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「スカラーDの形而上演繹」最初から最後までの下書き ※R18

※R18、陽介女体化(後天)注意
※下書きというかねたです ちゃんとした小説ではないです

しばらく更新できそうないので、またもういっそ下書きでも忘れないうちに出しておこう…と出してみました。ご興味ある方、下書きレベルでもぜんぜんいいよ、という方だけどうぞ。
なんていうかお約束満載ではずかしいですがそこがにょたの醍醐味でもある!ということで!
あと、無理矢理だったり、未遂ですが陽介が足立やシャドウに襲われる描写がありますのでご注意ください。

 ----------------------------------------

1、
12/3の夜のシーンから。テレビの中に逃げ込む足立。何かが変わったような違和感。でも理由は分からない。
翌日、学校。いつも通り。特捜本部、足を組もうとして雪子にめってされる。普段は諭すようなのに、今日ははしたないってちょっと責めるような響き。女の子なんだからって。ちょっと引っかかったけど、機嫌悪いのかなって思ってすぐ正す。そしてテレビの中。敵、強い。そこそこ進んだところでちょっと危ないときがあり、陽介を考介が庇う。え?
「大丈夫か?!」「あ、うん」
いつもならこんなことない。考介は自分が女になっても対等で、背中を預けてくれた。混乱する陽介を、考介、甲斐甲斐しく陽介を癒し、守る。え?え??どういうこと?なんで他の女子(雪子や千枝や直斗。彼女達を信じていない訳じゃないけど、やっぱり気を使っている。やさしいから)にするように扱うの??
「どうしたの、オマエ。おかしいぞ」「おかしくなんかない。陽介は頼りになるけど、女の子なんだから。無理してほしくないんだ」途端、目の前が真っ暗になった。
いつもの考介なら絶対に言わない台詞。彼は自分が「女」として扱われるのが何より嫌なことを知っているはず。呆然とする陽介に完二まで加わって。
「そうっスよ。いっつも言おうと思ってたんスけど、花村センパイはちょっと危なっかしいっス。荒っぽいことはオレら男の出番なんで、あんまり無理しないでください」え?えええ?
立ち尽くす陽介を不思議そうに見るほかの仲間。違和感はない様子。口調も、案じる態度も、いつもと変わらない。まるでおかしいのは自分だけのように。いやな予感。もしかして。
陽介、震える声で恐る恐る尋ねる。心臓ばくんばくん。怖い。でも確かめないといけない。違ってくれ、と祈りつつ震える声で。
「なぁ。俺が、こうなったのって、いつからだったか覚えてる?」
あえて曖昧な質問。でも昨日までの彼らなら覚えているはず。皆、不思議そうな顔。考介、代表して「こう、っていうのが何を指すのか分からない。でも、陽介は4月に出会った時から変わらないように思えるけど」
体温が一気に下がった。自分が女になった時、あれだけ大事になったのに、なかったことになっている。反応を見れば分かる、仲間の誰もが考介と同じだ。覚えてない!
かたかたと震える陽介を見てただ事ではいと察した考介、皆にちょっと休憩を言い渡して陽介と少しはなれた場所へ。「大丈?どっか具合悪いのか」心配してくれる。嘘偽りは無い。でも、そこにあるのは絶対的な庇護者。彼は真綿で自分を包み、守ろうとしている。対等ではない。なんでそんな目で見るの。
「さっきのだけど。陽介は何を気きたかったんだ?悪いけど、「こう」が何か分からない」「…」だんまりする陽介に、考介、続ける。「お前が男言葉だったのは最初からだし、ムチャするのも最初からだったけど。ああ、でもすごく綺麗になったよ。髪も伸びた。オレ達が付き合い始めたのは夏からだけど」的外れな言葉を続ける恋人。気遣ってくれているのは分かる、でも、心がどんどん冷えてゆく。
「…なんでも、ない」「でも」「なんでも、ない!!」怒鳴る陽介に驚く考介と皆。陽介、ともすればこぼれそうになる涙を堪えて被りを振る。「ごめん、ほんと、なんでもない。…悪ィ、俺、今日はもう戦えない。前線メンバから外してくれ」
具合が悪いと解釈して心配する皆。だいぶボロボロだったため、その日はもう帰ろうってことに。送る、という考介を断る陽介。クマ、心配そうに。
「陽介、どうしたクマ?」「…なぁ。すっげーヘンなこと聞いていいか?俺って、最初っから、女だったっけ?」クマ、きょとん。そして当たり前のように頷く。
「そうクマよ。そりゃ、ヨースケはユキチャンやリセチャンに比べたら色気が足りんけど、立派な女の子クマ!」「…そっか」
今のではっきりした。恐れていたことが、ついに起きてしまった。
――考介達まで、「花村陽介」が「男」であったことを忘れてしまったのだ。




