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起点Aから空への距離・10(完結)

ようやく終わりました…!
10話も費やして真剣に陽介に女体化を定着させる自分の痛々しさは、もはや言い逃れのしようがありません…。いいんだ、好きだから。開き直るしかない!にょただいすきだもん!
色々と恥ずかしくてヒーとなる話ですが、読んでくださった皆様、本当に本当にありがとうございましたー!ここまでいきすぎたにょただと叩かれるかとヒヤヒヤしてたのですが、あたたかくて嬉しいお言葉をたくさんいただけたおかげです。大感謝です。
通常連載同様、10話費やしてもえちまでたどり着けなかったので(笑、続編も読んでいただけると嬉しいですv


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「はぁっ!!」
甲高く耳障りな悲鳴を上げるシャドウに、孝介は容赦なく剣を振るった。人間の捨てた醜い感情をそのまま体現したような、醜くおぞましい肉腫だらけの巨大な人型は、辛うじて死神の衣の残骸を身に纏っている。身の内に持っていた虚無の海は取り込んだシャドウで埋まってしまったのか、剣先から感じたのは確かな肉を切る手応えだった。
「りせ!」
『…だめ、まだ見えない。強い相手だよ!あと、闇属性は効かないから』
敵があまりに強いと、りせのアナライズでもある程度体力を削るまでは状態が分からない。我武者羅に振り回されたシャドウの腕から逃れて下がった孝介は、仲間達に鋭い声で指示を出した。
「弱点を探す。各自魔法で攻撃、効かないようなら物理に切り替えて」
「おう!――ガルダインっ!!」
最も身軽な陽介が真っ先にペルソナを呼び、局部的な嵐を引き起こす。ダメージは与えられたが、特に弱点という訳ではなさそうだった。続いてクマが氷を、雪子が炎を放つが、どれもウィークポイントではないらしい。孝介は素早くペルソナを付け変え電撃を放った。太い光の柱が霧を割いて天から注ぎ、轟音と共にシャドウを打つ。辺りが一瞬、真昼のように明るくなった。
『弱点にヒット!月森先輩、もっと!』
孝介は続けざまに雷を呼ぶ。連続して神の裁きを食らったシャドウは、咆哮をあげながら体制を崩した。訪れた総攻撃のチャンスに、すかさず陽介が声を掛ける。
「いくぜ、相棒っ!」
「ああ!」
快諾を前提としていたのだろう、陽介はたん!と地面を蹴って敵の懐へ飛び込んだ。まるで羽が生えているかのように、軽やかに彼女は宙を舞う。風の加護を受けたその華奢な体がそのまま空へと飛んで行ってしまいそうな錯覚を覚え、孝介は無意識のうちに片手を剣から離して陽介へと伸ばした。しかし陽介は孝介の手をすり抜け、勇ましく異形へと剣を振り下ろす。雪子とクマがそれに続き、手にした武器でシャドウを幾度も打ちすえた。耳を劈く絶叫に意識を引き戻され、慌てて孝介も攻撃に加わる。頃合いを見計らって身を引くと、シャドウはその身からどろどろと黒いタールのようなものを流し始めた。
『!それに触っちゃダメ!気を付けて!』
「コレ、昨日と同じ…!」
雪子が本能的に嫌悪を感じ取って叫ぶ。陽介には流れ出るものが人間の負の感情であることが分かった。人が生んだものなのに認められることはなく、疎んじられて捨てられる。誰もが向き合うことを厭い、恐れる負の感情。自分の中にもあって、そして捨てようとした想い。人に捨てられ、今もこうして切り捨てられようとしている様は、あまりにも憐れだった。あのシャドウの一部は、もしかしたら自分のペルソナになるべきものだったのかもしれない――そう思った陽介の脳裏で、久しく聞いていなかったもう一人の自分の声が響く。
『なら、幕、引いてやろうぜ』
「…ああ、そうだな」
陽介は小川のようになって流れている黒い粘液を避けようともせず、シャドウへと近付く。誰かの制止が聞こえたが、止める気は更々なかった。悪意は靴の底からじわりと染み込み、足の裏から陽介を約く。痛みと、すさまじい勢いで侵食してくる憎悪や嘆きや狂気に負けないよう歯を食いしばり、陽介は意識を集中した。青い燐光と共に現れたカードを、彼女はそっと指で弾く。
「スサノオ、頼む」
陽介の頭上にスサノオが現れ、マフラーをたなびかせてその長い両腕を力強く振るう。現出した大風は竜巻となって影を千々に切り刻み、汚泥ごと吹き飛ばした。断末魔さえも風に飲み込まれてゆく。ぐんぐんと体力と精神力が吸い取られてゆくのが分かったが、陽介は脂汗を流しつつも召喚を止めなかった。スサノオも主の想いに応え、全てを掃うために風を起こし続ける。やがてシャドウは臨界点を超えたのだろう、塵となって崩れ出した。
「…倒した、の?」
千枝が呟く。りせはシャドウの反応がなくなったことをカンゼオンと共に視て確認してから、戦闘終了を皆に告げた。
「陽介!もう、いい」
孝介に後ろから強く肩を揺さぶられ、陽介はようやくスサノオを還す。途端にかくり、と崩れ落ちる体を、孝介は慌てて抱き寄せた。他のメンバーも一斉に駆け寄ってくる。
「ヨースケ!大丈夫?!」
「花村くん、無茶しすぎよ」
雪子とクマが怒った顔をしながら、それでも癒しの光を代わる代わる陽介に注ぐ。孝介の腕の中でやさしい光と小言を甘んじて受け、陽介は「ごめんな」と呟いた。その声はまだよく通るソプラノだった。
「花村先輩、その、体の変化は」
無遠慮にならない程度に陽介の体を観察しつつ、直斗が尋ねる。皆が一斉に息を呑んだのが分かった。
「……見た通りだよ。残念ながら、女のまんまだ」
落胆のムードが静かになった入口広場に満ち始める。重い空気を払拭しようと、努めて明るく千枝が言った。
「あ!でも、これでテレビの外に出たら、元に戻ってるかもしれないよ?」
「そ、そっスね!シャドウも無事倒せたんだし、ひとまず外、出ましょうや」
「…そうだな。手当が済んだら戻ろう。これからのことは…出てから考えよう」
頷く孝介に、雪子がやさしい口調で言う。
「そうだね。皆で、考えよう?」
彼女の言葉は総意だとばかりに皆が頷く。伝わってくる暖かい想いに、陽介は凝り始めていた心がやわらかくなるのを感じた。
(ひとりじゃ、ないんだ)
孝介がいる。孝介がいなくなっても、仲間がいて、自分の居場所があって、互いを支え合うことができる。春に訪れる別れは永遠の別離ではない、全てを失う訳ではない。深く強く結びついたこの縁が切れないよう、仲間達と共に歩んでいけばよいのだ。
(だから俺は、きっと…大丈夫だ)
風に溶けた自分の憐れな想いに、陽介は唇だけでさよならを告げた。




