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Binary Star, Binary Black Hole ・1

※パラレル注意
とうとうパラレルをはじめてしまいました…!プロローグなので短めです。どこまでいけるか分からないのですがいけるところまでいってみたいと思いますブルブル

時は近未来。天才ハッカーだけどトラウマのせいで家から出られない陽介と、陽介の手足となって動くセンセイが、サイバーストーカーと戦うおはなしです。色々と特殊なのでお先に設定を読んでいただいた方が分かりやすいかも。
あとタイトルがしっくりこないので後で変えるかもしれません。あう。

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 世の中は総じて不条理である。
 それは花村陽介が22年間生きていた上で帰納したことだ。信じろと言われれたその口で嘘を吐かれ、縋られた手を掴めばその次の瞬間には叩き落とされ、裏切られる。これ以上ないほど真面目に生きている人間が馬鹿を見て、要領のいい、不真面目な人間ばかりが得をする。所詮金が全てで、金持ちは更に裕福になり、貧乏人は貧しくなる一方だ。
 弱い立場の者がどんなに安息を願っても、それは願いでしかなく決して現実にはならない。弱者は強者に搾取され、虐げられ、やがては世界から淘汰される。神は他者を害さずひっそりと暮らすことを望む小さな存在にさえ、安息を与え給わないのか。
「…アホらし」
真っ暗な室内で唯一光を発するモニタを眺めながら、陽介は自分を嘲笑うかのようにぽつりと呟いた。

 2033年。今やインターネットは世界中に広がり、ありとあらゆるものがデジタル化されていた。日本に限って言えばインターネットの普及率はほぼ100%だ。ネットワーク端末は大幅に改良され、一昔前の携帯電話と同じ位置に「ウェアラブルコンピュータ」と総称される携帯端末が君臨していた。ウェアラブルコンピュータは時計型の物もあればゴーグル型の物もあるが、共通して言えるのは小さいこと、軽いこと、身につけられることである。外ではウェアラブルコンピュータを、自宅や職場ではパソコンを使うのが当たり前で、いつでも、どこでもネットに繋がる――20世紀の後半から提唱されていたユビキタスコンピューティングが実現しつつあった。
 ユビキタス社会を推進する政府の方針として、戸籍や資産、賞罰含めて全ての個人情報が国によってデータベース化され、ネットワークを通じてサービスが受けられるようになっている。わざわざ役所まで赴かなくても必要な書類は自宅のパソコンで入手できるし、紙で印刷しなくとも電子透かしの入ったデータを携帯端末にダウンロードすれば事足りる。金融機関もインターネットバンキングが当たり前。家電の制御も全てセントラル管理できるようになり、例えば外出先から風呂を沸かしたり、冷蔵庫の中身を確認したりすることができる。通信技術も飛躍的に進歩し、電話はヴィジフォンと呼ばれる声と顔を同時に送れるものが主流になり、メールも音声や装飾を混ぜることができるようになった。誰もが当たり前のようにインターネットの恩恵を享受し、最早それなくしては生活が成り立たない。
 壮齢期の大人達は昔を懐かしみ、便利な世の中になったものだと口々に言う。インターネットの普及は確かに人々の生活を豊かにしたが、しかし同時に新たな脅威を齎した。現実世界での犯罪が場所をそのまま電脳世界に移した、いわゆるネット犯罪である。以前の銀行強盗なら、窓口で行員に武器を突き付け金を出せた脅しただろうが、今では銀行のシステムに侵入してパスワードを盗み出し、自分の口座に送金を行わせるといった手口が主流だ。
 ネット犯罪は従来の犯罪とその脅威は変わらないのに、物理的な証跡がないため捜査が難しく立証が困難なこと、多くの容疑者が追跡不可能な地域にいること、そして何よりその危険性を危惧しながらも十分な対策を取らなかった政府の失策が原因で、被害者はを絶たない。そのネット犯罪の中で最も悪質なものがサイバーストーカーだった。
 サイバーストーカーはコンピュータに長けており、実世界でのストーカー行為に加え、電脳世界上でも執拗に付き纏う。標的のデータを改竄したり、個人情報を流布したり、悪辣なメールをサーバがパンクするほど送りつけたりなど、インターネットの普及を逆手に取って徹底的に追い詰めてゆくのだ。警察史上最悪のサイバーストーカー事件では、ストーキング対象者の乗った地下鉄のシステムにクラッキングを行い、生命維持機能を破壊して多くの死傷者を出した。犯人は未だ捕まっていない。

 そう、犯人は未だにこの0と1の海のどこかで、次の獲物を見定めている。

 「――陽介。電気点けないと目に悪いっていつも言ってるだろう」
後ろから声が聞こえてきたと同時に、室内が暖かい色の光に照らされた。急に明るくなった視界に目を細めながら、陽介はモニタから目を放さず言う。
「徹夜明けで目が疲れてるから、眩しいのはヤなんだよ」
「だったらパソコンなんてやらなければいいじゃないか」
パソコンがなければ生きていけないこの時代に、そんなことを言うのは彼くらいだろう。彼ならば確かにインターネットに頼らなくても生きていけそうだが。陽介は苦笑して、背後からそっと回された力強い腕に掌を這わせる。触れ合う互いの体温に、じんわりと心が温かさを取り戻してゆくようだった。
「おつかれさま。今日はもう休んだ方がいい」
「ん」
陽介は子供のように頷くと、力を抜いて逞しい胸に体を預ける。「消すぞ」と了解を取ってパソコンをシャットダウンした孝介は、細い体を易々と抱え上げて寝室へと向かった。陽介はされるがままだ。
 「…こうすけ」
不安になって名前を呼べば、彼は自分を抱く腕に力を込めて応えてくれる。
「うん。ここに、いるよ」
変わらないその声に、答えに、陽介は安堵して目を閉じた。

 腕の中の体は、同じ年、同じ性別なのに自分とは全く違う。日に当たらない白い肌、折れそうなほど細い手足、薄い体。ヘーゼルの双眸にはいつもきらきらしい光を宿しているのに、こうして閉じられている時は驚くほど幼く、弱く写る。だから、不安になる。
「陽介…」
――傍に、いるから。
親友で恋人で雇用主の、誰よりも大切な存在の耳元で孝介はそっと囁いた。




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