忍者ブログ

whole issue

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

スターゲイザー ※R18

※R18、陽介女体化(後天)注意
2010年8月インテで無料配布した、陽介一人称の話です。

---------------------------------

俺達はまだ高校生で、できないこと、しちゃいけないこと、たくさんある。
そんな時、つい言っちゃうよな。「大学生になったら」って。
でもさ、ほんとに大学生になったら、できるようになるのかな?
今度は「大人になったら」って、先延ばしにするんじゃないのかな?
じゃあさ、大人になっちゃったら。その先は、どんな理由をつけて諦めればいいんだろ。




 年が明けて、一月になった。
 後味は決して良くないけど、真犯人は掴まり、八十稲羽を包んでいた霧は晴れ、俺たちは普通の高校生に戻った。
 菜々子ちゃんも堂島さんも、もうちょっとしたら退院できるらしい。マヨナカテレビももう映らないし、平和で退屈な田舎町の日常が戻ってきた。
 こう言っちゃなんだけど、俺を含め特別捜査隊の奴らはみんな、ちょっと暇を持て余している。だって事件を追っている最中は本当に忙しくて、学校のことや家のことをやりくりしながらテレビの中に入るのは大変だった。そんな密度の濃い生活からいきなり解放されたから、何していいのか分かんないんだ。里中なんか今日の昼休み、相変わらず肉気の多い弁当をつつきながら、「ふきんしんだけど、ヒマだね」って言ってた。皆もふきんしんだとは思いつつ、頷いてた。
 そう、時間はある。でも、永遠じゃない。限られてる。だから俺らはわずかな時間を惜しんで、親の目を盗んで、セックスしている。

