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起点Aから空への距離・2

※陽介女体化(後天)注意
型月かよ!というツッコミはナシの方向でお願いします(汗
いやでも確かに世界の抑止力っていうか調整力ってあると思うんですよ。悪があるから英雄が生まれるみたいな。陽介が女になっちゃったから世界もその方向に動いちゃったみたいな!

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日曜の昼下がり。堂島家の居間には、自称特別捜査隊の面子が続々と集まっていた。
「あれ、直斗くん、早いね」
待ち合わせをして来た雪子と千枝が足を踏み入れると、そこには家人から提供されたお茶を啜りながらくつろいでいる直斗の姿があった。彼女は軽く会釈をして応える。
「午前中に、花村先輩を病院に連れて行ったんです。その付き添いで」
「え?!花村、やっぱり具合よくないの…?」
途端に案じ顔になる千枝に、直斗は「ええ、まあ」と曖昧な返事を返すことしかできなかった。詰め寄ろうとした千枝の背後からぬっと孝介が姿を現す。
「里中、もうちょっとだけ待って。陽介は無事だよ。皆が揃ったらちゃんと話すから」
「あ、うん…ならいいけど」
彼女らは思い思いの場所に腰を下ろし、残りのメンバーが揃うのを待つ。程なくして参謀を抜かした全員が集まった。
「あのー、センパイ?オレらが集められたのって、やっぱり昨日の花村センパイ絡みっすよね」
彼の問いは、直斗を除く皆の心境を代弁したものだった。孝介は頷くと、珍しく歯切れの悪い口調で言う。
「ああ。説明するよりも、実際に見てもらった方がいいと思う…というか、見ないと納得できないと思う」
「?肝心の花村センパイはどうしたの?」
当の陽介はまだ皆の前に顔を出す決心がつかず、孝介の部屋に引き籠っている。「連れてくる」と言い残し、孝介は軋む階段を上っていった。その背中を見送りながら、千枝が心配そうに呟く。
「大丈夫かなぁ…」
「きっと大丈夫だよ。もし危ないようだったら、月森くん、あんなに落ち着いてないと思う」
雪子の言葉に皆が頷いた。階上からは何やら揉めているらしく、内容までは分からないが、落ち着いた声色と、興奮した高い声が聞こえてくる。その声は聞き覚えのあるものよりも随分と高い気がして雪子は首を捻った。
(花村くん、風邪ひいたのかな?)
やがて足音と共に孝介が下りてきた。その肩に文字通り、陽介を抱えて。あまりにインパクトの強い登場に皆は言葉を失う。陽介は孝介の右肩に腹を乗せ、体を二つに折ってまるで荷物のように担がれていた。
自称特別捜査隊のリーダーとその相棒の身長はそう変わらない。いくら孝介の筋力がずば抜けていて、陽介が細くても、あそこまで易々と持ち上げることはできないはずだ。その疑問を初めに解いたのはりせだった。
「……もしかして、花村センパイ、縮んだ?」
孝介は荷物をそっと下ろすと、定位置となっている台所を背中にする位置に腰を落ち着ける。陽介はようやく覚悟を決めたのか、のろのろと顔を上げた。窓から差し込む陽光に、その白い顔が、細い肢体が照らされる。皆は今度こそ絶句した。
「…………………………ねぇ、花村が女の子に見えるの、アタシだけ、かな?」
「………………………………おかしいなぁ。私にも、花村くんが、女の子に見えるよ?」
呆然とする二年女子の脇をすり抜け、クマが陽介に鼻を近づけて言う。
「アレアレ?ヨースケ、オンナノコだったクマ?確かにヨースケのニオイがするのに、オンナノコのいいニオイもするクマよー?」
