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君に聞こえない愛の言葉なんて

ユキチャンとセンセイが張り合う話です。
英語が間違っている場合はそっと教えていただけると嬉しいです。


 

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とある日の午後。返却された英語の小テストの点数を見て、陽介は深い溜め息を吐いた。
(さすがに今回はやべーかも、これ…)
稲羽に来る前から成績は可もなく不可もなくといったラインを維持してきたが、ここ最近は少しずつ下がり始めているのを自覚している。成績の悪さを時間のなさ――自称特別捜査本部の活動――のせいにするつもりはないし、してはいけないと思ってはいるのだが、涼しい顔をして満点を叩き出している相棒を見ると不公平さを感じずにはいられない。少しはバイトを減らして勉強しなければ、とスケジュールを考え始めた陽介の耳に、前方からよく知った声が聞こえてきた。
「やったー!やったよ雪子!!あたし、初めてこんな点数取れた!」
千枝は随分とはしゃいでおり、今にも雪子に抱きつきそうな勢いだ。雪子も自分のことのように嬉しそうに頷いている。
「千枝ががんばったからよ。私も嬉しい」
「雪子のおかげだよ!ホントありがとー!」
どうやら、千枝の点数はかなり良かったようだ。同レベルだと思っていた千枝にも抜かれ、焦りやらプライドやら複雑な感情から、陽介はひとまず教室を出ることにした。屋上で思い切り深呼吸でもすれば少しは気持ちが晴れるだろう。だがその判断は少し遅かったようで、千枝はわざわざ陽介の机にまでやってくると、自分の答案を突きつけてきた。
「どぉだ花村!」
90点。なかなかの点数だ。60点しか取れなかった自分には何も言えない。心の籠っていない声で「スゴイデスネ」と言えば、千枝はあからさまに面白くない顔をする。
「この間の中間テスト、あんたの方が点数よかったからがんばったの!期末は負けないからね!」
彼女には悪意や他意はない。単純に一番近い所にいた好敵手が陽介だったから、それを目標にしたのだろう。蟠りは消え、陽介は苦笑を浮かべながら今度はちゃんと千枝の顔を見て言った。
「おーし、言ったな?じゃあ俺の方が期末に成績がよかったら…」
「なに、何かしてくれるの?花村くん」
千枝の師である雪子がひょい、と横から顔を出した。自分の中の空気を読むことに長けた部分が不穏なものを感じ取り、何となく陽介は後ずさる。案の定、雪子は迫力のある笑みを浮かべ、言った。
「じゃあ、ありきたりだけど、負けた方が、勝った方の言うことをひとつ聞くっていうのはどう?」
千枝は乗り気で頷く。
「うん、それでいこう!覚悟してなさいよ花村、あたしは今回ばっちり雪子に教えてもらってるんだからね」
「千枝は元々頭は悪くないもの。大丈夫、絶対勝てる。一撃よ」
「雪子…!」
陽介の千枝も雪子もかなり自信があるようだ。万が一、陽介が負けたとしても、千枝の要求ならたかが知れているのであまり心配はないが、背後に雪子がいるとなれば話は別だ。陽介は救援を求めて教室中を見回し、ちょうど外から戻ってきた相棒の所へ駆け寄った。
「孝介っ!助けてくれ!」
「?どうした陽介、ここに危険があるとは思えな…」
孝介の言葉は雪子を見た時点で止まった。彼女の笑顔から何かを感じ取ったのだろう。
「月森くん。今度の期末テスト、千枝と花村くんが勝負するんだって。負けた方が、勝った方の言うことをひとつ聞くの。私、千枝と一緒に勉強するから」
「えへへ、負けないよ!」
孝介は眼を細めて横を見た。厄介事を持ち込みやがって、という視線の意味を理解したのか、陽介は懇願するような上目遣いでこちらを見てくる。孝介の最も弱い顔だ。
「月森様マジお願いしますすみません俺に勉強教えてください本気でやりますから!」
「…本当に本気、だな?よろしい、ならば受けて立とう」
かくして、千枝vs陽介と見せかけた、実質は雪子vs孝介の戦いの火蓋が切って落とされた。