 「……ん…」
何かに急かされているような気がして、俺は目を覚ました。ぼんやりしたのはほんの二、三秒、はっとして枕元に置いてあるはずの携帯電話を掴もうと手を伸ばしたけど、そこには何にもなかった。代わりに、背中から腰にかけて眠りを妨げるのに十分な重みが、背中には心地よいぬくもりがある。
 腹に回された、まだ大人にはなりきってない、でも、俺よりは全然太くてしっかりとした腕。俺はようやく、孝介とそういうコトをして、そのままうとうとしてたんだっていうのを理解した。
 カーテンを締め切った部屋は薄暗い。日はまだ完璧には落ち切ってないみたいだけど、もうちょっとしたら真っ暗になる。冬の日暮れは早いから。ベッドサイドに置いてある目覚まし時計を見れば、時刻は五時になろうとしている所だった。俺はほっとした。まだクマや母さんが帰ってくるまでは一時間くらいある。
 鍵はかけてるけど、万が一踏み込まれたら、床に散らばる二人分の服や、後始末をしたティッシュやらゴムやら、それに、素っ裸で同じ布団に包まっているこの状況じゃ、言い逃れなんてできやしない。ただでさえ、息子が娘になるというトンデモ体験をさせてるのに、本人はとっとと割り切って男とセックスしてました、なんて親が知ったら卒倒しちまう。いや、割り切ってないけど。全然割り切れてないけど。
 今だって俺のジェンダーはあいまいだ。体は女、心は徐々に女になっているけど、多分殆ど男のまんま。こんな中途半端な俺でも、孝介が欲しがってくれるから、俺も孝介が欲しいから、俺たちはセックスする。今日も学校が終わってすぐ俺ん家に来て、部屋に入ったかと思ったら速攻でベッドの上に押し倒されて、恥ずかしいコトいっぱいされた。…きもちよかったけど。
 俺はすぅすぅと寝息を立てている孝介を起こさないよう、慎重に腕を外して、ベッドから出た。こいつが俺のベッドで寝ているのは、なんだかすごく幸せでくすぐったい気分になる。だってあの月森孝介がだぞ? コドモみたいなあどけない顔して、ちょっと手足を丸めて、しかも何にも着てない。大事な部分もまる出し。ものすごく無防備。それだけ俺たちは特別な関係だって証明みたいだ。
 このままでいたいけど、あんまりゆっくりはしてられない。親が戻る前に片付けしとかないと。
 俺が女になって、孝介と付き合うのに何の障害もなくなったけど、二人っきりでいられる時間はハッキリ言って激減した。年頃の男女が密室でやることといったら一つでしょ、的な世間の目があるからだ。事実そうなので何も言えないのですが!
 本当は、家族が誰もいない時に、家に孝介を呼ぶのは控えろって言われている。変なウワサが立って傷付くのは自分達だって。親がいる時でも、部屋のドアは開け放しておくか、リビングにいなさいって。ごめんな、親父、母さん。あと堂島さんと、孝介のご両親も。オトナの言うことが正しいっていうのは分かるよ、でもどうしようもないんだ、ガマンできないんだ。だってもうあんまり時間がない。あいつは三月には帰っちゃうんだから。
 「うー、さむっ」
最中に暑くなってエアコンを消したため、部屋の中は冷え切っている。どっかに吹っ飛ばしたエアコンのリモコンを探す間も寒くて仕方がなくて、とりあえず足元に落ちていたあいつの学ランをはおった。ちょっとどきっとした。だってあいつのにおいがして、あいつに包まれてる感じがしたから。
 無事にリモコンを発見し、スイッチを入れて、部屋があったまるのを待つ。ふたりぶんの体温でぬくまったベッドに戻ろうと思ったんだけど、なんとなく、本当になんとなく、俺はドアの近くに置いてあるスタンドミラーの前に立った。そんで、最近ようやく慣れてきた自分の体を映してみる。
(女、だよなぁ。どっからどう見ても)
 鏡の中には、不安そうな顔をした、まだ大人とは言えない女が一人。裸に学ラン一枚というちょっとアレな格好だが、この際気にしないでおく。
