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どうしよう、しあわせの先が見えない・6

青春って甘酸っぱいな!
センセイは一向に報われません。そしてうちの陽介は意外と強い子でした!
今回から諦めてビルダーで書いたものを貼り付けしているので、ちょっとは文章がまとまっている…はずです。多分。




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カーテンの隙間から僅かに差し込む日差しは明るい。閑静な住宅地の片隅にある花村家は、穏やかな静寂の中にあった。窓の外からは鳥の囀りと、時折車やバイクの音がするだけで、他には何も聞こえない。両親とクマは既に出勤し、独り残された陽介は、その静けさにすら苛立ちを感じてベッドの中で幾度目とも分からない寝返りを打った。
(くそっ、なんでこんなにイライラしてんだよ、俺)
不良達に殴られた怪我はテレビに落ちてすぐ直したが、痕までは治らず背中や腕にはどす黒い内出血が残っている。制服は摺れ、手足に締め付けられた痕跡――喧嘩ではなくシャドウの触手のせいだが――を残す息子の体に、いつもは気丈な母親がうっすら涙を浮かていた。自己嫌悪に泣きたくなる。
体はまだ本調子ではなかったが、もう寝るのにも飽きてきた。食欲も沸かないし、かといってゲームをしたり本を読んだりする気にはなれない。時計を見れば12時を回ったところだった。学校にいれば仲間達と他愛もない話をしながら昼食をとっている頃だ。
仲間、と言って真っ先に浮かぶのは、昨日あれだけ最悪な別れ方をした今でもまだ月森考介で、彼の丹精な顔を思い出すと苦々しさと苛立ちが募った。助けてくれたことには感謝している。誰よりも信頼しているし、考介も信頼してくれていると思っていた。対等な友人だと、思っていた。
だが彼から返されたのは、対等とは決して言えない庇護する立場での言葉で。それにどれだけ自分がショックを受け、自尊心を傷付けられたか彼は分かっていないだろう。
(…アレ?でもあいつ、謝ってたよな。じゃあ分かってたのか?)
ごめん、と苦しそうに眉根を寄せて、それでも考介は自分を案じることをやめず、隠そうともしなかった。心配してくれることは有難いし、とても嬉しい。けれども、昨日の彼は度が過ぎたような気がする。例えるなら、月森考介という壁で陽介をすっぽりと包んで、全ての痛みから遠ざけようとするかのような、そんな印象を受けたのだ。
考介の腕の中は暖かくて優しく、そこにいればどんな痛みも届かないかもしれない。だが、彼と肩を並べ、喜びも苦しみも共に歩んでいきたいと思う陽介に、考介の庇護は受け入れられないものだ。自分は一方的に守られるだけのか弱い存在ではない。女でもない。庇われる対象だと捉えられていたのなら、彼と自分の間の友情は最初から成立していなかったことになる。全て自分の独り善がりだ。相棒などと呼んで舞い上がっていた自分が心底滑稽に思えて、陽介はついに叫びをあげた。
「考介の、バカヤロー!!!」
声は空しく静寂に解けてゆく。ばからしくなり、陽介はうつ伏せになって枕に顔を埋めると、弱々しい声で呟いた。
「親友だと、思ってたんだよ…ばかやろう」
じわり、と涙が滲んだ。感情の整理がつかず、溢れ出した雫が唇に触れる。思わず舐めたそれはやけにしょっぱくて、なんだか可笑しくなって陽介は笑った。
(つーか…なんでアイツ、キスしたんだ?)
唇に残る記憶を呼び覚ますかのように、陽介はそっと指先で口元をなぞった。濡れた唇と、別の生き物のように蠢いていた舌。吸われ、飲み込まされたお互いの唾液。突然のことで驚きはしたが、行為自体に嫌悪感を全く抱いていない自分に気付き、陽介は愕然とする。よく考えれば口移しで水を飲ませてもらうのだっておかしい気がするが、考介なら平気だった。射すくめられそうなほど強く、そして切なげに揺れていた銀灰の瞳を思い出すと、何故かぞくり、と背筋が震えた。恐怖ではない、強いて言えば情欲に近い。だが、男で、友人である月森考介に抱く感情としては不適切すぎて、陽介は思考を追い払うように慌てて頭を振る。しかしひとつの欠片が皮切りとなり、昨日の彼の言葉が次々と思い出された。