陽介は羞恥のためか頬を上気させ、眦に涙を浮かべながら、ジャージの膝をきつく握りしめた。
サイズの合わない孝介の服の上からでも分かる、女性的な体のラインは明らかに男は持ち得ないもので、元々整っていた顔の造作は丸みを帯び、女性らしさを増している。若干小さくなった身長、少し伸びた髪、袖から覗く細い腕は、どこをとっても女性以外の何物にも見えなかった。その愛らしさに目を奪われながらも、孝介は努めて冷静に言う。
「昨日の夜、寝る前までは確実に男だったんだけど、朝起きたらこうなってた。体が軋んで筋肉痛みたいって言ってたから、寝ている間に骨格が変化したみたいだ。…物理とか化学とか抜きにして。ちなみに、間違えなく陽介です。隅から隅まで確認済みです」
直斗が説明を引き継ぐ。
「午前中、花村先輩を病院に連れ行って検査をしましたが、その、性別が変わった以外の異常は特に見つかりませんでした。体の作りも、何もかも、全て女性そのものだそうです」
一度聞いた説明だが、改めて言われると現実が重みとなって圧し掛かってくる。陽介は唇を噛みしめて喚き散らしたい衝動を堪えた。
一晩のうちに骨格が変化することも、性転換などということも、現実にはあり得ないはずなのだが、そもそもテレビの中はありえないことだらけであり、自分達の呼び出すペルソナも科学では解明できない。マヨナカテレビ絡みなら、何が起こっても不思議ではないと納得してしまう。納得はするが、許容はできない。陽介は益々強く唇を噛んだ。
「我々の最も信用する尺度で測れないことが、こうも身近に起きるなんて…怖いですね」
直斗が呟くと、今まで黙っていたりせが、いささか興奮気味に口を開いた。
「っていうか、花村センパイ、すっごくかわいくない?もとからキレイな顔立ちしてたけど、こんなに美人になるなんて…なんかくやしい」
一瞬言葉を詰まらせた陽介は、彼にしては珍しく声を荒げて言う。
「かわいいとか言われても全然嬉しくねーよ!!朝起きたら女になってたんだぞ?昨日まで男だったのに女になってたんだぞ?!ついてるはずのモンがついてなくて、ついてないはずのものがついてるんだぞ?!なんでこうなったかも、どうやったら治るかも全然分かんねーんだぞ!!?」
男の時の声の名残を残した、しかしまだ聞きなれない高い声でひと息にまくし立てた陽介の目元から、ぽろりと涙が零れ落ちる。一度流れ始めると奔流は止まることを知らず、彼女は必死に声を押えながら泣きだしてしまった。
「ご、ごめんなさい!!私、悪気があったワケじゃ…」
慌てて謝るりせに孝介は苦笑を浮かべる。
「陽介、朝からずっと情緒不安定なんだ。しばらくは勘弁してあげて。…ほら、陽介、こっちおいで」
軽々と腰を引き寄せられ、陽介は相棒の胸に顔を埋めてえぐえぐと泣き続ける。その頼りない背中を孝介は限りなく優しく撫でた。皆の視線がなければ体ごと包み込んで隠したところだ。
ポケットから見事な刺繍の施されたハンカチを取り出し、差し出しながら、完二はおずおずと言った。
「取り乱すのも無理ないっスよ。オレだって、朝起きて急にオンナになってたら、訳分かんなくてスゲー混乱するだろうし…。なんとかして元に戻る方法、探しましょうや」
「………完二、お前…!」
後輩の胸を打つ言葉に陽介は顔を上げると、目を感涙に潤ませ、勢いのままに完二に抱き付いた。「うわっ!」と声を上げたものの、女になった陽介に突進されたくらいでは、彼の体はびくともしない。下着をつけていない柔らかな胸があたり、完二の鼻に熱いものが込み上げて来た。
「陽介。経緯はどうであれ、今はお前の体は女なんだから、ちょっとは気を使いなさい。…完二、鼻血」