 背は縮み、肩幅は狭くなり、手足も細くなった頼りない体。男のものがなくなって、胸が出て、尻も出っ張った。男とは、孝介とは全然違う。服のサイズはそんなに変わらなかったはずなのに、肩に掛けた学ランは太股まで届く長さだ。俺は自分で、女であることを選んだ。もう戻れないんだと分かってはいるけど、やっぱり心がついていけない。こうやって、男女の違いを感じた時、どうしようもなくもやもやする。
 俺は自分で自分の胸――女の象徴みたいな部分を触ってみた。男の象徴は言わずもがなのあそこですが。むにゅっとした、弾力があるようなないような、不思議な感触。「胸って流動性脂肪なんだよ。薄皮一枚で支えてるから、ちゃんと固定しとかないとすぐに形崩れしちゃうんだ。だからオレが持っておいてあげるね」とか言いながら、あいつはとにかく俺の胸に触りたがる。もちろん、触るだけでは済まされない。さっきも散々、揉まれて、摘ままれて、舐められて、噛まれて、吸われたりした。男の時も、あいつがあんまりしつこくこねくり回すもんだから、乳首でも感じるようになっちまったけど、女の体はやっぱり違う。最初っから、それはもう感じまくった。
 胸だけじゃない、あそこもだ。まるで図ったようなタイミングで、どろり、と恥ずかしい液体が零れ出してきて、股を伝う。ゴムにくっついてたのと、あと、孝介に触られると出てきちゃう、官能小説的に言うなら、蜜とか愛液とか、そういうの。女のカラダが濡れるんだっていうのは知ってたけど、男の時はローションがないとかなりきつかったから、自分がなってみてその違いに驚いた。やっぱり、男と女は、ちゃんと抱き合うようにできてるんだって。
 だから、不安になる。男同士の時から始まっていた俺たちの恋愛は、どっか間違ってるんじゃないか、ってさ。俺の気持ちと孝介の気持ち、通じてるのは分かってる。けど、俺はちゃんとした女じゃないから。上手く言えないけど、怖くなるんだ。
 いつか、何にも疑問に思わなくなるのかな。なるんだろうな。今だって、何にも違和感なしに女子トークに混じってる自分に後で気付くし。それがいいのか、悪いのかは、正直よく分かんないけど。
「――制服、返してもらえませんか」
 にゅ、と後ろから腕が伸びてきて、俺は掴まった。いつの間に起きていたのか、下だけ履いた孝介が俺の背後にぴったりとくっついて立っている。鏡越しに見えたあいつの顔はまだ寝起きって感じで、ちょっとぼんやりしてて、でもそこがかわいかった。きゅうと抱き締められ、首筋に熱い息があたる。あったかいけど、ぞくぞくする。
「どうしたの?」
 心配そうな声。そりゃ、こんな格好で物思いにふけってたらどんだけ深刻な悩みかと思うよな。俺は慌てて否定する。
「や、別になんでも」
「なくないだろ。そうやって溜め込んで欲しくないって何度言ったら分かるの。…言えないなら、無理には聞かないけど。話せるなら、話してよ」
 あいつの涼しげな声がじんわりと脳に染み込んでいく。俺は力を抜いて、見た目よりもしっかりした胸板に体重をかけた。
「ホントに、たいしたことじゃ、ないんだ。ただ、まだ、違和感あるなーって」
「そっか。違和感の解消に、オレが手伝えること、ある?」
「うーん、多分ない…と思う。自分でもよく分かってないから。慣れるしかないんだろうな」
 そう言って笑うと、孝介はいきなり俺の耳を食んだ。耳は弱い。思わずびくんと体を跳ねさせた俺に、あいつはお綺麗な顔にヒワイな笑みを浮かべる。
「デート、行こうか。なんだかんだで陽介がその体になってから、二人だけで遠出したことないだろ」
「女の体に慣れる練習ってこと?」
「そう思ってくれても構わないけど。オレは陽介と出掛けたいなって。だめ?」
 真面目な話をしてるはずなのに、あいつの大きな手が胸を包んだ。そして明らかに他意のある動きで揉み始める。
「あッ、ちょ、だめ、だって。もう時間が」
「まだ平気だよ。そんなにしつこくしないから」
硬いものが尻にあたり、俺は思わず悲鳴を上げた。がっちがちだ。あいつはぞくぞくするくらい濡れた目をしていて、俺もなんていうか、その、やらしい顔、してた。俺は諦めて、くるりと体を反転させ、あいつの首に抱き付いた。エアコンはまた切っといてもよさそうだ。