『お前を傷付ける奴らなんて、俺が片っ端から潰してやるのに…!!』

『陽介は、全然分かってくれてないから』

名前を呼ぶ切ない声。抱かれた腕の強すぎる力。脳裏に蘇る彼の言葉と最後のキスを繋げると――まるで愛の告白ではないか。
「――いやいやいやいや!!!それはない、ないから!!つか俺もアイツもホモじゃないから!」
「…ヨースケ?どうしたんだクマ?」
無邪気な声に振り向くと、いつの間にかクマがドアから顔を覗かせていた。思考に耽っていて全く気がつかなかった陽介は、上半身を起こしながらばつの悪そうな顔を向ける。
「よ、よお。早いな」
「うん!今日はあんまりおキャクさんいなかったし、パパさんがヨースケの様子見ててほしいって、早めにあがらせてくれたクマ!」
クマは軽やかなステップでベッドに近寄ると、手に持ったビニール袋から包みを取り出した。ひんやりとしたそれを陽介の手に載せ、誇らしげに笑う。
「お見舞いクマ!クマ、大奮発したのよ?ココロして食べるといいクマ」
渡されたのはアイスクリームだった。しかもクマが普段食べない、少量のくせにやたら高いカップ物である。クマは勝手にベッドに登ると、自分の分なのだろう、お馴染みのホームランバーを取り出して噛り付いた。日給500円程度のクマにしてみれば破格の差し入れに、陽介は不覚にも目頭が熱くなるのを感じた。
「……サンキュ。ありがたく貰うわ」
食べたアイスは今まで一番美味しかった気がする。結局、半分ほどをクマに食べられながらもアイスを完食すると、クマは陽介を布団に押し込んだ。
「ビョーニンにはスイミンが必要って、ママさんもセンセイも行ってたクマ!ヨースケはたっぷり寝て、早く良くなるクマよ」
「へいへい。大人しく寝ますよ」
「よろしいクマ!」
クマは寝るまで見張るつもりなのか、陽介の横に腹ばいに寝そべった。シングルベッドだが、陽介も細いしクマはそれ以上に細く小さいので、圧迫感を感じることはない。話して少し疲れたのだろう、うとうととし始めた陽介に、クマが珍しく真剣な声色で問いかける。
「ヨースケ。センセイと、ケンカしてるクマ?」
茶化して答えることも、嘘を吐くこともできた。だがそのどちらもしたくなくて、陽介はちいさく「うん」と頷く。
「だってアイツ、俺のこと、守るって言うんだ。俺、天城やりせみたいに可愛い女じゃない。あいつの横で一緒に戦える。なのに」
「ヨースケは、センセイのこと、大好きクマね」
クマのほっそりとした手が陽介の髪を優しく撫でた。それは菜々子が何かの拍子に陽介の頭を労わるように撫でてくれたのと同じように、子供じみた、けれどもひどく純粋でやさしい感触がした。続く言葉が出なくなり、陽介は代わりに息を吐き出す。
「センセイも、ヨースケのこと大好きクマ。だから大丈夫クマよ」
「…ばーか。なんで大丈夫なんだよ。ワケ分かん、ねぇ…」
少し体温の低いクマの手が心地よくて、陽介の意識は誘われるように眠りの園へ落ちていった。