**********




「陽介。やっぱり泊まっちゃダメか?」
しゅん、と沈んだ表情で訪ねてくる恋人に、陽介は既に幾度も繰り返した問答の答えを言う。
「ダメ。二日連続で泊まったら、菜々子ちゃんが寂しがるだろ」
な?と幼子に言い聞かせるように覗きこんでくる陽介の頬は青白い。その細く薄い肩に顔を埋め、孝介は大げさに溜息を吐いた。
結局、テレビの外へ出ても彼女の体は元には戻らず、女のままだった。初めての月経の最中に、慣れない体であれだけの戦闘をしたため貧血になったらしく、顔色がよくない。陽介の部屋のベッドの上で、ベッドヘッドを背に膝を立てて座った孝介は、股の間に彼女を寄り掛からせて腰をさすってやることしかできなかった。
「つか、この姿勢、すげー恥ずかしいんですけど」
「別に誰も見てないし、いいだろ。恋人同士なんだし」
きっぱりと言い切る孝介に、今度は陽介が嘆息する。孝介はいつでもどこでも男らしかった。さすってくれる手をそっと押しとどめ、陽介は言う。
「サンキュ。だいぶ楽になったから、ホントもう帰れよ」
「でも」
珍しく歯切れの悪い口調で言い募る孝介に、陽介はにかりと笑って見せる。
「大丈夫、自棄になったりはしねーよ。それにホラ、明日になれば元に戻ってるかもしれないし」
「…お前の大丈夫は、基本的に信用できない」
孝介は陽介の後頭部に手を回し、逃げられないよう視線を合わせる。
「無理して笑うな。一番辛いのも、不安なのもお前なのに、オレに気なんて使うなよ。どんなに格好悪くたって今更気にしないし、正直俺陽介なら大抵のものは可愛いと思える自信があるから、泣くならオレのいる所で泣いてよ。そしたら抱き締められるし、涙なんか引っ込むくらいイイコトしてあげる」
とんでもないことを口走る孝介の眼は、しかし至って真剣だった。誰もに慕われる月森孝介、その男から向けられる想いの深さと執着に陽介は悦びを感じてしまう。恥ずかしいと思いながらも、湧き起こる感情のままに陽介は首を伸ばしてキスをした。ちゅ、と可愛らしい音を立てて顔を離せば、きょとんとした孝介の顔がある。いつも澄ました彼とのギャップが面白くて、陽介は思わず笑ってしまった。
「本当に、大丈夫だから。信じて?」
赤い頬のまま、ひたと銀灰の瞳を見据えて言えば、孝介は苦しそうに眉を顰めながらも頷く。
「明日も、迎えにくるから」
「うん。待ってる」
最後にゆっくりと時間をかけてキスをして、二人は体を離す。見送りを辞して部屋を出てゆく孝介の背中をぼんやりと見つめながら、陽介は漠然と自分の体が元には戻らないことを感じていた。
(だって、俺は選んじまったから。コイツの傍に、いることを)