 時間がない。どんなに濃厚な一時を過ごしたって、帰る家は別にある。
 家族だって友達だって大切だけど、早く大人になりたい。




**********




 週末、俺は孝介と一緒に沖奈よりもう少し離れた街へ出てきた。
デートだ。今までだってよく二人で出掛けてたけど、デートという冠が付くだけで妙にそわそわして落ち着かなくなる。
「陽介。今日の格好、かわいいね」
「…どーも。りせセレクトです」
孝介は黒の襟が高いコートに、いつも通り落ち着いたトーンでまとめたシンプルめの服。俺はというと、後輩に見立ててもらったお姉さんっぽい服装だ。大学生くらいには見えるかもしれない。
 スカートはスースーするからイヤですと言ったのに、女子力アップには必須だと却下された。寒くても耐えろとの司令官のお達しだ。女子すげぇ。厚手のタイツを履いてるけど、やっぱちょっと冷える。ズボン履きたいです。でも孝介も褒めてくれたし、ちょっとがんばってみようと思う。自分でも健気な乙女心にびっくりする。
 今日は残念ながらデート日和、とはいかなくて、空は重くて厚い灰色の雲が覆っている。空気には水のにおいがした。天気予報でも、午後から雪が降るかもしれないって言ってた。俺らは相変わらず、天候をチェックするクセが抜けない。
「陽介」
伸ばされた手を掴めば、当たり前のように指が絡められる。恋人繋ぎってヤツだ。恥ずかしいけど、嬉しい。俺の恋人はこいつで、こいつの恋人は俺ですって主張できるのが。寒さのせいにしなくても、体をぴったりとくっつけていられるのが。普段来ない場所だから大胆になれたっていうのもある。沖奈あたりだと、ハチコーの奴ら結構いるし。俺らが付き合ってるっていうのは隠してないけど、目撃されたらまた色々言われるだろうから。孝介が人気者だから仕方ないんだろうけど。
 二人でいれば、寒さもあんまり気にならなかった。服を見て、本屋に寄って、CD屋を覗いて、ちょっとゲーセンで遊んだりして。いい時間になったのでファミレスでメシ食って、あったかい店内でだらだらと話をしてたら、急に天気が崩れ出した。何この猛吹雪。周りの客も心配そうに外を眺めている。
「電車、大丈夫かな」
八十稲羽方面の電車はただでさえ本数が少ないのに、途中で川を渡ったり山ん中通ったりするから、ちょっとしたことですぐ停まっちまう。孝介はケータイを取り出して何やら調べていたが、ちょっとしてから溜息を吐いてフリップを閉じた。あ、ダメだったんだな。
「運休してる。運転再開の見込みは立っておりません、だって」
「そりゃ、この吹雪じゃあな。帰るまでに止んでくれればいいけど…」
 窓ガラスに叩き付けられる風と氷の粒は、マハブフダインって感じのすさまじさだ。クマきち、置いてきたからって悪さしてんじゃねーだろうな。今外に出たら死ねる気がする。一応、折りたたみ傘は持ってるけど、全く役に立たなさそうだ。
 壁にかかったやけにファンシーな時計の針は、午後二時をちょっと過ぎたところを指している。何時に帰るっていうのは決めてないけど、明日は学校だから夕方には出たい。けど、この調子じゃあと数時間で回復するとは思えない。
ファミレスには次から次へと人が避難してきて、あっという間に満席になった。急に騒がしくなった気がする。休日は二時間制です、って入店時に言われたけど、まさかこの天気で追い出されたりはしないよな。
 孝介は少し視線を落として黙り込む。これはあいつが何か考えをまとめている時の仕草だ。俺はあったかい抹茶オレを飲みながら、我らがリーダーの思考がまとまるのを待った。どうせこの吹雪じゃどこへも行けやしない。今日はここであいつとのんびりするのもいいだろう。
 やがて顔を上げた孝介は、ちょいちょい、と手招きをする。耳を近付けると、あいつはとんでもないことを口にした。