2、
翌日。陽介、殆ど眠れずに過ごす。
朝、考介が迎えに来てくれる。本当にいい彼氏ね、とベタ褒めの母。まんざらでもなさそうな考介。誰も、誰一人として陽介が男だったことを覚えていない。頼れるのは自分の記憶だけ。でも、マイノリティ。自分の記憶の方が誤りなのではないかと思ってしまう。
もしかしたら、前のように問い詰めれば、両親は思い出してくれるかもしれない。でも、そんな勇気が今の陽介には持てなかった。あの時は考介が隣にいてくれたし、仲間たちも覚えてくれていた。独りではなかった。でも今は独りだ。もし否定されてしまったら、きっと自分は立ち直れない。頭ごなしに馬鹿にされたりはしないだろうが、昨日の戸惑いをもっと色濃くした瞳で見られることが容易に想像できる。
それに状況が悪い。霧のせいでおかしくなったと思われて病院送りにでもなったら、真相を解き明かすどころではなくなってしまう。こんな時ばかり冷静な自分の頭。慎重にならないといけない。
陽介、預かっていた手紙を思い出す。この存在が支えだった(自分が女になった、という出来事があった唯一の証拠)。開封はしていない。これを彼らに渡せば、自体は好転するかもしれない。(でも、もし好転しなかったら?)
こわい。まだ踏み出せない。ひとまず数日様子を見ようと決めた。案じる考介の気持ちが、今はひどく重かった。

フォローのない「女」としての生活は、想像以上に辛かった。
気持ち的な問題もあると思う。頼れる者がいない今、陽介は常に気を張っていなければならない。今までどれだけ仲間達に支えられてきたのかを痛感。ぼろをださないように、自然と発言は少なくなり、消極的になる。よく眠れないし食欲も無い。仲間達の心配が重い。ごめん。でもどうして忘れちゃったんだよ!そんなこんなで数日。
頭ぐるぐる。どうしようもなくなって、陽介、授業さぼって屋上へ続く階段へ。寒い。でも人と話さなくて済む分楽だった。
(もう、限界かもしれない)
これからどうしよう。女として生きてゆく覚悟を決めたつもりだったが、まだまだだった。これ以上皆の足を引っ張るわけにはいかない。リミットが分からない、足立を倒さないといけない。無理をしてでもいつも通りに振舞わなければ。全部はそれからだ。
声を殺して泣いていると、足音。教師に見つかったか、と思ったら、一条。お互いびっくり。
「なんか、よく泣いてる所に会っちゃうなぁ」苦笑。家の用事で遅刻して、朝ごはんまだだったからこっそり食べてこうと思ったらしい。手にはコンビニの袋。
考介が心配してたよ、と。でも陽介、また自分の問題だから、と言う。一条、無理には聞かない。ただやさしく頭を撫でてくれる。あたたかくて、何故だか仲間よりも素直に受け止められて(彼は最初から「忘れて」いたから)、陽介、更に泣く。
「忘れ、られちゃったんだ」「うん」「アイデンティティ、っていうの?あんま難しいこと、わかんないけど、お…私が、私だって、大切なこと、全部。もう、誰も知らないんだ。誰も覚えててくれないんだ!もうわかんねーんだ、もしかしたら自分のキオクが間違ってんじゃないかって、こわく、て!」「…俺も、忘れちゃってるのか?」
真摯な声。紺色の瞳。陽介、返事ができない。一条、困らせてごめんって笑う。
「花村の言うことを聞かない奴じゃないだろ、月森は。皆も」「うん。でも、こわい」「否定されたらって、その気持ち、分かる気がする」一条、大人びた目。彼にイロイロあったことは少し知っている。一条、やさしく陽介の頭を撫でて「こわいって、吐き出していいよ。花村、がんばりやさんだからさ。きっと月森の前じゃ弱音吐けないんだどうから。スッキリしてきなよ」
やさしい言葉に、体温に、涙が溢れて止まらない。「ごめん、ありがとう、ごめ、ん」泣き続ける陽介。※体勢の描写。階段下から見たら抱き合ってるよう。ふたりを見ている者がいたことに、ふたりは気付かない。




