!出てるだけ!」
「ヨ、ヨースケー!あちらの素敵なオクサマが、これと同じやつ50個欲しいって言ってるクマ!」
「品番確認して個数あるか裏の棚見てこい!お客様のお名前伺って、サービスカウンターの前で待っててもらえ!」
「――花村さん!ごめん、ちょっと手伝って!」
「はーい!今行きますッ」
女になってから初めて迎えるバレンタインだが、やっていることは去年と全く変わりがない。寧ろ去年より忙しい気がする。恋人と稲羽で迎える最初で最後のバレンタインの準備もできないまま、陽介は連日のようにチョコレート売り場を飛び回っていた。学校が終わるとすぐにジュネスに向かい、特設会場が閉まる時間まで働き詰めである。家に帰っても疲れからすぐに寝てしまい、孝介とは学校でしか話せていない。日に日にやつれてゆくことに心配はされたが、彼を放っておいていることを責められはしない。そのことに感謝しつつも、陽介は内心面白くなく感じていた。
(アイツ、チョコほしーとか全然言わないし!素っ気ないし!俺からのチョコなんていらないってのかよ)
物事を悪い方へ考えてしまう癖があることを自覚しているが、孝介の態度には不安が掻き立てられる。陽介が女になって――元が男だったことを覚えているのは、今では両親と特別捜査隊のメンバーだけだが――月森孝介と付き合っていることを公言した今でも、彼に想いを寄せている女子は多い。バレインタインに乗じて告白してくる者もいるだろう。彼に愛されている自覚はあるが、だからといって不安がなくなる訳ではないのだ。
(あげるべき、なんだろうけどな…)
陽介は目の前の戦場を見やり、こっそりと溜息を吐いた。曲がりなりにも彼女の位置に納まっている今、孝介にバレンタインの贈り物を渡すことに何の問題もない。だが、体は女になっても、17年間男として生きてきた事実は変わらず、心情的には男のままである。よって、この女の戦場に分け入ることにも抵抗があるし、他の女性と同じようにチョコレートを渡すことにも抵抗があるのだ。いっそ孝介が一言「欲しい」と言ってくれれば大義名分ができるのだが、こんな時に限って孝介は強請ることをしない。いつもはまるで魔法使いのように、先回りして陽介の欲しい言葉をくれるというのに。
悶々とした思いを抱えつつも、陽介は目の前の仕事をこなしてゆく。少し余裕ができたのでバックヤードで在庫の確認をしていると、ダンボールの隙間から見覚えのある白い包み紙が目に入った。稲羽どころか沖奈のデパートにも入っていない某高級ショップのチョコレートだ。とは言っても都内や首都圏のデパートにはごろごろ入っているので陽介にとっては然程珍しくはないが、田舎町では滅多にお目にかかれるものではないらしく、売れ行きは予想以上によかった。在庫切れかと思っていたが、ダンボールの陰に隠れてひと山残っていたらしい。売り場に出してしまおうと手を伸ばしかけた陽介だったが、ふと思い立ってダンボールを元の位置に戻す。見つけたばかりのチョコレートを隠すように。
(孝介のチョコ、これにしよう。もうちょっとしたら上がれるから、そしたらクマに言って持ってこさせればいい)
職権濫用のような気がするが、今このチョコレートを外に出したらものの数分で売り切れてしまう。以前、堂島が職場の土産で貰ってきたこのショップのチョコレートを、孝介が「結構好き」と言いながら食べていたのを思い出し、陽介の心は決まった。
バリケードを築き上げたところで、タイミングを図ったかのように表から呼び声がかかる。陽介は後ろめたさを振り切るように、慌てて返事をして飛び出した。

しかし、物事は思い通りには運ばない。
「あ、ヨースケ!クマ、さっき在庫切れしてたはずのチョコ見つけて褒められたクマー!おキャクさん、すごい勢いで持っていってもう売り切れちゃったクマよ」
タイムカードを押してからすぐ特設会場に戻りクマを呼びつけると、彼は無邪気に手柄を自慢してきた。確認するまでもなく、陽介が隠してきたあのチョコレートのことに違いない。頭を殴られたかのような衝撃を受け、陽介は固まる。様子の可笑しい家主にクマが怪訝そうな顔をするが、なんとかその場を取り繕うと、陽介はふらふらと覚束ない足取りで休憩室へ向かった。ひとまず冷たい物でも飲んで落ち着きたい。しかし彼女に追い打ちをかけるかのように、辿り着いた休憩室の中から声がした。
「…――マジで?!あいつにチョコ渡すの?!だって花村と付き合ってんじゃん。しかもかなりラブラブっぽいし」
自分の名前が聞こえ、思わず陽介は足を止めた。
「だって3月で帰っちゃうんだよ?!今告らずにいつ告るってのよ!振られてもいいもん。それに万が一ってこともあるし!」
傍聴されていることも知らず、アルバイトらしき若い女性達は賑やかに会話を続けている。休憩室に入ることもできなくなり、陽介は泥の中を歩くような重い足取りでロッカールームへと向かった。


