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どうしよう、しあわせの先が見えない・9  ※R-18

※R-18
ようやく…!超難産でした。その割にまとまっていないし、なによりセンセイが…サイアクの男になってしまいました…。脅迫に約束破りに最後は泣き落しですよ!すみませんすみません
この話は色々と破綻してしまっているので、最後まで書いたら一度きれいに手直ししたいと思います(>_<)とりあえず後は後日談で終了の予定です。

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放課後、久々に設けられた特別捜査本部にて、孝介は昨日のあらましを掻い摘んで皆に説明した。
その内容は昨晩陽介が釘を刺した通り、問題のある内容は見事に省かれている。要約すれば、陽介との仲違いで蓄積された寂しさや空しさによって、孝介のシャドウが顕在化したことになっているらしい。真実には足りない事実を透き通った声で淡々と話す彼の横で、陽介はひたすらに思考を廻らせていた。
(俺、どうすりゃいいんだ)
昨晩殆ど眠らずに考えたにも関わらず、陽介の中での結論は出なかった。やがて孝介が説明を終えると、雪子が息を吐きながら感慨深そうに言う。
「やっぱ月森くんも、シャドウって出るんだ」
「…うん」
シャドウの出ない月森孝介。特別なリーダー。そう思われて頭の位置に据えられていたのなら、さぞかし皆を幻滅させたことだろう。孝介はいささか緊張したが、しかし彼を笑う者も、否定する者もここにはいなかった。
「なんかちょっと、ホっとしたっス。アンタもやっぱり高校生だったっていうか…あ、ガッカリしたとかじゃなくて、距離が近くなった気がしたんで」
「そうそう。私達だって、恥ずかしいところ全部見られてるもん。気にすることないよ」
「先輩が僕達を受け入れてくれたように、今度は僕達が受け入れる番です」
口々に言われ、孝介は凝っていた心がじんわりと解けていくのを感じた。それと同時に僅かな罪悪感が胸を刺す。大事な人には常に誠実でありたいと思い、生きてきたというのに、自分は今、彼らに嘘を吐いている。
「しっかし、花村とケンカして寂しくてシャドウが出ちゃうなんてねー。月森くんもなんだかカワイイところあるじゃん。…仲直り、したの?」
千枝の言葉に、孝介と陽介は一瞬だけ視線を交わらせると、気まずそうに顔を反らした。昨日ほどの険悪さはないが、間に流れる重い空気は今の二人の関係そのものだ。千枝はちらり、と視線を雪子へ、次いでりせと直斗へ送ると、ややわざとらしい口調で言う。
「そういえばさ、雪子、テレビの中に用があるんだよね?」
「あ、うん。あのね、ちょっとでいいからお城に行きたいんだ。大事なもの、落としちゃったみたいなの」
雪子は眼を伏せて呟いた呟いた。孝介は全員を見回して確認を取ると、「行こう」と席を立って歩き出す。皆が自然と後に続いた。
「ヨースケ!行くクマよ!」
思考に耽り、最後まで席を立とうとしなかった陽介の腕をクマが引く。人目を忍んでいつものようにテレビに入り、城の前まで辿り着くと、雪子に先導されて最上階へと向かった。広間に繋がる大きく重厚な扉は、孝介が触れると待ち侘びていたかのように左右に割れる。
「天城、探しものって――」
一歩後ろにいる雪子に問いかけた孝介は、返事の代わりに背中を押される。「ごめん」と小さく聞こえたかと思うと、ごぅん、と重々しい音を立てて背後で扉が閉まった。
「ってー!何すんだよ里中?!」
こちらは千枝に蹴られたらしく、前につんのめった陽介が抗議の声を上げる。扉を隔てた向こうで千枝が答えた。