3、
2の日に放課後探索。一条の前で弱音を吐いたせいか、ちょっとすっきり。いつもよりよく動けた。
でも今度は考介の様子がちょっとおかしい。上手く隠しているから仲間達は誰も気付いてない。でも自分には分かる、ちょっと調子悪い。
探索終了後、考介を呼び止めて話を聞こうとしたら、逆に向こうから声を掛けられた。陽介、クマを先に帰して近くの公園で話。時間も遅いし、霧も酷いので誰もいない。ちょっと怖い。でも考介が一緒だから大丈夫…のはずなのに今日は彼自身がちょっと怖い。ピリピリしてる。
「なぁ、どうしたんだよ。俺でよければ話、聞くけど」「…陽介。今日、授業さぼって、一条と何してたんだ」「へ?」
ぱちり、と瞬き。孝介がイラ、っとしたのが分かった。次の瞬間、がん!と遊具(あのくるくる回る丸いやつ)にカラダを押し付けられる。痛い。怖い。孝介超怒ってる。
「何すんだよ!」「オレは、陽介も、一条も、信じてるけど。最近お前の様子がおかしいのは、一条と何かあったからなのか?」「は?一条は関係ねーよ」「じゃあ、何を」
どうしてそんなに詮索すんの。どうして信じてくれないの。そもそも一条に弱音を吐いたのだって、お前が、皆が、忘れちゃったからなのに!
陽介、きっと孝介を睨み返す。「一条は関係ない。どいてくれ。かえる」「嫌だ」
孝介、陽介を閉じ込める。そのカラダは冷え切っていた。くらい、思いつめた声で彼は言う。「どうして何も言ってくれないんだよ。オレじゃ、お前の助けにはなれないのか」「そうじゃない」「一条には言えるのに、オレには言えないことなのか」「…ああ」
苦しい。言ってしまいそうだ。なじってしまいそうだ。何で忘れたのって。
必死に唇を咬んで堪える陽介。孝介、怒りを称えた目でキス。体をまさぐられ、意図を察する。強張るからだ。やめろ!いやだ。陽介は、オレのもの。誰にも渡さない、どこへも行かせない。
抵抗するも、鍛えた男の体に女の自分がかなうはずもなく。陽介の意志を無視した形でお外でアッー!否応なしに女扱いされていることを突きつけられる。ろくにならさないまま、遊具に捕まらされ、バックから突かれる。ぎぃぎぃと金属がきしむ音。喘ぎ。吐息。やだ、やめて、って言っても孝介はやめてくれない。
「ごめ、ん、陽介」孝介、イく。陽介も強制的にイかされる。彼の指先に慣れてしまった体。気持ちいいはずななのに、ちっとも幸せじゃない。熱くならない、
冷めてゆく一方。呆然と泣く陽介を抱き締め、何度も謝る孝介。謝罪は上滑りするだけだった。
(※えちは未遂でなくしてもいいかも。長い)
 
