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きらきらと・3

すみません、5話構成になりました…。普通に連載だ!
芸能界のこととかよく分からないので失笑される部分があるかもしれませんが、やさしくスルーしてやってくださいorz あと、直斗はりせと親交を深めたという脳内設定なので、「久慈川さん」から「りせさん」に呼び名を変更しています。

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孝介に連れられてやってきたのは、山手線の内側にある閑静な住宅地だった。時代に取り残された訳でもない、かといって最先端という訳でもないが、商業施設と住宅が程良い具合で立ち並び、端々に緑も見える暮らしやすそうな街である。駅から5分とかからない大きなマンションの前で足を止めた孝介は、ポケットから鍵を取り出して入口のオートロックを解除する。おそらくここが彼の家なのだろう。
落ち着いた色彩と、品の良い調度の飾られたエントランスを抜け、エレベーターホールへと向かう。孝介は迷わず最上階のボタンを押した。
「やっぱりお前ん家、金持ちだったんだな。都心の高級マンション、しかも最上階!」
しみじみと呟く陽介に、孝介は苦笑を返す。
「仕事が生きがいみたいな人達だからな。共働きなぶん、収入は多い方だとは思う。まぁ、オレの金じゃないし」
「そりゃそうだ」
陽介はからからと笑った。
ポーン、と軽い電子音が鳴り、目的階への到着を知らせる。最上階の戸数は他より少なく、そのうちの一つに「月森」と表札がかかっていた。近代的なマンションは、古い木造家屋の堂島家とは似ても似つかない。東京駅よりも幾分空気は綺麗だが、それでも八十稲羽とは全く違う。思い切り吸いこんだら噎せてしまいそうだ。頭上には澄んだ青空もなく、季節の野草が生い茂ってもいない。洗練された、と言えるのかもしれないが、画一された面白みのない空間のように完二には思えた。そしてそこに当たり前のように孝介が住んでいることに寂しさのようなものを覚えた。
「どうぞ。親は仕事でいないから遠慮なく」
孝介は客人を招き入れ、静かに扉を閉ざす。一軒家と同じくらい広々とした大理石調の玄関には、二足の靴が品良く並んでいる。促されるまま靴を脱いで上がり、リビングに通されると、そこには見慣れた二人の姿があった。
「おはようございます。長旅おつかれさまでした」
ぺこり、と頭を下げたのは直斗だった。暗色系の私服に身を包み、トレードマークのキャスケットはソファの脇にちょこんと鎮座している。その横に座っていたりせは弾かれたように立ち上がると、完二に向かって勢いよく突っ込んでゆき――そのままの勢いで抱き付いた。
「!ちょ、お前」
「ばか!わざわざ来てくれるなんて、ホントばか!!完二なんだから!!!」
支離滅裂な文句を言いながらも、りせはしがみ付いたまま離れようとしない。どうしていいか分からず硬直していると、孝介が苦笑いしながらりせを宥めて引き剥がしてくれた。ひとまずソファに座り、孝介が入れてくれた熱い紅茶を飲みながら一息吐く。
「特別捜査本部・イン・東京だな。里中達も連れてくりゃよかったか」
いつもの軽い調子で言う陽介に、直斗が含みのある口調で返す。
「いえ、お二人には、あちらにいていただいてよかったかもしれません」
直斗の言葉からは事件の臭いがした。途端に表情を引き締めた陽介に、香気が香るアールグレイを一口含んでから彼女は切り出す。
「月森先輩には掻い摘んでご説明しましたが…昨日、りせさんを乗せた車が事故に遭ったのは、偶然ではない可能性があります」
「!!」
驚愕を顕にする陽介と完二に、りせが重い口を開く。
「芸能活動を再開してすぐに、嫌がらせの電話や手紙がくるようになったの。家じゃなくて事務所になんだけどね。内容はどんどんエスカレートしてくるり、外歩いてると誰かに見られてるような気がして気持ち悪くなって、直斗くんに相談したんだ。社長にも警察にも言って、ひとまずは様子見ってことになったんだけど、実は昨日も…きてたの」
りせはバックの中から封筒を取り出し、中から一枚の紙を取り出す。コピーされたそれには、コラージュで三文字の言葉が記されていた。