「ごめんね!でもこうでもしないと、あんた達まともに話し合おうとしないでしょ!」
「昨日までとは少し状況が違う気がしますが、お二人の意思疎通が図れていないのは確かです。ここなら邪魔も入りませんから、思う存分話し合ってください」
「ちょ、何言ってんのお前ら」
陽介が扉を必死に引くが、何故かびくともしなかった。直斗がしれっと「施錠させてもらいました」と告げる。続いて完二が、りせが言う。
「そこに菓子とか飲みモンとか置いといたんで、飲み食いしながら気楽にやってくださいや」
「花村センパイ、月森センパイとちゃんと仲直りしないと豆腐攻めだからね!」
完二の言う通り、扉のすぐ前には袋が落ちていて、中からスナック菓子やペットボトルが覗いていた。随分と用意周到なことだ。
「袋の中にカエレールが1個だけ入ってるから、ケリがついたら一緒に戻ってきてね。私達、先に帰るから」
雪子が言い終えると、向こう側で人の動く気配がした。本当に帰ろうとしているのだろう。しかし聞こえ始めたぴこぴこという足音はすぐに止み、クマが大きな声で言う。
「センセイ、ヨースケ!クマ、二人とも大好きクマ!好きな人にはシアワセでいて欲しいクマ!だから、早く仲直りするクマよ?」
返事を待たずに皆の気配は掻き消えた。


広間は痛いほどの沈黙が支配している。古城の空気は重く、シャンデリアに灯された光が控え目に広間を照らしていた。最上階は別格なのか、蠢くシャドウの気配も全くない。
先に動いたのは陽介だった。扉の前に無造作に置かれたビニール袋を持ち上げ、中からペットボトルを二本取り出す。ガサガサというビニールの擦れる音がやけに大きく響いた。
「ほれ」
投げられたペットボトルが弧を描いて孝介の手の中に落ちた。炭酸だった。陽介はちゃっかりオレンジジュースを確保し、適当な柱を背にして座り込む。表情は全く変わらないが、どう対応していいか決めかねているのだろう、泡立つボトルを手に立ち尽くす孝介に陽介は努めていつも通りに声を掛けた。
「座れば?」
「ああ」
孝介は陽介から数歩離れた場所に腰を下ろした。隠しているつもりなのだろうが、明らかに安堵を見せる陽介の表情にちくりと胸が痛む。これまで自分がしてきたこと、昨日自分のシャドウが彼にしたことを思えば当然で、口を聞いてもらえるだけでもありがたいのに、どこまでも貪欲な自分に腹が立って孝介は眉を顰めた。それを見た陽介もまた顔を曇らせる。
(だから、その顔、やめろっつーの)
クマの残した言葉が頭の中で繰り返される。好きな人には幸せでいて欲しい――その気持ちは陽介も同じだった。認めざるを得ない、自分は孝介が「特別」に「好き」だ。きっと彼が自分に向ける想いとは微妙にずれているけれど、唯一無二の存在であることには変わりない。苦しませたくない、笑っていて欲しい。求められたい、傍にいたい。大切に、したい。
(あいつも、同じ気持ち、なんだよな)
ここまでの答えは出た。けれども、自分の中の男としての矜持が最後に邪魔をする。どうしても答えを見出せなくて、陽介は目の前の男へ目を向けた。眼鏡越しに二対の視線が絡み合う。
「なぁ」
気がつけば陽介は相手を呼んでいた。先を促すように孝介が軽く首を傾げる。陽介は頬が熱くなるのを感じながら、恥ずかしいのを堪えて何とか口にした。
「そ、その、さ。……何で、俺なんだよ?」
特別捜査隊の女子のレベルは高い。雪子も、千枝も、りせも、直斗も、皆それぞれに外見も内面も魅力があり、孝介に好意を持っている。特別捜査隊以外でも、学校の女子やアルバイト先の女性など、孝介を好く者は多いだろう。わざわざ男で、この町では肩身の狭い陽介を選ぶ必要はないのだ。孝介は少しの間の後、真剣そのものの顔で答えた。