孝介は陽介を後輩から半ば無理矢理に引きはがし、代わりにティッシュ箱を押し付ける。いつもは頼れるリーダーの眼が全く笑っていないことに完二は気付き、できるだけ視線を合わせないようにしながらティッシュを受け取った。
「ねぇ。急に女の子になっちゃったならさ、逆に急に戻ったりしないかな?」
千枝の言葉に直斗は難しい顔をする。
「僕たちもその可能性を考えたんですが、骨格が変わるようなことがそうそう頻繁に起きたら、花村先輩の体が壊れてしまいます。それに、昨晩は体の軋みと発熱という予兆がありましたが、今はすっかりないそうです。いつか戻るとしても、すぐにではなさそうですね」
「そっか…。あ!じゃあ、あの変なシャドウを見つけて、もう一回同じ技を食らえばいいんじゃないの?男から女になったなら、女から男にもなるはずだよ!」
大胆だが尤もな意見に皆が感心する。しかしりせはすぐに難しい顔になって呟いた。
「あいつ、かなりの強敵だよ。しかもレアモンスターだから探し出すのにも時間がかかるし、見つけてもあの技を出してくれるとは限らないと思う。その間、花村先輩はどうするの?学校や家は?」
りせの口にした現実に、居間はしんと静まり返った。こういう時、自分達がまだ高校生で、親の庇護がないと生きていけないのだと痛感する。重い沈黙を破ったのは、やはり重い孝介の声だった。
「…学校は休むしかないけど、一週間くらいだったら、なんとか理由をつけてうちに泊まれると思う。遼太郎さんは最近殆ど深夜にしか家にいないし、菜々子は陽介が男でも女でも気にしないだろう。その間にシャドウを見つけるしかないな」
「………ごめん…迷惑かけて」
項垂れる陽介の頭を、孝介は優しく撫でた。
「気にするな。今回はたまたま陽介だったってだけで、俺達の誰でもなった可能性があるだろ?お前だけの問題じゃなくて、特別捜査隊全体の問題だよ」
現に俺も食らいかけたし、と付け加えると、ほんの少しだけ陽介の表情が緩む。皆に労られ、励まされ、陽介はこの日ようやくその名のような明るい笑顔を見せた。
「流石に今日はテレビの中は行かないよね。じゃあ、私達は女の子に必要なモノ、調達してこようか」
雪子の提案に女子は一同に頷く。孝介は「頼む」と言った後、何故か小引出からメジャーを取り出してりせに手渡した。
「センパイ、ぬかりなさすぎ」
瞬きひとつの間に意を汲み取り、りせは拗ねたように言う。孝介は嫣然と笑うと、クマにしがみ付かれて辟易している陽介に向って、電話台の上に置いてあった彼の携帯電話を投げた。
「陽介、早めに家に連絡しとけ。昨日も泊ってるからおばさんが心配する」
「あ、うん。サンキュ」
フリップを開くと、陽介は適当な理由を付けて母親にメールを送った。月森孝介の評判は、花村家ではすこぶる良い。ダメと言われることはないだろう。陽介が携帯を置いたのを見て、りせが小悪魔的な笑みを浮かべる。
「じゃあ、花村センパイ――覚悟ぉ!」
りせにタックルを食らい、陽介はなす術もなく畳に押し倒された。元アイドルの細く綺麗な指が、遠慮なしにぶかぶかのジャージのジッパーを下げる。押しとどめようとした陽介の腕は、両側から雪子と千枝によって封じられてしまった。
「なっ、何すんだよお前ら、離せっつーの!つかやめろ、脱がすな!!見たくねぇんだよ!恥ずかしいんだよッ!!」
抵抗も空しく、更にその下のシャツまで捲りあげられ、白く形のいい双丘が露わになる。女子は一様に感嘆の声を上げた。
「やだ、アンタ胸おっきい!これCくらいあるんじゃない?」
「Dくらいあるんじゃないの?どう思う?直斗くん」
「とりあえず、測ってみればいいんじゃないですか」