翌朝。玄関から出てきた陽介は、ここ数日ですっかり見慣れてしまった八十神高校の女子制服を身に纏っていた。
「おはよ」
「…おはよう」
ようやく慣れてきた澄んだソプラノ。すらりと伸びた白い足を包む黒いハイソックス。絶妙な長さのスカート。華奢なラインを際立たせるセーラー服。やわらかなラインを描く頬とあまい弧を描く唇は、可憐な女子高生そのものだ。けれども内面の輝きも、きらきらしい瞳も、4月に出会い苦楽を共にしてきた親友で相棒で恋人の花村陽介以外の何物でもない。だからその全てがいとおしい。
当たり前のように手を繋いで歩きだす。交際宣言をしてからまだ日が浅いため、揶揄の視線がちらほらと飛んできたが、あと数日もすれば見飽きた光景となりからかう者もいなくなるだろう。陽介を刺激しないよう、不躾な目線を送ってきた者にはとりあえず殺気を向けて大人しくさせてから、孝介は口を開いた。
「戻らなかったんだな」
「ああ。ま、どうにもならないことをグダグダ言っても仕方ないし、人生終わったワケじゃないし。がんばるしか、ねーだろ」
そう言って陽介はまた笑った。風に溶けてしまいそうな軽やかな笑みに、孝介は繋いだ指に力を込める。
「?孝介?」
人の心の機微に敏い陽介が、少し心配そうに顔を覗き込んでくる。孝介は息を吐くと、今まで溜めていた杞憂を一気に吐き出した。
「オレ、陽介が空に飛んでいっちゃいそうで、怖い。…笑ってくれていいけど、すごい不安なんだ。でも、どこへも行かせないから。逃げたら本気で捕まえて閉じ込めるから、覚悟しといて。オレの愛、重いよ?」
陽介は少しの間の後、ちいさな声で「知ってる」と呟く。彼女は唸った後、きっ、と孝介を睨み据えて一息に言い切った。

「俺だって引かれるくらいお前のことが、す、好きだよ!空なんか飛べる訳なんかねーだろバカ!俺はお前の所まで飛べればそれで十分なの!!」

言霊が脳に浸透しきった瞬間、孝介は足を止めていた。次の瞬間、ここが通学路であることも回りの目もお構いなしに陽介を強く強く抱き締める。
「ちょ!おま、何考えてんの?!苦しいから!つーか超見られてるから放してお願い!!」
耳まで真っ赤にし、息を弾ませる陽介がいとおしくてどうしようもなくて、孝介は更に腕に力を込める。全力で抵抗を試みた陽介だったが、やがて無駄だと悟り諦めて力を抜いた。眼前に広がるのは孝介のシャツだけで、頭上に広がる青い空は見えない。けれども、あの蒼穹に必要以上に焦がれることはもうないと陽介は言いきれる。
(俺は、お前の所まで、飛べればいいんだから)
届かなくても、掴めなくても、足掻くことを止めない。そう決めたのだから。
道の真中で抱き合う二人に、後ろからやってきた千枝が遠慮のない蹴りを、雪子が絶対零度の視線をお見舞いする。続けて合流した直斗の呆れたような声、りせの拗ねたような可愛らしい癇癪、完二の冷やかしに背中を押され、二人は学校へと歩き出す。彼らの頭上には、珍しく雲ひとつない空が広がっていた。




END

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