「正直なところ、自分でもよく分からない。オレ、別にホモって訳じゃなかったけど、いつの間にかお前が気になって仕方がなかった。第一印象はアレだったけど、一緒にいてすごい楽しいし、オレをリーダーって特別視しないで言うことちゃんと言ってくれるし。軽いフリしてても実は熱くて正義感が強い良い奴だとか、本当は繊細だとか、真面目で仕事とお金に対してきちんとした感覚を持ってるところとかも知ってる。安心して背中を預けられる親友だって、相棒だって思ってた。今でもそう思ってるよ。でも」
彼は困ったように笑った。
「なんでだろうな…そう、陽介が、あんまりにもきれいに笑うから。オレが竦んだ相手からオレのこと庇って、それでも笑うから。そしたらもう、駄目だった」
はぁ、と籠った熱を逃がすように孝介は息を吐いた。その熱さに陽介まで浮かされたようで、体が熱く、苦しくなる。孝介はいつになく饒舌に、けれども早口になる訳ではなく、ひとつひとつ大切そうに言葉を紡いでゆく。
「どうしてそんなにきれいなんだろうって。強いんだろうって。女の子達も可愛いし、強いけど、お前ほど強烈じゃなかった。気になって気になって目が離せなくなって、そしたら周りに気を使い過ぎるくらい使って自分を追い込んでるところとか、本当に痛い時は絶対に痛いって言わないこととか、涙もろいところとか、傷付いてることとか、全部ひっくるめていとおしくなってきて――好きだって、気付いた」
夏の日、河原で殴り合ったこと、それに紐づく今はもういない彼女のことを思い出し、陽介の胸は締め付けられる。小西早紀に抱いていた憧憬じみた恋愛感情は、自分の中でとても綺麗で崇高なものになっていることを、陽介は孝介の胸で泣いた日に気付いていた。同じ想いを目の前の男に対して感じることはない。
「俺、弱いし、キレイなんかじゃねーよ。知ってるだろ、まだ…小西先輩のこと、吹っ切れないこと」
言い訳のように陽介は呟く。けれども孝介は首を振る。
「弱さを認めることができるのは、苦しくても笑っていられるのは、強さだとオレは思うよ。忘れる必要なんて、ないと思う。自分が苦しい時のことを覚えているから、陽介は人にやさしくできるんだよ」
「っ、違う!買いかぶりだ!!俺は――」
孝介はそっと手を伸ばし、陽介の頬に触れた。その冷たさに思わず体が震え、口が止まる。孝介はその銀灰の瞳に悲しみの色を湛えて囁く。
「陽介は、自分を過小評価しすぎ。オレを信じてくれるなら、オレが言うお前のことも、信じてよ」
「………自意識過剰じゃね?」
そっぽを向いて言えば、孝介は「そうかもな」と相槌を打った。手が離れ、温もりが離れる。そのまま彼が離れて行ってしまう気がして陽介は思わず腰を浮かせた。
「孝す――」
「陽介」
誰もが聞き惚れる澄んだ声に切なさを混じらせて名を呼ばれたら、もう逃げられない。
「オレ、言ったよね。諦めないって。この気持ちがお前を傷付けるものだって分かってる。でも、オレも想いを殺すことができない。…あんなの見られた後じゃ説得力ないけど、お前を傷付けたくないのも本当なんだ。だから、選んで。オレのこと許すか、切り捨てるか」
あんなの、とは、昨日の彼のシャドウのことを指すのだろう。影によってもたらされた痛みと快楽が脳裏に蘇り、陽介は慌てて頭を振った。この返答を間違えたら、孝介は間違えなく自分から離れてゆく。あまりに極端すぎる選択肢に怒りを通り越して呆れを覚えたが、月森孝介は言葉に出した以上、徹底してやる男だ。後者を選んだら相棒どころか友人ですらいられないだろう。存在の喪失を考えただけで陽介は虚無感に襲われる。孝介を失いたくない、それだけは確かだった。
「…許すって、何をだよ」