夜。家。陽介、部屋で手紙を前に悩む。渡すべきか。
もう限界だ。あんなことをされても孝介を恨むつもりはない。まだ愛してる。悲しかっただけ。彼は多分、ひどく混乱している。自分のせいで家族がいなくなり、真犯人はそれなりに交流のあった叔父の部下。リーダーとしての重責。セカイレベルのもんだい。自分に縋った。
逆に言えば、今の自分ははけ口にはなっても、支えにはなれていないんじゃないのか?だって自分の言葉すら今の彼には届かない。
(男とか、女とか、関係なく。誰よりもあいつの傍で、あいつの力になりたいのに)
元が男だったこと、だけじゃなくて、それに伴う大事なことーー男同士だからこそ築けた無二の絆ーーまで消えてしまったように思える。例えば自分が最初から女だったら、きっと彼とは相棒にならなかっただろうから。今の彼には、悔しいが自分は庇護の対象でしかない。孝介は守るべきものがいれば強くなる。けど、そうやって大事なものを守るために傷付く彼を誰が守るの。自分がやらなきゃ。
0時。じり、と音がしてテレビを見ると、なんとマヨナカテレビ。凝視する陽介の前で画面は鮮明になり、足立。驚く陽介の前で足立、話始める。
「ああ、ホントに繋がるんだ」足立、語る。自分がテレビの中に入ったことで、マガツの王になったこと。律を継承したこと。ルールを変更したこと。
「シャドウの力も記憶も、今の僕は全部把握できて、その気になれば操作できる。…そうそう、継いだ中に面白いキオクがあってね。ジュネスの娘が実は息子だったって。興味深かったからちょっと弄ってみたんだ。繋がってる糸を全部切り離してみたの。ねぇ、どうなった?何人かは覚えてたみたいだけど、皆、キミが男だったってこと忘れちゃったでしょ」
子供みたいな狂気。陽介、怒る。お前は、どこまで、人を馬鹿にすれば気が済むんだ!足立、笑う。
「何で怒るの。感謝して欲しいくらいだよ。だって、キミ、生まれた性別をゆがめてまで甥っ子君と一緒にいたかったんでしょ?日本は同性愛者に厳しいからねー。アハハ。でも、
ま、全部きりに包まれるから、何やっても無駄なんだけど」「黙れ!」
足立、笑いを引っ込めて。「皆のキオクを戻してほしい?再構築されてしまった世界を戻すことはできなけど、キオクくらいだったら今の僕にはそれができる」「…」「ね、ゲームしようよ。こっちは低俗なシャドウばっかでつまんないんだ。キミは今からこっちにきて、おにごっこしようか」
童心に返ったみたいでwktkするあだち。イライラ。陽介、断る。信じられないし、何かあったら考介達に負担がかかる。足立、見透かして笑う。
「断ったら、リミットを早めるよ。やろうと思えば今すぐにでも全てを霧に包めるのに。キミ達来るのを待ってあげてるのに遅いからあきてきちゃった」「…!」
ほんとかどうかは分からない、けど、スルーする訳にはいかない内容。脅迫され、同意する陽介。ご招待、というところでちょっと待て、着替えくらいさせろ、と。女の子みたい、失礼、女の子だったね、準備できたら呼んでって馬鹿にされる。
陽介、戦闘服(制服)に着替える。こっそり階段を下りて靴持ってきて、武器とあるだけのアイテムも準備した。少し迷って書置き。ちょっと家を空けるけど心配しないでって。ちゃんと帰ってくるからって。
机の上の手紙から、迷わず孝介のものだけ手にとって、残りはそのまま。準備できた。足立を呼ぶ。テレビから伸びてきた闇の触手に絡め取られ、陽介は意識を手放した。