(どうしよう…)
陽介はとぼとぼとジュネスの食品売り場を歩いていた。あの後、着替えてからもう一度催事場に向かってみたが、女性になって日が浅い陽介がとても割り入れる雰囲気ではなく、威圧感に負けて引き返してきたのだ。食品売り場の菓子コーナーにもいくらかバレンタイン用の商品を置いてあるが、買い逃したチョコには遠く及ばない。逃した魚はいつだって大きい。
(さっきの子、明日、孝介にチョコ渡して告白…するんだよな)
顔は見えなかったが、口調からは少女ならではの直向きな想いが感じられた。男の時ならば可愛らしいと、好ましいと思えたが、今ではそうは思えない。孝介が浮気をするなど考えられないが、彼が自分以外の女性からプレゼントを受け取り、告白される様子を思い浮かべるだけで、どろどろとした醜い感情が腹の底から湧きあがってくる。「彼女」の座に胡坐をかいていては寝首を掻かれかねない。負けてはいられないという対抗心が陽介の中で生まれつつあった。
しかし、適当な物を孝介に渡したくはない。かといって気合いの入ったものを準備するには既に時間がない。バレンタインは明日だ。どうしたものかと途方に暮れていると、製菓商品の棚の前で見慣れた後輩の姿を見つけた。
「よぉ、完二」
「あ、花村センパイ。うっす」
外見は恐ろしいが、中身は至って純粋で礼儀正しい彼は、わざわざ体ごと陽介に向き直って頭を下げてくる。彼が手に持った箱には板チョコや小麦粉、無塩バターなど、明らかに手作りお菓子のための材料が入っていた。視線に気付いた完二が言う。
「明日はバレンタインっすからね。海外じゃ女が男にチョコ渡すってワケじゃなくて、お世話になってる人に贈り物をする日だっていうじゃないですか。なんで、オレも皆に何か作ろうかと」
自分を偽ることを止めた完二は、少し恥ずかしそうに笑った。かわいい後輩に陽介の顔も少し緩む。
「お前の菓子、うめぇもんな。楽しみにしてる」
「おお、期待してもらっていいっスよ!つか、花村センパイは月森センパイにどんなチョコ渡すんスか?できればかぶらないのにしたいんですけど」
その言葉にみるみるうちに顔を青くした陽介を見て、完二は自分が地雷を踏んでしまったことを悟った。逃げようとした完二の腕を持ち前の素早さで掴み、陽介は縋るように背の高い後輩の顔を見上げる。潤んだ大きな瞳に、完二は一瞬どきりとしてしまう。
「お、俺、実は…何も用意、してないんだ」
「マジっすか?!月森センパイ、超楽しみにしてますよ?」
失言に気付いた完二は慌てて自らの口を手で押さえるが、陽介は全く気付いていないようだった。そのすべらかな頬を上気させ、たたみ掛けるように言う。
「んなことねーよ!アイツ、チョコ欲しいなんて一言も言わないし!最近なんだか素っ気ないし!どーせ俺がやんなくたって、あいつモテモテで色んな子からチョコもらえるだろうから別にいーよ!」
「ちょ、何でオレにキレるんスか?!相手が違うだろーが!」
買い物客で賑わう日曜日の夕方、稲羽では有名人の二人が大声で言い合う姿は嫌でも人目を引く。完二は慌てて陽介の手を取ると、乳製品売り場に向かって早足で歩きだした。
「ああもう、だったら今からオレん家で一緒に何か作りますか?」
「へ…マジで?いーの?!」
沈んでいた陽介の顔が明るくなる。可愛らしいその顔に少し頬を赤くしながら、完二はぶっきらぼうに言う。
「いいッスよ。けど、オレも自分の分あるし、そんな手の込んだモンは無理なんで。チョコチップクッキーとかでいいッスかね?」
「お、おう!任せる!何買えばいいんだ?」
陽介はこくこくと頷くと、先程までの消沈が嘘のように軽やかな足取りで歩き出した。ようやく調子の戻ってきた先輩の姿に完二も安堵の息を漏らし、後を追う。
少し離れた所で二人をじっと見つめる視線があったことを、彼らは知らない。