「…完二、二階行こう」
「そ、そっスね」
女子には勝てない男子達は、陽介を残して逃走を始めようとした。それを咎めるかのように、絶妙なタイミングでちゃぶ台の上に置かれた携帯電話が跳ねる。なんとか服を奪い返し受信メールを開いた陽介は、文章を眼で追い終わった途端、まるで氷魔法を食らったかのように固まった。
「どうしたんですか?」
只事ではない空気を嗅ぎ取った直斗が、一言断りを入れてから画面を覗き込む。そこに書いてあったのはごく普通の、しかし、陽介にとっては普通ではない母からのメールだった。


From : 母
件名 : Re:今日も月森の家泊ってくる
本文 : あら残念、今日のお夕飯は陽ちゃんの好きなクリームコロッケなのに。
陽ちゃんも女の子なんだから、ちゃんとお家のことお手伝いするようにね。
月森くんとお家の人によろしくね。


「………なん、だよ、これ…。打ち間違え、だよ、な」
母は確かに自分のことを「陽ちゃん」と呼ぶ。それはいい。だが一言、現状では洒落にならない言葉が混じっていた。陽介の手から携帯電話をもぎ取り、内容を確認した孝介も眉を顰める。母親が息子の性別を間違えるとは思えない。
不穏な空気が堂島家に満ち始める。その時、明るい声と共に外の空気が入ってきた。
「――ただいま!おねえちゃん達、いらっしゃい!」
玄関の靴から皆が来ていることを知った菜々子が嬉しそうに笑う。この幼子を巻き込むわけにはいかず、皆は努めていつものように笑みを浮かべる。ふ、と何かを思いついた孝介が、自室へ向かおうとしていた妹を呼び止めた。
「菜々子。今日の陽介、ちょっと変じゃない?」
「?」
皆が息を詰める中、菜々子はとことこと近寄ると、その大きな瞳で陽介を見つめる。しかしすぐに、にこり、と笑い、首を横に振った。
「ううん。ようすけおねえちゃんは、いつも通り、ようすけおねえちゃんだよ?…あ、おにいちゃんのふく、着てる!いつもとちがうね」
「…うん、そうだね。ありがとう」
菜々子はまた別の友達の所へ行くと言い残し、去っていった。残されたのは更に重くなった空気だけだった。
「――菜々子は、嘘は吐かない。俺達は、陽介が男だってこと、知ってるよな?」
孝介の言葉に皆はしっかりと頷く。逡巡の後、孝介は苦々しく呟いた。
「世界の方が、変わってきてるってことか…?」
「……はは、なんだ、そりゃ。笑えない…ぜ…」
受け入れろというにはあまりにも酷な事実に、激しい頭痛と眩暈がする。事象が許容量を超え、陽介は生まれて初めての卒倒を体験した。



**********



目を開いたら、部屋はすっかり茜色に染まっていた。
温かい布団に包まれている感触。頭の上にはそれ以上に温かい掌がある。触れたそれは、以前よりひとまわりもふたまわりも大きく感じられた。
(俺の手、こんなに、小さくなっちまったんだ)
「皆はもう帰ったよ。天城達が服とか色々買ってきてくれたから、後で確認して」
「………夢、じゃ、ないんだよなー…」
深く溜め息を吐いた陽介に、孝介はやさしく髪を梳きながら言った。
「残念ながら、全部現実だよ。あれから一条とかに聞いてみたけど、やっぱり陽介は女ってことになってる。勝手に生徒手帳とか見させてもらったけど、名前は陽介なのに性別は女になってた。お前が男だってことを覚えてるのは、今の所俺達だけだ」
「なんかもう…どうでもよくなってきた」
目の腕に腕を乗せ、くぐもった声で陽介は呟く。もう泣く気力もなくなったらしい。形の良い額に唇を落とし、あやすように、言い聞かせるように、孝介は告げる。
「明日、一緒にお前の家に行こう。それで、おばさんとおじさんにちゃんと話してみよう。覚えてるかもしれない」
「っ、いや、だ!」
17年間かけて形成された「花村陽介」は、男として生きてきたものだ。女だったら今の自分ではない。ただでさえ混乱しているのに、親にまで今までの自分を否定されたら、今度こそ正気を失ってしまうかもしれない。明らかな怯えの色を浮かべる陽介に、孝介は辛抱強く言い重ねる。
「男でも女でも、陽介は陽介だよ。俺はここに来てからのお前との思い出を絶対忘れないし、絶対離れないから。想いの深さなら負けない自信はあるけど、たった半年の俺が覚えてるんだ。17年間お前を見てきた親がそう簡単に忘れるわけないだろ?――お前の居場所、取り戻しに行こう」
すっかり細くなった陽介の腕が首に回される。震える体を全てから守るように抱き締めて、孝介は世界なんてくそくらえだ、と心の中であらん限りの悪態をついた。



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