**********



翌日、登校してきた陽介を見るや否や、仲間達は一様に心配そうな顔を浮かべた。
「花村くん…痩せたね」
「まだ顔色悪いよ。アンタ、ホントに大丈夫なの?」
クマから聞く限り、孝介がある程度事情を話しているのだろう。雪子も千枝も体調を案じるのみで、詳しいことは訊いてこない。今の陽介にはそれがありがたかった。
「流石に今日明日くらいはテレビの中行けって言われたら断るけど、体力が回復すりゃ元通りだよ。…その、心配、かけちまったよな。ゴメン」
ぺこり、と頭を下げると、女子二人が軽く息を吐いた。
「すっごく心配してあげたんだから!リーダーなんか血相変えて電話してきて、完二くんもりせちゃんも直斗くんも、皆で探し回ったんだからね!今度皆に肉、奢ること!」
千枝の強気なスタンスに救われた気分になる。素直に謝ることができるからだ。雪子はもう少し複雑そうで、自分達を思うが故に少しの責める色をその漆黒の瞳の奥から感じた。
「月森くん、すごい心配してたよ。花村くんが落ちたテレビにいきなり突っ込んで行こうとして、慌てて皆で止めたくらい。…ねぇ、ちゃんと話、した?」
分かりやすく硬直した陽介に、二人は大きな溜息を吐いた。
「やっぱりね…」
「昨日の不調の原因はコイツかぁ」
「?どゆこと?」
陽介が首を傾げると同時に、孝介が教室に入ってきた。珍しく始業時間ギリギリだ。彼は陽介の姿を認め軽く眼を見開いた後、すぐに僅かだが眉根を寄せる。夕焼けに塗れた孝介の部屋、あの時と自分達の想いは何も変わっていないことを陽介は知った。
「おはよう。――陽介、顔色酷いぞ。まだ休んでた方がいいんじゃないか」
「だいじょーぶ。勉強もこれ以上遅れるとマズいし」
孝介の席は陽介の前だ。振り向いて話しかけてくる彼の視線から逃れるように、陽介は「トイレ」と席を立った。しかし数歩歩いた所で急な立ちくらみに見舞われ、ぐらり、と体が揺らぐ。
(あ、やべ)
目の前が白濁して何も見えない。床に倒れ込むならまだしも、机に突っ込むのは痛そうだ、と頭の隅で暢気なことを考えたが、いつまで経っても痛みと衝撃が訪れることはなかった。徐々に視界と感覚が回復すると、そこには見慣れたシャツがあった。ふわり、と香る孝介の匂い。孝介は陽介を抱き締めるようにして支えていた。
「あ…」
「花村!平気?!」
問いかけられた本人ではなく何故か孝介が「ダメそうだから保健室に連れて行く」と答えると、陽介の片腕を首に回して歩き出す。半ば引きずられるようにして教室を出ると、他のクラスはもうホームルームが始まっているのか、廊下には誰もいなかった。孝介は数日前より確実に細くなった体を抱き上げると、保健室へ向かう。丁度保健体育の授業に向かう所だった保健医を捕まえ鍵を受け取り、抱えた体をベッドに寝かせた。
「無理するな。勉強なら教えるし、探索もしばらくは行かないつもりだ。お前が元気じゃないと…困る」
「ナニ、その上から目線」
孝介の物言いはいつもとさして変わらないのに、今は彼の一挙一動に腹が立って仕方ない。彼のことが嫌いになった訳ではないのに、心と口は裏腹で、彼に自分を認めさせようとする強く痛い言葉ばかり吐いてしまう。固い拒絶の色を含んだ陽介の声に、孝介は暗い自嘲の笑みを浮かべた。
「――ねぇ、陽介。…オレから離れるの?」
きしり、とベッドが軋む。孝介はベッドに上り陽介の上に馬乗りになると、抵抗されないよう細い手首を掴んで囁く。その力は圧倒的で、骨がきしりと悲鳴を上げた。銀灰色の瞳がカーテンで仕切られた空間の中で妖しく光る。陽介の背中を戦慄がはしった。
「離れるくらいなら、失うくらいなら、言ったっていいよね。――オレ、お前のことが好きだ。こういう意味で」
ゆっくりと唇が落ちてくる。目を見開いたまま、ふたつが重なり、また離れていくのを陽介は見ていることしかできなかった。孝介は切なげに顔を歪めて続ける。
「…だから、ごめん。オレ、お前が望んでいる親友にはなれない。お前が強くて頼りになることは知ってる。一番信頼してる。でも、お前が泣くのも傷付くのも見たくないんだ。お前を傷付けるもの全てから守りたいんだよ」
言葉を返すことができない陽介からそっと体を放し、孝介は呟く。
「気持ち悪いだろ。お前がオレのこと相棒って呼んでくれてる時に、オレは違うこと考えてた。どうやったらお前がオレのこと好きになってくれるかって」
「…っ」
拘束が解け、起き上がろうとした陽介の体を、孝介は腕一本で縫いとめる。そしてまたあの苦しそうな表情で言った。
「陽介が、もうオレのこと相棒って呼んでくれなくなってもいい。でもオレは、お前を守ることを、やめない」
言うだけ言うと、孝介は踵を返して歩き出す。振り向かずに「一時間目は寝てろ」と告げると、彼はぴしゃりと扉を閉めて出て行ってしまった。


「――んだよ、何勝手なこと言ってんだよ…ッ!」
ダン!と憤りのままに手を振り下ろしても、古いスプリングが軋むだけでちっとも気が晴れはしない。ずっとずっと隣にいたい、陽介が望むのはそれだけだ。孝介の望む『特別』とは、形が違い過ぎる。
「……オマエなんか、もう、相棒じゃ、ねー…」
言霊が力となって陽介自身を傷付ける。自分の相棒だった月森孝介は、確かにもういないのだ。いつの間にか溢れ出していた涙が、頬に幾筋もの後を作っていた。孝介のことばかりで頭がいっぱいになっている自分はどこかおかしいと、陽介は頭の片隅で思いながら泣き続けた。



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