『消 え ろ』

完二は戦慄した。新聞や雑誌から切り抜かれたのであろう文字は機械的な分、得体の知れなさを感じさせる。言葉を失った一同に、直斗が冷静な声で続ける。
「これはコピーです。現物は警察に渡してあります。昨日の事故はりせさんのマネージャーがハンドル操作を誤ったのが原因ですが、病院で精密検査を行ったところ睡眠薬が検出されました。今まで飲んだことがないと言っているので、恐らく犯人によって故意に混入されたのでしょう」
「…こりゃもう、嫌がらせっていうレベルじゃないだろう」
乾いた声で陽介が呟く。りせはきつく手を握りしめ、ローテーブルに置かれた紅茶を睨んで言った。
「でも、負けてらんない。覚悟はしてたもの」
少女の気迫に誰もが掛ける言葉を失う。数秒の沈黙の後、完二ははるばる東京まで来た目的を思い出して立ち上がる。
「おい、りせ。ドレス見せてみろ」
「う、うん!」
りせはソファの横に置いた紙袋からドレスを取り出す。旅立ちの日、美しい光沢を放っていた彩衣は、今は見るも無残な姿になり果てていた。上半身はほぼ無事だが、腰から下の部分は焼け焦げ、所々破れている。思った以上に酷い損傷に完二は思わず眉を潜めた。
「直る…?」
不安そうに見上げてくるりせの頭にぽん、と手を置き、完二はにやりと笑ってみせる。
「おう。スカート、前より短くなるけどいいか?なるべくイメージ崩れねぇようにすっからよ」
りせはようやく微笑むと、しっかりと頷いた。
「うん。完二に任せる。そのドレスだってことが重要だから。あんたの腕、信じてるもの」
りせからドレスを受け取り、完二は早速作業の準備を始める。棚に置かれたアンティークの時計を見たりせは、慌てたように荷物を纏め始めた。
「いけない、そろそろ井上さんが来る!私、行くね」
「井上さん?」
首を傾げる陽介に、直斗が代わりに説明をする。
「臨時のマネージャーです。りせさんが芸能活動を休止する前は、彼がりせさんの担当でした。現在は真下かなみのマネージャーですが、現在彼女は休暇中のため、当面の間は井上さんが担当になります」
「あの人か」
八十稲羽までりせを追い掛けてきた彼の姿を思い出し、孝介は頷いた。りせに入れ込んでいた彼ならば、臨時であってもしっかりと彼女をサポートしてくれるだろう。何故か浮かない顔をしている直斗に陽介が声を掛ける。
「なぁ。俺達、何かできることあるか?」
「そうですね…井上さんの許可が下りればですが、スタッフとしてりせさんの警備にあたってもらえますか?僕は事務所から正式に依頼を受けていますが、お二人のことは話していないので」
直斗はスケジュール帳を取り出すと、今日のりせの予定を列挙する。朝8時に事務所に行き連絡事項を確認した後、新宿と渋谷のCDショップでインストアライブ。その後雑誌の取材を一件挟み、夜の生放送番組のためにスタジオ入りというハードなスケジュールだった。
「すげーな、アイドル」
大げさなほど驚愕する陽介に、りせはいたずらっぽく笑ってみせる。
「ホントのりせちーはこんなもんじゃないんだよ?」
「ま、俺にとってはカワイイ後輩だけどな。がんばれよ」
軽く頭を叩かれ、緊張が解れたのかりせは表情を崩した。孝介は一人残される完二のためにてきぱきと準備を整える。
「家の中の物は何でも自由に使ってくれて構わない。飲み物と食べ物は適当にここに置いとくけど、足りなければ冷蔵庫の中にあるから。トイレはそこ。電話やインターホンは無視していい。もし買い出しが必要になったら、駅の向こう側にジュネスがあっただろ。あの中に小さいけど手芸屋が入ってたはずだからそこに行くといい。鍵はこれ。差し込んで部屋番号を押せばオートロックが解除されるから。分からなければ電話して」
「う、うっス」
一息に言われ正直頭が付いていかなかったが、とりあえず完二は頷いた。慌ただしく出発の準備を整え、完二を除く一同は玄関へと向かう。
「予定通りなら、インタビューが終わってからスタジオに移動するまでちょっと時間が空くの。4時頃にまたここに寄るから、それまでに…お願い」
「任せとけ!オメーも気張ってこいや」
りせは返事の代わりに綺麗な笑顔を見せると、軽やかな足取りで歩き出した。皆もそれに続く。ぱたり、と扉が閉ざされ独りになった完二は、己を鼓舞するように気合いの雄叫びを上げた。