**********



「ハイやり直し。15分でやって」
「相変わらずスパルタですねセンセイ…」
堂島家、孝介の部屋。ローテーブルを挟んで部屋の主と向き合った陽介は、真っ赤に染まったプリントを見て溜息を吐いた。
「溜息吐きたいのはこっちだ。英語なんて、教科書の文章を丸暗記しても意味ないだろ。単語と熟語さえ覚えれば、後は文脈から判断して和訳はできる。単語の意味を書き出しておいたからそれでもう一度訳してみろ」
「りょ、了解」
家庭教師のアルバイトをしているだけあって孝介の教えは分かりやすい。貴重な時間を使って自分の勉強を見てもらっているという罪悪感から、陽介は素直に指示に従っているが、今日の孝介はいやに気合いが入っているように感じる。
(こいつ、天城に何か弱みでも握られてんのか?)
「…余計なこと考えてる余裕あるのか?」
「ありません!やります!」
陽介は慌ててプリントに視線を落とした。英訳の問題だが、孝介が意味を書いてくれたおかげで先程よりも随分意味が分かる。意味が分かると、書いてあるのはそう難しい内容ではないことも理解できた。
再採点をしながら孝介は呟く。
「陽介は、あまり英語に興味ない?」
「んー…洋楽とかは聞くけど、正直、授業は楽しいとは思えねぇな」
孝介はプリントから視線を外さず頷く。
「そうか。興味があると、覚えるのも早いんだけど。じゃあ陽介にはそこから始めないといけないかもしれない」
「?」
孝介はペンを置くと、す、と顔を上げて陽介をひたと見た。整った顔立ち、強い光を湛える瞳に見つめられ、陽介はどきりとする。孝介は徐に口を開いた。
「I know ・・・you have been overcoming anxieties and troubles through one's own efforts.」
聞こえてきたのは慣れ親しんだ声でも、異なる響きを持った言葉で。突然のことに陽介は頓狂な声を出す。
「はぁ?何でいきなり英語??」
「いいから。However,I'm concerned about you.Because you push off one's own personal fulfillment for the betterment of others. 」
意味は分からないが、向けられる真摯な眼差しと表情から、陽介は自分のことを言われているのだと諒解した。孝介はそっと手を伸ばし、向いあう陽介の頬に触れる。
「I'm wishing your happiness. All I do is think of you――love you」
顔が近付く。唇が触れる。うっとりと目を閉じかけた陽介だったが、最後の単語の意味を脳が理解した途端、驚きに眼を見開いた。
「!!!も、もしかして、今の、って」
もしかしなくても、今口にしたのは熱烈な愛の告白だった。普段は恥ずかしくて言えないようなことも、陽介の分からない言葉でなら言える。そう思って言の葉に乗せてみたが、流石に小学生でも知っている単語は聞き逃さなかったようである。顔を真っ赤にしてうろたえる陽介につられ、孝介は自分の頬にも血が集まるのを感じたが、見られたくなくて顔を反らした。
「意味は自分で調べてみろ。英語も悪くないぞ」
「う、うん。………けど」
陽介は項垂れると、蚊の鳴くような小さな声で言った。
「………やっぱ、俺に分かるようにもう一回言って欲しいなー、なんて…」
しかし、暫く経っても応えがない。恐る恐る顔をあげた陽介が見たのは、珍しく顔を朱に染め、口元を押さえたまま硬直している孝介の姿だった。
(コイツもこんな顔するのか。かわいいなぁ)
「…陽介、それ反則だから。つかこっち見るな。頼むから」
「だ、だってお前が先に恥ずかしいコト言うからだろ!」
「おれはいいんだよ。お前こそ、いつもは照れて全然そういうこと言ってくれないくせに、ぽろっととんでもないこと言うんだからな…ホント侮れないよ」
「だって仕方ないだろ!恥ずかしいモンは恥ずかしいんだよ!っていうか何、俺が悪いの?!ああもう、ワケ分かんなくなってきた」
二人して顔を赤くして言葉の応酬を重ねているうちに、なんだか可笑しくなってきて、気付けば笑いあっていた。ひとしきり笑って、呼吸が落ち着いた後、孝介はテーブル越しに陽介の頭を抱き寄せた。
「――あいしてる。お前に伝わらなきゃ意味がなかった」
「……俺も」
囁きはやがてキスの小雨に変わる。互いを隔てるものが邪魔になり、陽介の手をひいてソファに座らせると、孝介は眼もくらむような笑顔で言った。
「I've gotta boner,so  I want gangbang with you here and now.I bust a nut your ass!」
「?だから何言ってるのか分かんねぇって…ま、お前になら何されてもいいけど」



期末テストの結果は、僅差で陽介の勝利だった。特に英語はずば抜けて良く、担任からもお褒めの言葉を頂いたほどだ。
「俺…英語がますます嫌いになりそう…」
「何で?楽しいじゃないか」
(お前はな!)
掲示板の一番上に名前を君臨させている相棒に怒鳴りつけたいのをなんとか堪え、代わりに陽介は深い深いため息を吐いた。
今日も稲羽の町は平和だった。



END
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和訳おいときます。文法としてはあっているはずですが、口語としてはいまいちかもです…。

I know that you have been overcoming anxieties and troubles through one's own efforts.
私は、あなたが自分自身の努力によって、心配事や問題を克服しているのを知っています。
However,I'm concerned about you.
それでも、私はあなたが心配です。
Because you push off one's own personal fulfillment for the betterment of others.
だってあなたは他人のために、自分自身のことを後回しにするので。
I'm wishing your happiness. All I do is think of you.
いつもあなたの幸せを願っている。いつもあなたのことを考えている。

月森氏が最後に笑顔で言ったのは、スラングで「ぼっきしちゃった今すぐえっちして中出ししたい」的な内容です(笑 末恐ろしい高校生ですよ…!

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