**********




翌朝。可愛らしくラッピングされた包みを鞄の中に忍ばせた陽介は、いつもより随分と早く家を出た。目的地は学校ではなく堂島家である。
(考介、喜んでくれっかな。つか朝イチで渡したいなんてどんだけオトメなんだ俺!)
期待と不安、興奮と緊張から、歩きなれた堂島家への道のりがひどく遠く感じる。もどかしくて、少しでも早く会いたくて、気がつけば小走りになっていた。ようやく見慣れた門の前に辿り着いた頃には、一年で最も寒い季節だというのに頬が熱く火照っていた。
この家のインターホンを押すのにこれほど緊張したのは初めてかもしれない。震える指先は寒さのせいだと自分に言い聞かせ、陽介はボタンを押す。すぐに曇りガラス越しにすらりとしたシルエットが映る。考介だ。扉を開けた彼は立っている陽介を見て、驚いたように少し目を見開いた。
「よぉ。今日、一緒にガッコ行こうぜ」
特に約束はしていないが、通学路が途中まで一緒なため、大抵の日は一緒に登下校している。帰りに考介が送ってゆくことはあっても、行きに陽介が迎えに来ることは珍しかった。
「ああ。まだ時間あるから上がってて」
「うん。オジャマしまーす」
時計の針はまだ7時15分を少し過ぎた所だったが、台所と続いている居間には彼の姿しかない。堂島は既に出勤し、菜々子は飼育係の当番で先程出て行ったという。つまり、家には二人きり。陽介には願ってもない状況だ。コートとマフラーを外しソファの上に置くと、考介が弁当の準備のため背中を向けたのを見て、鞄からこっそり包みを取り出す。彼がこちらに来るのを今か今かと待ち構えていると、苦笑を浮かべた考介が弁当の包みを手にやってきた。
「陽介。チョコが貰えると期待してもいいの?」
「お、おう!ありがたく受け取れ!!」
どうしてこんな色気のない言い方しかできないのかと軽く自己嫌悪に陥りながら、陽介は突き出すように綺麗にラッピングされた箱を渡す。「ありがとう」と言ってそれを受け取った考介は、本当に綺麗な笑顔で笑っていた。陽介は思わず見惚れ、言葉を失う。
「手作り?」
しゅるり、とリボンを解きながら尋ねられ、陽介は慌てて頷く。
「あ、ああ。その、ホントはちゃんとしたの買おうと思ったんだけど買い逃しちゃって。あ、でも完二に手伝ってもらったから、我ながらかなり上手くできたと思うぜ!物体Xとかじゃねーからそこは安心して!」
「……ふーん」
何故か面白くなさそうに相槌を打った考介が蓋を開くと、そこには手のひらサイズの円形をしたガトーショコラが入っていた。少しだけ歪な円に手作りらしさが現れているが、色といい艶といいとても美味しそうだ。だが、性別が転換してから母親に鍛えられ、特別捜査隊の他の女子より幾分料理の腕が上とはいえ、陽介が一人で作れるものではない。莞二の指導の賜物だろう。
「あ、あとこれは菜々子ちゃんと、堂島さんに。いつもクマ共々お世話になってますってコトで」
「…………ふーん」
ハート型のチョコチップクッキーが入った、綺麗にラッピングされた袋を渡され、考介は受け取りこそしたものの、今度は露骨に不機嫌を顔に浮かべた。不穏な空気を感じ取った陽介が、怯えたように一歩後ずさる。
「な、何だよ」