「オレが陽介を想い続けること。お前は今まで通りでいいよ。オレは気持ち悪がられてもうざがられても全力で、お前にオレのことを好きにさせるから。容赦しない」
これ以上ないほど熱烈な告白のはずなのに、何故か剣呑な気配を漂わせながら孝介は言う。あまりの気迫に思わず後ずさった陽介の背中が柱にぶつかった。開けられてもいなオレンジジュースのペットボトルが音を立てて倒れる。孝介は覆い被さるようにして柱に手を突いた。逆光で彼の表情は見えないが、あの苦しそうな顔をしているのが何故か分かる。呼気がかかるほど近くなのに決して触れてこないのは、陽介の答えを待っているからだ。
「陽介。許すって言って」
平静に聞こえる声は、しかしよく聞くと僅かに震えている。懸命に抑えてはいるが、まるで幼子が母親に縋るかのような必死さに陽介は苦笑した。もう、笑うしかなかった。
(コイツ、本当に俺のこと、好きなんだ)
例えどんなに彼に傷付けられても、彼を失うことと自分のプライドを計りにかけたら、陽介にとっては孝介の方が遙かに重い。ほだされたとしか言いようがないが、今の格好悪い姿さえいとおしいと思ってしまう。こんな彼の姿を見られるのは自分だけなのだと思うと、優越感さえ湧いてくる。それでも素直に望む言葉を言ってやるのは癪で、陽介は引き延ばすように問答を繰り返す。
「…俺なんかで、いいのかよ」
「陽介じゃなきゃ嫌だ」
「今のお前、ちょー格好悪いし、最低だ。こんなの脅しだろ」
「ごめん。格好付ける余裕もない。でも大丈夫、そんなの気にならないくらい好きにさせるから」
「どこから来るの、その自信」
「オレ自身から」
焦らされているのに気付いたのか、孝介が焦燥を帯びた声で再度「陽介」と呼ぶ。陽介は大げさに溜息をひとつ吐くと、せめてもの異種返しに思い切り――孝介に抱き付いた。
「っ!」
バランスを崩した孝介が、陽介に押し倒される形で転倒する。驚きに目を見開く彼の姿など滅多に見られるものではない。今から言うことの恥ずかしさに顔を赤らめながら、陽介は孝介の腹の上に跨って叫んだ。
「許してやる!せいぜい好きにさせてみろ、このバカ!!」
その瞬間の孝介の顔を、一生忘れることはできないだろう。安堵と狂おしいほどの喜び、それから恐れを綯い交ぜにしたものが、まるで雪解けのように彼を溶かしてゆく。蕩けそうなほど甘く切ない、きゅうと胸を締め付けられるような微笑。あまりにもきれいで、陽介は言葉を失った。
「陽介」
名前を囁かれたかと思うと、突如として支配が反転する。僅かな衝撃の後、何故か眼前には孝介の整った相貌があった。先程までの姿勢が一転、今度は陽介が組敷かれる形になっている。体の下に感じるのは固く冷たい石畳なのに、痛みを殆ど感じなかったのは上手く孝介が庇ったからなのだろう。ちり、と陽介の胸が疼いた。
「前言撤回はできないからな。オレ、本気だから」
陽介も強い眼光で孝介を見据えて言い返す。
「男に二言はねーよ!…俺、お前に大人しく守られるつもりはないから。それに、俺もお前を守るから」
これだけはどうしても譲れない。まだ赤い頬のまま、それでも真摯に言い切る陽介に、孝介は静かに頷いて見せた。そして陽介の存在を確かめるかのように、首筋に顔を埋めてくる。彼の眼鏡とヘッドホンがあたり、かちゃりと無機質な音を立てた。孝介は邪魔そうに眼鏡を外し、次いで陽介の眼鏡とヘッドフォンをも外してしまう。
「な、何すんの…?」
「キス」
陽介が拒絶を表明するよりも早く、孝介は形のよい顎を片手で軽く持ち上げ、唇を重ねた。ちゅ、ちゅ、と角度を変えて幾度か啄ばまれた後、ぬるりとした舌が咥内に忍び込んでくる。陽介は体を捩って逃げようとしたが、どういう押さえ方をされているのか馬乗りになった孝介はびくともしない。歯列をなぞられ、強制的に舌を引きずり出され、絡まされる。ざらついた舌の感触に、ぞくぞくとした何かが背筋を這いあがってきた。息継ぎが上手くできず苦しさのあまりに喘ぐと、孝介は嫣然と笑った。