 「陽介。ホテル、行かない?」

 そうして数十分後。俺は誘惑に負けて大人の階段を登ってしまいました。
 高校生だってバレたらどうしようって、びくびくしてた俺がばかみたいにあっさりと、料金と交換に部屋の鍵が渡される。孝介が大人っぽいのと、りせの選んでくれた服のおかげかも。
 番号を頼りにたどり着いた部屋は、想像していたラブホとは違って、普通のホテルみたいだった。普通のホテル自体そんなに泊った経験ないけど。
大きなベッドが部屋の真ん中にどーん、ってあって、壁際にはテレビとソファ、ローテーブル。よくよく見たら、テレビが載っかってるチェストにはいかがわしい道具の自動販売機が設置されてた。社会科見学気分が一気に生々しい感じになった。
(ほんとに、来ちゃったんだ)
 そりゃ、いつかはこういう所に来るんだろうなーとは思ってたし、興味はもちろんあった。俺だって健全な若者ですから。でもって、来るなら相手は孝介だろうな、とは考えてた。だって俺の恋人は、きっと後にも先にもこいつだけだから。でも、こんなに突然とは思わなかったんだ。心の準備というものができてない。
(っていうかコイツ、慣れてないか?)
俺なんか超どきどきしてたのに、孝介は平然としてた。部屋の指定も、フリータイムで、と言う声も、何もかもいつも通りだった、ような気がする。今も冷静にエアコンのリモコンを探し、暖房を付けて、風呂場からタオルを持ってきたりしてる。そんな奴の姿に、俺の胸の奥にもやっとしたものが生まれた。
(もしかして、俺以外の誰かとこういう所、来たことがあんの?)
 付き合う前の話は、実はあんまりしたことがない。だからこいつの下半身経験も知らない。ただ、これだけ格好いいし、頭も性格もいい奴が、童貞なはずはない。上手かったし。俺の方はご想像にお任せします。とりあえず彼女はいました。こっち引っ越す時に別れたけど。
 「陽介、すぐ風呂入ろう。風邪ひく」
悶々としていた俺を、あいつの涼しい声が引き戻す。ファミレスからここまではそんなに遠くなかったけど、俺も孝介もすっかりびしょびしょだ。荷物はビニールをかけてもらっていたので無事だけど、人間の方は無事じゃない。
意識した途端に急にぞくっときた。うん、寒い。冷えすぎてがちがちになっちまった指をなんとか開いて、とりあえずテーブルの上に鞄とショップの袋を置く。そして振り向いた俺は、服を脱ごうとしている孝介を見て思わず息を呑んだ。
 すらりとした体のラインをはっきり表している、濡れたシャツ。ぽたぽたと雫を垂らす銀色の髪が、額に、項に貼り付いているのが妙に艶めかしい。目の毒だ。なんでこいつは男のくせにこんなに色気があるんだろう。女になった俺にちょっとくらい分けてくれればいいのに。
 動けずにいる俺に、呆れたような孝介の手が延ばされる。そのまま抱っこされて風呂場まで連行され、あれよあれよという間に服を脱がされ、まだ湯を溜め始めたばかりの湯船にぽいと放り込まれた。更に頭からは熱いシャワーを掛けられる。あいつは二人分の服を持って一端外に出て行った。
 世話をかけっ放しで申し訳なくなったけど、俺はとりあえずあったまるのに集中した。がちがちだった体が解れてく。けど、心は逆に固まってゆく。さっき消えたはずの疑問が、湯船の中の泡みたいにまた浮かびあがってきた。
ラブホに来るってことは、そういうコトをする目的だ。やめとけばいいのに、自分以外の誰かを抱く孝介を想像して、すんごい嫌な気分になって、俺はちょっと泣いてしまった。
「陽介?」
頭上で撒き散らされている湯のおかげでばれないと思ったのに、戻ってきた孝介はしっかり俺の異常に気付きやがった。どんだけできた彼氏なの、オマエ。
 とりあえずシャワーを止めて、うちのよりちょっと広いくらいの湯船に入ってきた孝介は、向かい合わせに座って俺の顔を覗き込もうとする。いや、今あんまり顔見られたくないんで遠慮してください。
「陽介。どうしたの」
 なんでそんなにやわらかい声してんの。お前、泣いてる女がいたら誰にでもそんなやさしくすんの。自分がすげー嫌な奴だって分かってるけど、思わずそう言ってやりたくなった。でも、言えない。こんな独占欲丸出しの醜い嫉妬をぶつけちまったら、いくら寛容さオカン級の孝介だって呆れるだろうから。
だから言葉を飲み込んだ俺を、孝介はそっと抱き締める。湯はまだ膝んとこくらいまでしか溜まってないから、あいつの胸はすごく冷たかった。
「当ててあげようか。オレが過去に誰かとこういう所に来てたんじゃないかって考えてたんだろ」
「っ」
 うっかり息を詰めてしまった。正解だと教えちまったようなもんだ。はぁ、と孝介は溜息を吐き、こつん、と額同士をくっつける、目が合った。もう反らせない。
「オレだって初めてだよ。…陽介とね、そういうことするようになってから、調べたんだ。安全で、割と安くて、年齢チェックが甘めのところ。家だと、どうしても時間や家族を気にしなきゃいけないだろ? だから我慢できなくなった時に、使おうと思って。あ、言っておくけど、今日ここに来るのが目的って訳じゃないからな。もしかしたら、とは考えてたけど」