「…オレ、昨日、夕方くらいにジュネスに買い物に行ったんだよね。陽介、昨日は早番だって言ってたし、最近バイトが忙しくてなかなか会えなかったから、会えるかと思って期待してたんだけど」
考介は少し目を細め、口の端を軽く吊り上げている。表情こそ笑っているがその目は全く笑っていない。朝の清廉な光の中、孝介の存在だけがやけに重々しい。更に一歩後ろに引いた陽介は、ソファの足にぶつかってそのままスプリングのあまり効かない座面に座り込んだ。考介の体が逃がさないとばかりにゆっくりと覆い被さってくる。
「陽介、完二と仲良く手ぇ繋いでどっか行っちゃったよね。オレ、今年は陽介が女の子になっちゃったばっかりでバレンタインは抵抗があると思って、あえてチョコレートが欲しいとは言わなかったんどな。その代わり、二人で一緒にクッキーでも作って皆に配ろうと思ってたのに」
「!ご、ごめん!つか見てたなら声掛けてくれればいいじゃん!」
「だって」
きしり、と孝介の片膝が乗ったソファが軋む。彼は背もたれに手を突くと、陽介の肩口に顔を薄めて呟いた。
「…きっとオレのチョコのこと一所懸命考えてくれてるんだろうなーって思ったらすごい嬉しくて、当日まで知らないふりしてた方がいいかなって。でも、いくら完二とはいえ、陽介が他の男と二人っきりっていうのはすごい落ち着かなかった。巽屋に乗り込もうかと思った」
「乗り込むって、オマエなぁ」
呆れたように呟く陽介を意に留めず、孝介は続ける。
「しかもオレ以外の男にもクッキー用意してるし。義理だって分かってるけど…妬けるものは妬ける」
いつになく饒舌な孝介に戸惑いながら、陽介はその広い背中にそっと腕を回した。あやすようにぽんぽんと叩いてやると、子供のように抱き付いてくる。今日の孝介は何時になく素直に心情を吐露しており、可愛らしいさえ陽介は思った。彼がこんなに甘えた姿を見せるのも、拗ねたり独占欲を見せたりするのも、自分だけだ。それが嬉しくてたまらなくて、陽介は回した腕に力を込める。
「…俺だって、不安になったよ。そりゃバイトのせいでお前との時間をあんまり取れなかったのは悪かったけど、お前、チョコ欲しいとか全然言わないし」
「それは」
弁明しようとした孝介の髪を、陽介は優しく撫でた。
「分かってるよ。…お前の言う通り、やっぱ抵抗あったからチョコなんて渡すつもりなかったんだけど、お前モテるから、今日絶対チョコ持って告りにくる子いるだろ。そしたら、一番に渡してやりたくなった」
菜々子ちゃんは別格な、と付け加えて、陽介は腕を放した。のろのろと顔を上げた孝介と視線が合う。それだけで気持ちが通じた。瞼を伏せれば熱い唇が降ってくる。いつの間にか後頭部に手が回され、僅かな隙間も許さないとばかりに深く咥内を貪られた。淫靡さを孕んだ吐息が、朝の空気を侵食してゆく。飲み込み切れない唾液が口の端を伝い、制服を汚すが、離れがたい気持ちの方が強かった。
「ん、こ、すけ…もぉ、これ以上、は」
「うん」
互いの体が熱を持ち始めている。布地越しでは足りない、直に触って、繋がりたい。だが理性が僅かに勝り、二人は名残惜しそうに顔を離した。すっかり力の抜けてしまった陽介の体を孝介はソファに横たわらせる。ハニーブラウンの髪を撫でながら、孝介は真顔で言う。