「可愛い。…嫌じゃ、ない?」
息苦しさでぼうっとしていた陽介は、思わず素直にこくりと頷く。男同士なのに、孝介に触れられることに抵抗はあっても嫌悪感はなかった。おかしいことだと理性は告げているのに、触れる熱をどうしても厭うことができない。彼は嬉しそうに笑うと、どこまでもやさしい手つきで陽介の髪を梳きながら囁いた。
「どうしよう。しあわせすぎて、オレ、おかしくなりそうだ」
「お前にバカになられたら困る」
憎まれ口を叩き、ふと顔を上げた陽介は、孝介の背後の空間が揺らいでいるのに気が付いた。ゆらり、と空気が揺れ、自分に圧し掛かる男によく似た影が姿を現す。シャドウだ。自分より気配に敏いはずの孝介は何故か気付いていない。体を起しかけた陽介を制するように、シャドウはいたずらっぽく唇に人差し指を当てる。そしてそのまま淡い光となり、宿主の中に吸い込まれていった。
「…?」
何かが入ってくる感覚に孝介は不思議そうに小首を傾げたが、次の瞬間、面白いくらいに顔色を失った。その表情の変化に本人よりも驚いている陽介の右腕を掴み、制服とシャツの袖をまくり上げてまじまじと眺める。すべらかな肌には何もない。傷痕も痛みも残っていない。だが、己の影が戻ったことにより記憶を共有した孝介には、陽介の腕を折ったという覆せない事実が知らされた。察した陽介は先回りして言う。
「その、気にすんなよ。俺のシャドウだって、お前を傷付けたし。もう、痛くねーし」
孝介は辛そうに頭を振る。そして徐に白く細い腕に唇を寄せると、触れるだけのやさしいキスを手首から肘に向かっていくつも降らせた。やわらかな唇を押しあてられくすぐったさを感じつつも、目を伏せた孝介の真剣な表情に胸を打たれ、結局されるがままに身を委ねる。やがて気が済んだのか、孝介は顔を離すと今日何度目かも分からない謝罪を口にした。
「ごめん」
「だから、いいって。って何してんの?!」
徐に制服のボタンを外し始めた相棒に、陽介は思わず頓狂な声を上げる。孝介は相変わらず苦しそうな顔のまま、さも正論のように囁いた。
「シャドウが陽介にしたこと、オレにもさせて。シャドウじゃなくて、オレにされたって、覚えてて」
「シャドウがしたことっ…て、えええ?!ちょ、待て待て!」
陽介の静止など全く意に留めず、孝介は制服の前を肌蹴させ、シャツの裾をズボンから引き抜き、たくし上げる。露わになった細い腰のラインに眩暈を覚えた。つう、と感触を確かめるように脇腹を撫でれば、陽介は甘く息を詰めて体を震わせる。まるで女のような反応を返してしまった己の浅ましさに、彼は耳まで真っ赤になって泣きそうな顔をした。あまりに可愛らしい様に孝介は深い笑みを浮かべ、その大きな手を徐々に上へとスライドさせる。陽介はいやいやをするように首を振った。
「や、やだ!お前、いくらなんでも強引すぎ!きっ、嫌いになるからな!!」
口に出した後、いくらなんでも子供のようだと思ったのだろう、陽介はばつの悪そうな顔をして口籠る。しかし孝介には十分な効果がある言葉だった。ぴたりと彼は動きを止め、素肌に触れていた手を離す。
「悪い、調子に乗った。だって陽介があんまりにも可愛いから。今日はこれ以上はしないから、代わりにもう一回キスしてもいい?」
親友の時と同じように、けれどもそれよりも甘く強請られれば、陽介が逆らえるはずもない。喜々として顔を寄せてきた孝介から先程よりも深い口付けを受け、彷徨う腕を背中に回されれば、否応なしに熱が高まってきた。