4、
翌朝。クマの電話で目が覚め孝介、ひどく混乱してる。「ヨースケが、いなくなったクマ…!」
花村家父母は今朝は慌しく出て行ったため不在に気付いてない。(霧のせいで出てこなくなった従業員が多いため、朝から晩まで働きづめ)起きてこない陽介を起こそうと部屋に入ったクマが置手紙を発見。皆に連絡。
花村家に集まる一堂。もぬけのカラの陽介の部屋。机の上に散らばる手紙(未開封)。皆、最初は覚えが無い。でも封筒のチョイスとか、宛名の文字とかは陽介じゃなくて明らかに自分自身。いぶかしみながら開封。孝介のだけないから、彼以外は即座に開封。
読み始めてすぐに、皆、愕然。「うそ…」「どうして、忘れてたの。アイツ、ほんとは」「私、花村くんに、ひどいこと言っちゃった…!」「オ、オレも。きっと、すげー、あのヒト傷つけた」「っ、どうして、あの人は…!」
皆、忘れていた事実を突きつけられたような顔をしている。独りだけ??の孝介。千枝、目に涙を溜めて。
「月森くん!自分の部屋の、大切なものをしまっておく場所!」
「私達、これを書いたときにコピーを取ったはずだよ!写しがそこにあるはず」
クマ、孝介に縋って。「センセイ!クマ達、ヨースケが一番忘れて欲しくないこと、忘れちゃってたクマ!はやく、追いかけて、ゴメンナサイしないと!!ヨースケ、今頃、きっと独りで泣いてる!!」
――忘れている。
ずきり、と頭が痛む。何を。仲間たちは皆、クマの言葉に同意している、何かを取り戻した。でも自分は分からない。まだキオクの戻らない孝介に代わり、雪子が指示。
「月森くんは、家に戻って手紙を探して。クマくん、りせちゃん、前みたいに花村くんの気配とか辿れない?」「そうですね。家の人が誰も気付かなかったなら、テレビの中に…という可能性も考えられます」「センパイは早く!」
急き立てられ、家に走る。息が切れた。頭ぐるぐる。
(陽介)
ずっと言えなかったのは、自分達が忘れていたからか。それほど重要なことを忘れていたというのか。彼女のことをあいしている、彼女のことを取りこぼすなんてありえないと思っていたのに、一体何を。
家に着く。靴を脱ぐのももどかしく部屋に駆け上がる。この部屋で鍵がかかる場所は一箇所しかない、机の一番上の引き出し。あける。手紙。「月森孝介様」と自分の字。震える手で開封。焦って滑りそうになるのを堪えて字を追う。
「………そん、な…」
がくり、とその場に膝を突き、孝介、頭を抱える。全て、思い出した。自分はなんてことを。
(ごめん、陽介。ごめん)
不甲斐ない自分に涙が滲む。彼女を酷く傷つけた。彼女は「彼女」ではない、体は女だが、男として生まれ、17年間男として生きてきた。対等の存在、ずっと自分の傍で支え、叱り、笑って、愛してくれた相棒。全てをなげうって自分を選んでくれた大切な人。そんな陽介を自分はただ腕の中に閉じ込めて守ろうとしていた。そうしたい、という気持ちは男の時からあったけれど、彼女がそれを望まないのに、「女だから」という理由で押し込めていた。そうされるのが何より彼女を傷つけると知っていたのに。
キオクが混濁している。塗り替えられた、ゆがめられた痕がある。ふりはらい、掴み取る。本当の過去。
鳴る電話。直斗。
「もしもし」「…思い、出したよ」「そうですか。…悪い知らせです。花村先輩はどうやら、テレビの中にいるようです。先輩を女にしたシャドウとよく似た痕跡があると、クマくんと久慈川さんが言っています」
「そう、か。全員、探索の準備をしてジュネスに集合してくれ。テレビの中へ行こう」
電話を切り、準備。早く迎えに行こう。そして謝らないと。許してくれるまで何度でも頭を下げて、何だってする。傷つけた傷口が埋まるようになんどもなんどもすきって言って、糾弾も涙も責めも全て受け止めて。陽介になら殺されたって構わない。それで彼女が楽になるなら。
(陽介)
いるかも分からない神に祈る。どうか無事でいて、と。



 
5、
もうどれくらい経っただろう。
はぁはぁと荒い息。持ってきたアイテムは底を突いてしまった。時計もケータイもテレビの中では止まってしまうから時間は分からない、けど、もう何日も逃げ回っている気がする。
足立の言うおにごっこは、陽介がシャドウに見つからずに足立を見つけられたら陽介の勝ち。シャドウに見つかって、つかまったら陽介の負け(倒すのはOK)。死なない程度に痛めつけられるとは宣言してある。シャドウは低能で、手加減なんて苦手だからねって。
体中ぼろぼろ。りせの助けがなければ足立がどこかの前に、現在地すらよく分からない。軽率だった。カエレールも入口から入った訳ではないから反応しない。いっそ掴まってしまおうかとも考えた。楽になりたい。
だが足立に捕まったら、何されるか分からない。きっと孝介達に不利になるように扱われる。自分達はまだ、頭のどこかであの男に「人間」である良識を信じているけど、もしあいつが本当に狂っていたら?保障なんてない。
(となると、やっぱ、ゲームに勝つしかねーよな!)
お守りのように時計を触る。有界の後に直した。また、ポケットには孝介の手紙。思い出してくれなくてもいい、彼が自分を愛してくれていることには変わりないから。
重い体を上げる、が、姿勢を高くした途端、イーグルの高い声がした。見つかってしまったのだ。
辺りのシャドウが一斉に近付いてくる。行く度目かのマハガルダインを放ったところそよ風しか出なかった。SP切れた。
「しまっ…!」
ギガスに当て身を食らい、吹っ飛ぶ。凄まじい痛みと共に衝撃に意識を失った。