「――30分あれば、できると思わない?」

「……………………はぁ?」
先程までの甘い空気はどこへやら、氷点下の視線で陽介は目の前の男を見やる。だが孝介は全く堪えた様子もなく、至極真面目な顔をしていた。
「もう無理。陽介が足りなくて我慢できない。今すぐ欲しい」
「ばっ、チョコやっただろーが!」
「嬉しかったけど、オレは欲張りだからあれじゃ足りない。もっと頂戴」
圧し掛かってくる体を懸命に押し返そうとするその細腕を軽々と頭上でひとつに纏め、孝介は耳に舌を差し込んだ。耳が弱い陽介の体がびくりと跳ねる。
「んっ!ちょ、孝介!朝だぞ、学校あるんだぞ!何考えてんだよ?!」
「陽介とするえっちなこと」
陽介の抵抗などあってないようなもので、孝介はいつもより性急な、けれども決して雑ではない愛撫を始める。上着の裾から侵入した長く形の良い指に脇腹を撫でられ、思わず陽介は甘い声を出した。
「カワイイ」
反応に気を良くした孝介は、ちゅ、ちゅ、と太股や腕の内側にキスマークを付けてゆく。服で隠れるギリギリのラインに施されるそれは所有印のようで、陽介には痛みよりも陶酔が勝った。セーラー服の裾をたくし上げ、下着の上からやわらかなふくらみに触れる。やや乱暴に揉みしだけば、下着越しでも形が分かるほどに先端が尖り、存在を主張した。下腹部から痺れるような快感が湧きあがり、陽介は身を捩る。解け始めた表情に、孝介は額にひとつキスをしてからスカートの中に手を忍ばせ、しっとりと濡れた下着を足から引き抜いた。秘められた場所はすでに十分に潤っている。指先で辿ると面白いように体が跳ねた。
「ひっ…!」
「力、抜いて」
最初から指を二本挿入しても、きつさはあるが受け入れることに慣れ始めた体は傷付くことなく受け入れる。指をばらばらに動かせば、耳を塞ぎたくなるほど卑猥な水音が響いた。蜜が溢れ始めたのを見て指を引き抜き、己のスラックスの前をくつろげてすっかり形を変えているものを取り出す。脈打つそれに陽介がいやいやと首を振った。
「やっ、やだ!」
朝の光も、小鳥の声も、住む人の心が移った暖かい空気の今も、その全てに自分達の行為を背徳だと責められているような気がして陽介は思わず拒絶の言葉を吐く。宥めるように頭を撫でながら、孝介は熱と切なさの籠った声で言う。
「…ごめん。でも、少しでも多く陽介のこと、欲しいんだ」
なるべく考えないようにしてきたが、別れの日はすぐそこまで来ている。孝介には離れていても陽介を愛し続ける自信があるが、すぐ傍に温もりがないことを我慢できる自信はなかった。少しでも自分の痕を華奢な体に刻み込みたくて、触れた肌の、繋がった熱を忘れたくなくて、孝介はつい求めてしまう。内側に入れた者にはとことん甘い陽介は、文句は言うが余程のことがなければ拒まない。その優しさに甘えている。
孝介の言葉に、陽介は眦を吊り上げると、ぱしり、と彼の頬を両手で包むように叩いた。
「そう思ってるのが、自分だけだと、思うなバカっ…!」
そのまま手の平をシフトし、抱き寄せるように首に腕を回す。孝介が「いいの?」と小声で問えば、やさしい彼女はこくりと頷いた。財布の中に忍ばせてあったゴムをつけ、誘われるままに足を抱え上げる。蕩けそうなほどの熱と気持ちよさに孝介は思わず呻いた。律動を開始すると、陽介の口からも高くあまい悲鳴が漏れ始める。快楽に歪むその綺麗な顔を、声を、震える肌の感触を、少しでも多く脳裏に焼き付けようとしながら孝介は彼女を抱いた。




「陽介、オレが悪かった。もうしないから、そろそろ機嫌直してよ」
いつもの通学路。情事の痕を慌てて拭い去り、いつもより少しだけ遅い時間に堂島家を出た二人はぴたりと体を寄せて歩いていた。
「………」
陽介は冷たい視線を送るだけで口を開こうとはしない。だが腰に回された腕を払うことはしなかった。正確に言えば、払うことができなかった。いつもより性急に抱かれたため歩くのが少し辛いのだ。孝介の腕は動きを妨げることはなく、絶妙な位置で陽介を支えている。いつになく近い二人の距離に周りが好奇の視線を向けてくるが、孝介は全く動じた様子はない。その鉄面皮が陽介には羨ましかった。
「…孝介。今日、他の子からチョコ、貰うなよ」
視線を反らしながら呟やかれた言葉に、孝介はふわりと微笑み頷く。陽介は見なくとも、彼がこれ以上なくやさしい瞳で自分を見つめていることを知っていた。
「貰わないよ。お前のと、あと菜々子のしかいらない。あ、もし特別捜査隊のメンバーがくれたら貰いたいけど、嫌っていうならそれも断る」
「流石にそれは言わねぇよ。俺もあいつらにはやるし。…つか、あんま女子泣かすんじゃねーぞ。気を持たせず、なおかつ優しくフれ。お前ならできんだろ」
「難しいコト言うなぁ」
肩を竦めて見せる様も格好良いのが癪に障るが、求めていた以上の言葉を貰えたことに安堵し、少しだけ体を寄せる。孝介は触れている腕に少しだけ力を込めて、もう一度言った。

「陽介しか、いらないよ」

「………っ、恥ずかしい奴!」
騒ぎ出す陽介を、宥める孝介を、学友達が痴話喧嘩かと呆れたように眺め、通り過ぎてゆく。2月14日、晴れ。恋人達には寒さが気にならないほど甘い甘い一日の始まりだった。




END

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