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どうしよう、しあわせの先が見えない・1

勢い余り過ぎて主陽小説ですよ!
これから書く自分の話の軸となるよう、オーソドックスかつお約束的にくっつくまでのお話です。勿論最後はいきつくところまでいきつきます(笑


------------------------------------

やられる。
深く重く立ち込めた霧を切り裂き、自分目掛けて振り下ろされる異形の刀。無様にも尻餅をつき、失血と衝撃から全く反応することができない己の体。仲間の悲鳴が聞こえたが、もはや誰の声かも分からない。
ああ、あれは吸い込まれるように咽元に突き刺さるだろう。死の前にもたらされる痛みも恐怖も、覚悟するにはあまりにも短すぎる暇しか与えられず、ゆえに孝介は目を閉じることもできなかった。だからまるで風のように、自分と死神の刃との間に何かが割り入ったのが見えた。
「――月森っ!!」
キィン、と刃を弾く音。しかし力の差か上手く弾くことができず、逸らせなかった刃が深く彼の体を裂く。くぐもった悲鳴と共に、鮮やかな鮮血が滴り落ちた。白濁に満ちた世界で、その朱だけがいやに鮮やかだった。

それから先のことは、正直よく覚えていない。
気がつけば敵は全滅しており、自分の体は癒えていた。腕も、足も、どこも欠けることなく動く。
(!あいつは…!)
自分を庇った彼は無事だろうか。慌てて首を巡らせれば、後ろから軽く肩を叩かれ思わず体が撥ねる。それが面白かったのか、背後から笑みの気配が漏れてきた。
体を巡らせれば、案の定そこには自称他称「相棒」が立っている。シャツの脇腹がぱっくりと裂け、真っ赤に染まっているのは、自分を庇った傷だろう。痛ましさと自己嫌悪に表情を硬くした孝介の苦しみを和らげようとするかのように、彼は微笑みながら言ってくれた。
「おつかれさん、リーダー。最後の一撃、すごかったぜ」
庇われた背中が薄かったこと、クナイを握り締める腕が驚くほど細かったこと。それでも、その背中は揺らがなかったこと。何より、向けられた笑顔のやわらかさが、いつまでもいつまでも忘れられない。



**********



窓の外ではしとしとと雨が降り続いている。
美津雄をテレビの中から引きずり出し、自称特別捜査本部もひとまず解散となった今、やることといえば学生らしく夏休みを謳歌することと、膨大な宿題を片付けることぐらいだ。
自分一人ではやらないから、と課題一式を鞄に詰めて堂島家を訪れた陽介は、孝介の部屋のローテーブルの前に座った姿勢でぼんやりと窓の外を眺めていた。手にペンはかろうじて握られているが、ノートの書き込みは先程から一向に増えていない。今日のノルマをさっさと終わらせた孝介は無視を決め込んでいたが、流石に心配になって声を掛けた。
「陽介」
いつもなら自分の声を聞き漏らすことはないのに、陽介は全く気付かない。孝介は僅かに眉を潜め、今度は軽く肩を叩いた。ようやく気付いた陽介は、その大きな目を数回瞬かせ、「悪ぃ、ぼうっとしてた」と呟く。ようやく反応が返ってきたことに、孝介は知らず詰めていた息を吐き出した。
くるくるとよく動く表情と、彼を取り巻く複雑な事情のせいで見逃されがちだが、陽介はとても整った容姿をしている。表情が抜け落ちると綺麗すぎて、まるで人形のようだ。だから先程のように無反応な彼を見ていると、不安になる。
「どうした?」
尋ねれば、ペンを放り出して猫のように伸びをしながら、陽介はぽつぽつと答えた。
「んー…なんか、気が抜けちまった。あれで…終わったんだよな?」
「そう願いたい。今は警察の発表を待つしかないさ。それより」
陽介の頬にそっと手を伸ばし、触れる。頬は驚くほどすべらかで、そして冷たかった。
「眼の下、隈。…ちゃんと寝てるのか?」
陽介はにこり、と微笑む。それはあの時見せた笑みとは違う、どこか無理したものだ。
「へーきへーき。ちょっとバイトが忙しくってさ。心配してくれて…サンキュ」
上手く笑えていないのを本人が理解していないところが痛ましい。自分に対し絶対の信頼を寄せている陽介だ、強く聞き出せば内面を吐露させることもできるだろうが、孝介はそうしたくなかった。彼の方からサインを出すまで待つ。ただ、自分が傍にいることだけは伝えておきたくて、孝介は手を頬から頭に移動させる。柔らかな髪にぽん、と手を置くと、陽介は「コドモ扱いすんなよ」と拗ねたように唇を突き出した。
(かわいい)
同性の同級生に用いる表現ではないが、孝介は陽介をかわいいと思う。彼が肩を並べて戦うに相応しい強さを持っていると知っているのに、守りたいと思う。甘やかして、全ての痛みから遠ざけたい。
けれどもそれと同じだけの強さで、泣かせて、縋らせて、ぐちゃぐちゃにしてやりたいとも思う。この複雑な感情の正体を、孝介は気付き始めていた。――恋、だ。それもとびきり重くて性質の悪いやつ。
「陽介、少し寝てろ。布団使っていいから」
「んー…だいじょう、ぶ…」
ハニーブラウンの頭が徐々に下がってきたのを見て、孝介は立ち上がると畳んであった蒲団を広げた。陽介の腕を掴んで無理矢理に布団に入れる。抵抗らしい抵抗もないその体は、驚くほど軽かった。
「悪ィ…」
「いいから寝てろ」
シャツから覗く項には妙な色気があり、気を抜くと唇を寄せてしまいそうになる。とろんとした瞳、半開きの唇はまるで誘っているようだ。曲解だと理性の上では分かっているが、そう感じてしまうのだから仕方がない。これ以上視覚から侵される前にと布団を掛け、誤魔化すように幾度か布団の上から肩を叩いた。
陽介はまるでこどものようにへらり、と笑った。
「この布団、お前のにおいが、する」
すぅ、とすぐに寝息が聞こえてくる。孝介は見る者などいないというのに、赤くなった顔を隠そうと片手で顔を押えてしまった。
「今の台詞は、反則だろう…」
重すぎるほどの信頼、あけすけの好意。陽介から寄せられるそれは友愛から成るものだが、受け取る側の孝介は恋愛感情を抱いている。だから他意はないと分かっていても、心と体は反応してしまう。
けれども、彼の信用を裏切ることはできない。彼が自分の隣から去ってゆくなど耐えられない。孝介は静かに眠るその横顔を眺めながら、陽介の一言だけで熱くなってしまった己を諌めようと、深く深く溜め息を吐いた
(俺、どうかしてる)
陽介が欲しくて欲しくて仕方がない。



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