**********




「うっわー、スゲー人だな」
数時間後、陽介と孝介は新宿某所のCDショップの中にいた。ミニライブスペースを持つほどの大規模な店舗だが、開店直後であるにも関わらず、復活した「りせちー」を一目見ようとする人々でごった返し、身動きが取れないほどである。
直斗の采配により無事に同行が許された孝介と陽介は、フタッフジャンパーを羽織って舞台の下手に立っていた。すぐ近くではりせがスタッフと最終確認をしている。あの一年での経験のおかげか孝介も陽介も実年齢よりは落ち着いているが、明らかに高校生か大学生といった風貌の二人にスタッフ達は最初こそ警戒していたものの、あの白鐘直斗の手伝いという肩書が加わっただけで一気に態度が軟化し、協力的になった。おかげでライブ直前の慌ただしい空気の中、こうして突っ立っていても文句を言われることはない。
「月森先輩、花村先輩」
井上と打ち合わせを終えた直斗が小走りに駆け寄ってくる。彼女もスタッフジャンパーを着ているが、小柄なため服に着られているような様が愛らしい。
「りせさんが歌っている最中は、最前列にスタッフで壁を作ります。センパイ達は壁の内側で、不審人物がいないかどうか見張っていてくれますか。僕は退場ルートを確保するため下手で待機しています」
「分かった」
ライブ開始時刻が刻一刻と迫り、店内の興奮と喧噪が高まってゆく。忙しく動き回るスタッフの邪魔をしないよう端に寄り、三人は小さな声で会話を交わした。
「…にしても、さ。怖いよな、芸能界って」
移動中の車の中で直斗から聞いた、どろどろとした事務所内の内紛は、陽介の中のアイドル像を打ち壊すのに十分な破壊力を持っていた。準トップアイドルにまで登り上げたにも関わらず突然の活動休止を宣言し、およそ一年後に華々しく復活を遂げた「久慈川りせ」。彼女が芸能界に復帰したことで一番影響を受けたのは、同じ事務所に所属し、りせの後釜のような形で地位を確立している途中だった「真下かなみ」だ。そして捜査線上に上がってきたのも彼女の名前だった。
真下かなみはりせの代わりとしてオファーを受けた映画の撮影が上手く行っていないという。また、妹キャラとして売り出しはしたものの、アイドルとしての資質はりせの方が遙かに勝っていると実しやかに囁かれていた。りせは努めて以前と同じに振る舞おうとしているようだが、二人の関係はあまりよくないものになってしまったらしい。りせの復帰により彼女自身の立場が脅かされると考えたのならば、動機は十分ある。
「あくまでも可能性の話、です。彼女自身が関わっているという確証はありません。盲目的なファンの独断という可能性も高いですし。それに」
言いにくそうに口籠る直斗の頭に手を置き、孝介はやさしく言う。
「直斗は探偵だから、全部の可能性を疑わないといけないのは分かってるよ。でも、信じたいよな」
「…はい」
井上はあくまでも臨時マネージャーであり、本来は真下かなみの担当だ。りせに献身的に接している彼が敵でないという保証はない。沈んだ空気を払拭するように、陽介は明るく言い放つ。
「大丈夫だって!俺達、カミサマだってなんとかしちまったんだ。人間ごときに負けるはずねぇよ」
大丈夫だと陽介が言い、孝介が肯定の意で微笑むだけで、直斗には全てが上手くいくような気がした。
スタッフの誰かが時間を告げる。りせはちらりとこちらを見ると、緊張した面持ちで頷いた。孝介達も頷き返す。言葉の代わりに目線でありったけのエールを送った。
照明が落とされ、スポットライトが忙しなく回転する。孝介達は目立たないよう人間の壁の内側に陣取り、ひしめく観衆を鋭い視線で監視し始めた。始まるアップテンポの前奏。りせは数段の段差を駆け上がり、舞台上に姿を現した。
『――みんな、今日は来てくれてありがとう!りせちーだよっ!精一杯歌うので聞いてください』
わぁ、と歓声が上がる。建物が揺れた気さえした。りせはも裏返ることもなく掠れることもなく、歌手顔負けの歌唱力でエキゾチックな恋の歌を歌い上げる。彼女の持つ強さも弱さもやさしさも、その全てをメロディに載せて。耳を打つ少女の想いは人の心を揺さぶり、虜にしてゆく。暗闇の中、光に照らされた彼女だけはきらきらと輝いていた。
しかしステージの下では、興奮した客に押され壁がじりじりと後退させられつつあった。
「ちくしょ、これじゃ動けねぇ!」
押し潰されないようポジションを確保するのが精一杯で、とてもではないが不審人物の監視にまで手が回らない。孝介は珍しく舌打ちすると、よく通る声で陽介に指示を出した。
「下手へ戻るぞ!仕掛けるとしたら最後だ!」
「!分かったッ」
二人はなんとか人波の隙間を縫って舞台袖へと辿り着く。その間にもりせの歌声は止まず、やがて伸びやかな響きが溶け、曲が終わった。一呼吸の後、溢れるほどの声援と拍手が沸き起こる。
『ありがとう!本当に、ありがとう…!!』
軽く息を切らせたりせは、井上に促されて名残惜しそうに手を振りながら舞台を降りる。彼女に、彼女だけに向けられた声援はまだ止まない。僅か5分程度のミニライブは無事に完了し、誰もが気を抜き掛けたその瞬間だった。
「どけぇええええ!!!」
奇声を発しながら突進してくる、痩せ型の一人の男。その手には銀色に光る何かが握られている。制止しようとしたスタッフを跳ね飛ばし、男はただりせだけを目掛けて突っ込んでくる。
「――え」
ぎらり、と眼前で光った刃を、りせは茫然と眺めることしかできなかった。




**********




部屋にはミシンの音だけが響いている。柔らかな衣に芯地を貼り、花びらのように何枚も何枚も接ぎ合わせて作ったスカートは、徐々に形になりつつあった。
「っしゃ、もう少し…」
時計が指す時間は11時過ぎ。補修は順調に進んでいる。朝から水分しか取っていないため胃が空腹を訴えてきたが、ステージの上に立つりせと彼女を支える仲間達の姿を思い浮かべ、完二は滲んでいた汗を手の甲で乱暴に拭うと再び手元に視線を落とした。
(アイツががんばってんだ、オレもやるっきゃねーだろ!)
ふと名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだと結論付けて彼は作業に没頭した。




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