目が覚める。体が重い、手、手首が痛い。一度意識が浮上すると、その痛みで一気に目が冴えた。
「…おや、目が覚めたかい?」
くすくす、と笑い声。少し離れた場所、どこから拾ってきたのか瓦礫の中には似つかわしくないアンティーク調の椅子に腰掛けた足立がいた。陽介は首を巡らせる。空はマーブル、辺りは廃墟、マガツだ。そして自分は倒壊した建物の柱に、手首を縄で縛られて固定されている。とりあえず、鈍痛はするし体は重いし今にも死にそうだが、欠けた所はない。生きている。
足立、笑う。
「勝負は僕の勝ちだね。ま、退屈凌ぎにはなったかな。短かったけど。さーて、どうしようかなー」
足立、立ち上がり、近付く。陽介の体をまじまじと不躾に眺め、笑う。いやな感じがした。
「君、さ。ほんとに女の子に、なっちゃったんだ」
頬にふれられた。きもちわるい。ベクトル~で男に触られた時みたいに。足立の手がゆっくりと体を這う。項、そして、やわらかな膨らみ。おぞましさに悲鳴を上げそうになってなんとか堪えた。この男に無様な様を見せたくない。
「さわんな」「敗者は勝者に従うしかないんだよ」
孝介とは全然違う手付き。きもちわるいきもちわるいきもちわるい。逃げようとするけど繋がれてる。振り上げた足は簡単に掴まれ、逆に体を挟み込まれて固定されてしまった。大人の、男の力には敵わない弱い体。、滲む涙。せめてもと睨んでやると、足立、さもおかしそうに笑う。
「泣き喚けばいいのに。孝介、助けてってさ。彼はヒーローなんだろ?来てくれるかもしれないよ。コドモはいいよね、箱庭のなかでオトモダチゴッコしてればいいだけなんだから」
「うるせぇ。てめぇみたいに人生諦めちまった奴に何が分かる」
口論。菜々子と堂島の件で逆鱗に触れてしまう。足立の目が剣呑な色。しまった、という間に喉を閉められる。
「ぐあ」
「僕、キミみたいなのだいきらいなんだよね。甥っ子くんも。僕に人としての良識を期待するのは無駄だよ。だって」
足元に闇の触手。陽介の足から絡み付く。
「こんなことできるのが、もうニンゲンなはずないよね?僕はもう、マガツの王なんだから。どうするのが一番君らにダメージ与えら得られるのか考えたんだけど、やっぱこれかな、うん」
触手が陽介の服を裂く。顕わになる肌。足立、満足そうに笑って。
「…うん、意外と、いけそう。最初に、僕に強姦されて。後はシャドウに犯されまくる。その姿を甥っ子くんに見せてあげよう。うん、それがいい」
(狂ってる…!)
足立は狂ってると言うか、狂おうとしているというか、そんな感じ。狂気をこの狂った世界が、霧が、増長させている。陽介、残る力を振り絞って暴れる。スサノオを呼ぼうとするが心の力が足りない。シャドウが絡み付く。足を広げられる。下着の上から触手が敏感な場所を這った。息を詰める陽介を足立がせせら笑う。
「女みたいに感じちゃうんだ。男だったくせに。君って一体、なんなんだろうね。男でもないし、女にもなりきれない」
「…」
ひらり、と落ちた白い紙。孝介の手紙。奪われる。「返せよ!」足立、しげしげと見て失笑。
「こんなの書いても忘れちゃう時は忘れちゃうのにね。キミってほんと、かわいそう」
足立、見せつけるように手紙をびりびりと破く。陽介、大切なものが汚されたような気がした。
「キモチなんてうすっぺらいもんだよ。この紙みたいに簡単に、なくなっちゃう。 女みたいに泣き叫べば、少しは楽になるかもよ? どうせキミが女だったことなんて、誰も覚えてないんだから、さ。そしたらちょっとだけやさしくしてあげる」
「…うるせえ!女だからとか馬鹿にすんなよ!!少なくとも、俺の知ってる女は、てめぇみたいなクズに屈服したりしねぇ!!」
千枝も雪子もりせも直斗も。小西先輩もそうだった。あらがった。足立の目が冷たくなる。「うるさいよ」殴られる。でも屈しない。睨み付けてやると、足立、身を引いて、大勢のシャドウを出す。
「…化け物の慰み者になるといいよ。後悔するといい。どれだけ泣き喚いたって、もう遅い」
シャドウが近寄る。触手が肌を這う。ギガスのでかいナニ。冷や汗。死を覚悟。(いやだ!!!)その瞬間、雷が天を裂いた。
「!!」
「陽介!!!」
きて、くれた。場に入ってくる特捜隊。足立、心底イヤそうに「これからがいいところなのに。…まぁ、観客は揃ったかな。ほらほら、早くしないとキミの大事なコイビトは、シャドウに赤ちゃんを孕んじゃうよ?」
一撃で倒せなかったシャドウと、次がら次へと生まれてくる異形が、陽介に絡み付く。壁のように立ちふさがるシャドウ達のせいで近寄れない。
足立、ねたばらし。
「健気だよねぇほんと。期限を早めるって言ったらホイホイついてきちゃって。僕が約束を守る保障なんてないのに、ばっかみたい!忘れちゃった君たちのために一人でがんばっちゃって、そういう自己犠牲、見てるだけで疲れちゃう。もっと滅茶苦茶にしてやりたくなる!!」
ギガスが足を掴んで割る。「陽介!!」目の前で犯されちゃうの?せめてこの拘束がなかったら…!
(諦めるのか?)
頭の中で声。いやだ、あきらめない。泣いて下ばっかり見てないで、上を向くって決めた。ほんの少しだけ心の力が戻ってくる。陽介、最後の力を振り絞ってスサノオを呼び出し――自分に向けて突風を放った。
シャドウの悲鳴。風は決して陽介を傷付けない。縄を、シャドウの触手を引き千切る。拘束が解けた。
「陽介、下がれ!!」
陽介、後ずさる。孝介、特大の雷を廃墟に向かって起こした。瓦礫が崩れ、陽介とシャドウの群れの間に壁ができる。土埃と壁で視界は見えない。向こうで戦の音が聞こえる、けど、意識が遠のいてゆく。暗い光の中で陽介は意識を失った。