「……」
言葉を返せずにいる俺に、孝介は続ける。
「フロントでは俺もすっごい緊張したよ。でも、陽介がガチガチなのに、オレまで挙動不審だったら怪しまれるだろ。精一杯虚勢を張ったつもりなんだけど」
「っ、ごめん! 俺…」
 言い訳を言おうとした俺の口は、あいつの唇で塞がれた。すぐに滑った舌が入り込んできて、同時に腰を引き寄せられる。こいつ、絶対分かってやってる。俺が余計なこと言わなくていいように。
(ホント、俺に甘すぎなんだよ)
すっごくすっごく、大事にしてもらってる。でも俺は貪欲だから、すぐ不安になって、確かめずにはいられなくって、もっともっと欲しがっちゃうんだ。ごめんな。
こんな俺をあいしてくれてありがとうって、俺もお前がだいすきだよって伝えたくて、でも声に出すのはどうしても恥ずかしくて。だから俺は一度顔を放すと、今度は自分から、あいつの顔を挟み込んでキスをした。
「!」
あ、ちょっと驚いた。んで、アレが硬くなった。太股に当たってるから分かります。いつもイロイロされているお返しに、膝であいつのものを刺激しながら、俺は深いキスをする。あんまり上手くないだろうけど、いっつもしてくれるのを思い出して、舌を吸い、きれいに並んだ歯を舐めた。もどかしそうに鼻を鳴らした孝介は、なんだかカワイイ。
 「よう、すけ」
息継ぎの間に名前を呼ばれるだけで、体温が上がる。ちゅ、と唇の端っこを吸い、耳元で「すき」ってささやいた途端、あいつの態度が豹変した。
「うわっ?!」
 襲いかかられた。
あいつの腕の中に閉じ込められ、さっきまでの俺がしてたのなんて子供のお遊びかってくらいの、すんごい濃くて長いキスをされる。その間にも大きな手は、尻やら太股やら胸やらを遠慮なく撫で回すから、俺はついてゆけなくて、ただあいつにしがみ付くしかなかった。
「んっ、んん!」
食われるんじゃないかって勢いで貪られて、体がどんどん熱くなって、力が抜けてっちゃう。体が重い、と思ったら、いつの間にかカランの湯は止まってて、栓が抜かれて湯が減ってた。たまに恋人が人間じゃないんじゃないかと思う時がある。
 風呂の湯って、溜まるのは遅くても抜けるのは早い。あっという間に空になった湯船の中でくったりとしている俺を抱き上げて、孝介は風呂場を出た。ろくに体も拭かずにベッドに連行され、押し倒され、大きく足を開かされる。
「や、だ…見るな、よぉ」
 奥まった場所は、もうすっかりぐちょぐちょになっていた。キスだけでこんなになっちゃうのなんて知られたくない。なのにあいつは内股を唇で食み、だんだんと顔を上へと移動させていって――そこを舐めた。
「ひゃあ?!」
暴れる俺を押え付けて、あいつはくちょくちょと音を立てながら、一番敏感な部分を愛撫する。吸われ、後から後から溢れてくる愛液を掻き分けるようにして舌を差し込まれ、恥ずかしさと気持ちよさで俺は情けない悲鳴を上げてしまった。
「こ、すけ、それ、やだぁ! やめっ、あ、んッ」
「どうして? ここ、いじられるの好きだろ。男の時だって、オレ、陽介のを何度も咥えてたじゃない」
「そ、だけど! や、なもんは、ヤ、なんだってば…!」
きもちいい、きもちいいんだけど、素直に受け取れない。男の時だって抵抗はあったけど、その比じゃないくらいとにかく恥ずかしい。涙が滲むくらい。
 必死に足を閉じようとしたけど、当然ながら孝介の頭が股の間にあるためそれはできない。手で押し返そうと湿った髪に指を突っ込んだけど、かたかた震えて全然力が入んない。敵わない。
っていうか見ちまったのを後悔した。俺の股の間に顔を埋めて、普通じゃ絶対見せない場所を舐めるあいつ。なんかもう、叫びたい。俺のハートそろそろ限界。
 やめてって言ってるのに聞いてくれない意地悪な恋人は、俺をイかせようと指まで挿入してきて、ぐちゃぐちゃに俺の中を掻き回し、ざらつく舌で突起を突いた。二か所をいっぺんに刺激され、俺は自分の喉から出てるんだと信じたくないような、高くて甘ったるい声で泣く。
「ああっ! んっ、や、ああ」
男の時の快感なんてもう忘れかけてるけど、それとは違う、昇り詰めていくような感じ。体が熱に支配されていく。頭がおかしくなっちゃいそうだ。
(なんかもう、どうでもいい)
 どうでもよくないけど、きっとまた後でぐだぐだ悩むんだろうけど。孝介が欲しがってくれるなら、俺が孝介を欲しがっても許されるんなら、男でも女でもどっちでもいいや。焼き切れそうな頭の隅っこでそんなことを思った。
「! あっ、あ――!!」
 ちゅう、と肉芽を吸われて、体の中で溜まっていたものが爆発した。孝介の指を締め付けている膣が、これじゃ足りないと物欲しそうにひくひくしてるのが分かって、恥ずかしくて消えてしまいたくなる。ようやく顔を上げたあいつは、濡れた口で、濡れた指を見せつけるように舐めて、恐ろしいくらいに張り詰めている自身を取り出した。
「陽介、かわいい」
 イったばっかでろくに口もきけない俺の目の前で、あいつは慣れた仕草でコンドームを被せ、どろどろになったそこにあてがう。あとはもう無茶苦茶に揺さ振られ、めいっぱい愛された。


 このまま溶けてひとつになれたら、なんて言うとホラーっぽいけど、事実そう思っちゃうんだから仕方ない。
 離れたくない、帰りたくなんてない。雪が止まなければいいのに。
 ああ、本当に早く、大人になりたい。




 「……腰が、いてぇ……」
ベッドに沈み込み、恨みがましい声を上げる俺に、隣で膝を立てて座っていた孝介がすまなさそうな顔をした。けど騙されない、あいつ反省してない。俺が具合悪くなったのに責任は感じてるみたいだけど、調子悪くなるほどねちこくセックスしたこと自体は全然後悔してない。そういう奴だ。月森孝介に夢を見ている八十稲羽の女性達に言ってやりたい、こいつはただのむっつりで変態ですって。
「ごめんね。でも、まだ遠慮してる方だよ。本気になったら陽介が壊れちゃう。大学生になって、一緒に暮らし始めたら、一回、オレのが空になるまでやってみたいなぁ」
「や、やめて、死んじゃう」
 本気で震えていると、孝介は「冗談だよ」ってやさしく髪を梳いてくれた。多分冗談じゃないんだろうけど。命の危険を覚えます。
 ぽすん、と枕に頭を埋めた孝介が、目線を合わせて言う。
「ところで陽介、ちゃんと勉強してますか」
「うっ」
正直に唸った俺の頭を、きれいな長い指が小突いた。
「これだけ大学生になったら一緒に住むつもりで話してるんだから、お前が大学落ちて浪人とかになったら、オレ、何するか分からないよ?」
「は、はい。がんばります」
 そうなのだ。俺はこいつと、大学生になったら二人暮らしをするつもりでいる。まだ当人達の間の口約束でしかないけど、なんとかなる、気がしている。俺の両親は体の事情を知ってるから、孝介が一緒にいてくれた方がむしろ安心って言うと思うし、孝介の両親は基本放任主義らしい。いきなり同棲は無理でも、隣の部屋とか、近くに住みたい。そんな夢を見ている。
「先ずは志望校絞って。専門でもいい、やりたいことが決まってるならそれが勉強できる学校、まだ決まってないなら今の時点で興味ある学校。オレはもう、決めてるから」
「お前、先生みたい」
「センセイですから」
 あいつの声を聞いて、俺は唐突に理解した。夢を夢だと思ってんのは俺だけだって。
少なくとも孝介は、実現するものとして捉えてる。俺だって、将来を甘い気持ちで考えてたワケじゃないけど、どっかで今できないことは全部、自分がコドモだからだって仕方ないって諦めようとしてた。早く大人になりたいって願うだけだった。大人になったって、できるもんはできるし、できないもんはできないに決まってるのに。どうしてそんな簡単なことも分かんなかったんだろ。
 けど、こいつは違った。さすが有言実行の男。どうして同い年なのにこうも精神年齢に差があるんだろう。恥ずかしくなって俯いてたら、あやすように背中を叩かれた。子供扱いすんなっつの。
 顔を埋めた胸は逞しいけど、まだ大人になりきれてない、少年っぽいあやうさがある。そうだ、どんなに大人びてたって、孝介も俺と同じまだ高校生でしかない。あんまりにもできた奴だからついつい忘れそうになるけど、少なくとも恋人とのセックスで暴走しまくるくらいにはオコサマだ。
 俺たちは今、オトナのコドモの真ん中にいる。振れ幅はあるけど、まだどっちでもない。夢とか希望とか、そういうあやふやだけど大事で、失くしたくないものに向かって、懸命に走っている最中なんだ。
 「…なぁ。俺たち、大人になってるんだよな」
そう呟いたら、孝介はしっかりと頷いてみせた。
「うん。一緒にね」


 一足飛びに大人になんてなれない。高校を出て、大学を出て、社会に出て。自分の力で生きていけるようになったら、大人って言えるのかな。
 大人になったら、その先は? って奴に聞いてみたら、あいつはおじいちゃんおばあちゃんって言った。じゃあその先は、って聞いたら、墓の中までって言われた。それ、高校生の台詞じゃないから。
「ほんと、お前の愛、すごすぎ」
「でもそんなオレが好きなんだろ?」
「はいはい」
 いつの間にか、あれほどひどかったはずの雪はほぼ止んでいた。これなら電車も動いてるだろう。帰りたくないって思うのは寒さのせいにして、俺は二人だけの空間に身を委ねた。



END

PR

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]