6、
瓦礫のこちら側。足立と対峙する孝介。許さない、というコドモにずるい大人は笑う。
「君に許してもらおうなんて思ってないし。ああ、彼女はキミを許してくれるかな?ははっ、恋人一人救えないキミが世界を救えるの?ばっかみたい! 退屈凌ぎにはなったよ、じゃあまたね。待ってるから」
逃げられた。後に残されたシャドウを、孝介、奴当たるように鬼神の如き強さで屠る。仲間達が怯えるくらいに。やがて全てを倒し終え、瓦礫を一振りで退かした彼は、皆を制止し、一人だけ中に入った。
倒れ伏す陽介。涙の後と、腫れた頬。破れた服、化け物の体液。駆け寄り、脈を確かめて、安堵する、けど、安堵できない。自分の服を着せ、泣きながら意識の無い彼女に幾度も謝りながら、傷を癒す。りせだけを呼び、彼女に頼む。
「陽介の、体の中に。陽介以外の体液がないかどうか、分かるか?」「!」
りせ、言いたいこと察して「視」る。ややって安堵の息。だいじょうぶ。そっか。
抱き上げる。意識の無い体は重いけど軽い。一人で全部抱え込む愚かさもやさしさも、そして諦めない強さも、全て自分が愛した花村陽介。守られるだけのただの女の子じゃない、その薄い肩で、細い腕で、いつだって自分を支え、背中を押し、守ってくれた。昔は男だったことをちゃんと覚えている。肩を並べ、背中を預けられる、唯一無二の相棒。
「帰ろう、陽介」
謝らなくては。謝って済まされないかもしれないけど、少しでも陽介を楽にできるのなら。
トラエスト。
 
******
 
見慣れた天上。堂島家の、孝介の部屋。布団。孝介がいる。「目、覚めた?」「あ…」
安堵し、でも緊張する。まだ忘れられてる状態だったら辛い。孝介、痛ましそうに微笑み「思い出したよ」と。そして、深々と頭を下げた。
「ちょ」「ごめん。謝ってもお前がした辛い思いが無くなるわけでもないけど、本当にごめん。ひどいことしたし、言った」
女みたいに一方的に庇護され、扱われること。陽介が一番いやなこと。孝介はそれをした。でも記憶がなければ仕方ないだろう。孝介が好きで失った訳ではない。悲しさ、空しさは残るけど、許すしかない。許そうと思う。
「も、いいよ。思い出してくれたなら」「でも、どうやって償っていいのか分からない。俺をすきにして。何だってする」
もどかしい気持ち。だって今更言葉を重ねられたって、あの時の自分の悲しみは消えはしない。いろんなものを抑え込んで、陽介は言う。
「…じゃあ、約束して。二度と忘れないって」「うん。誓う。今度こそ絶対に。シャドウに記憶を書きかえられようが何されようが、絶対に。違えたら殺してくれていい」「重いな、お前の愛…」
孝介、触れようとして、戸惑う。こわい?んーん、へいき。あ、でも、風呂、入りたいかも。抱きかかえられ、運ばれる。気を使って一人にされる。
シャワーを浴びながら自分の姿を見る。女。汚されはしなかった。でも怖かった。今更ながら涙と震えが。こんなに弱くなってしまった。こわい。
もうあんぜんなのに、上手く息が吸えない。シャワーで窒息しそう。止めることもできない。「陽介?!」
孝介、入って来て、陽介を抱き締める。ぬれちゃう、そんなのどうでもいい。孝介、陽介をきつくきつく抱きしめ「ごめん。もう二度と離さないから、忘れないから。本当に、ごめん」
陽介、恋人の胸に縋ってわんわん泣いた。ぬくもり、ここが帰る場所だと実感できる。涙で淀みが押し流されてゆくようだった。
 
 
 
 
 
7、
クリスマスイブです。
あの後、仲間にも平謝りされた。無事に足立を倒した。色々考えるところはあるものの、とりあえず事件は一件落着。
特捜でのクリスマス会は明日。今日は千枝の家に泊ると親にはウソついて、堂島家にお泊り。皆が来るのは明日の午後。せめてものプレゼント。
(気ィ使い過ぎだっつーの)
クリスマスらしい場所へのお出かけとか考えたけど、高校生には不釣り合いだし。陽介が選んだのは、オキナでのちょっとしたデートと、のんびりすることだった。彼を独占できる時間は少ないから。 
午前中にオキナに出て、菜々子と堂島へのプレゼントを選ぶ。事件のせいでろくに買い物に行く時間もなかったから。手を繋いで歩く。寒さも気にならない。道行くカップルと、自分達も同じ。幸せ。
そしてデパートへ。クリスマスプレゼントは、二人で話し合ってお揃いのものを持つことにした。指輪。はずかしい、けど嬉しい。注文が今なので届くのは来月になるけど、楽しみ。
お昼を食べ、ケーキを買って稲羽に戻る。そのままバスで病院へ。菜々子にクリスマスプレゼントをしてきた。堂島にも。すごく喜んでくれてた。
堂島家に戻ってきたら夕暮れ。二人して食事を作り、新婚気分。しあわせ。ずっと孝介と一緒。ちょっとだけ豪華な食事をし、お腹がいっぱいになったのでケーキはオフロに入ってから。交代で風呂を使い(一緒に入る?って聞かれたけど、そういう気分になっちゃいそうだからやめといた)、ケーキ。ちっちゃい、二人きりで食べられるホールのやつ。
「メリークリスマスってやると、キザっぽいよな」「陽介は言いそうだけどな」「そういうおまえこそ」
実は、と孝介、シャンパン出してくる。アルコール入ってる。「おま」「尚紀にちょっと、都合してもらいまして」「悪い先輩デスネ」
付き合いでちょっと飲んだことくらいある。ケーキ食べながらほろ酔い。お約束に陽介が口の横に付けた生クリームをぺろり。顔赤くする。お酒のせい?ちげーよ。だって、その、ひさしぶりだし。
足立にああいうことされてから、孝介はキスまでしかしてくれない。陽介に月のものが来たのもあるけど。孝介になら怖くないのに。抱かれるのが怖いっていうなら、男の時の方がよっぽどだったよ。
もういちど、クリーム付いてないけどキス。抱きかかえられてちゅくちゅくとキス。頭がふわふわする。
「陽介」
しあわせだ。しあわせすぎて涙がでそう。スカラーはどこへいくのか分からない、けど、孝介の思いを忖度し、演繹する。導き出された結論は、あいつもおれがすきだってこと。独りよがりじゃない(足立に言ってやりたい!)つうじあえてる。
ソファを背にした孝介とき上位でアッー!おわった後、外は雪。ずっと一緒にいようって願い、カミサマが叶えてくれるといいな。で終わる。



おわり!(読んで下さった方、どうもありがとうございました!)
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