(やば、気持ちいい…こいつ、キス、上手いんだな)
恋愛らしい恋愛をしたことのない自分と違い、孝介はさぞかし経験があるのだろう。比較対象はないが、彼のキスは巧みだった。自分の知らない誰かともこういうことをしていたのかと思うと、胸の中にもやもやとしたものが生まれ、苦しくなる。しかし余計な思考を挟むことすら許さないとばかりに孝介のキスは激しくなり、次第に陽介は何も考えられなくなっていった。くちゅくちゅという濡れた音が広間に響く。かかる吐息が熱い。体の芯が熱を持っているのが分かって陽介はまた泣きたくなった。羞恥に身を捩れば何か固いものが膝にあたり、すぐに位置的にそれが孝介のものだと分かって彼は硬直する。唾液の糸をひかせながら口を離した孝介は、珍しく恥ずかしそうな顔で呟いた。
「仕方ないだろ。好きで好きで仕方がないやつとこんなキス、してるんだから。っていうか陽介も」
「言うなバカ!空気読めッ」
若い体は火が付きやすい。孝介の情熱的すぎるキスによって、陽介のものはほぼ立ち上がってしまっていた。ズボンの上からふくらみを撫でられ、陽介はびくりと体を震わせる。孝介はすっかり固くなっている己のものを陽介のものに擦り合わせた。布地越しに感じた刺激に陽介は思わず甘い声を出す。
「あッ」
「…ねぇ、触るだけでも、ダメ?陽介、辛そう」
ぶんぶんと首を振ると、孝介は困ったような顔をする。その表情とは裏腹に、陽介の下肢を刺激する動きは止まない。いつの間にかベルトは抜き取られ、ファスナーは下ろされていた。下着がずり下ろされ、起立したものが外気に晒される。既に先走りで濡れている己のものを、孝介のきれいな手が掴んでいる光景はどうしようもなく淫靡で背徳的で、陽介は正視することなどできなかった。
「やだ、やめろよぉ…!」
「大丈夫。気持ちよくする、だけだから」
躊躇いもなく掴んだものを口に含もうとした孝介の顔を、陽介は必死に腕で押し留める。羞恥と混乱で正常に働かない頭を叱咤し、彼は感じたことをろくに整理できないまま、それでも叫ぶ。
「おっ、俺だけ恥ずかしいのも、気持ちいいのも嫌だ!お前、そうやってなんでも与えようとすんの、やめろよ!」
「…ホント、陽介はすごいね」
孝介は答えになっていない答えを返す。幾度かの押し問答の末、気がつけば陽介はズボンと下着を脱ぎ捨てて柱に背を預けた孝介の上に跨り、そそり立ったお互いものを互いの手で包み込んでいた。自分の性器を晒し、他人の勃起したものを握り込む日が来るとは想像だにしなかった。羞恥に固まってしまった陽介の手をリードするように、孝介の大きな手が上下に動きだす。汗ばんだ掌の摩擦と互いの先走りの滑りに、一人でする時とは全く違う快感が走り、陽介は背中を仰け反らせた。孝介の力強い腕が腰を支え、引き寄せる。
「あっ、あん、や、俺、おかしい…!お前と、こんなことしてる、なんてッ」
強すぎる快楽に頭がまっ白になり、自分が何を口走っているのかもよく分からない。確かなのは崩れ落ちそうな体を支える目の前の男の手と熱だけだ。浮かされたように孝介も囁く。
「っ、おかしく、ないよ。陽介、すごい。オレ、すぐにイッちゃいそう」
低い声が耳に吹き込まれ、それだけでぞくぞくと背筋が震えた。卑猥な水音は耳を塞ぎたくなるほど激しくなり、互いのものは今にもはち切れんばかりになっている。
「陽介。あいしてる」
掌の動きと同時に突き上げるように腰を使われ、切っ先を擦られて陽介は射精感を堪えることができなかった。自分のものとは信じたくないような高く蕩けた声をあげて、絶頂を迎える。
「や、あっ、孝介、もぉ…!!」
陽介が勢いよく白濁を吐き出すと同時に、孝介も小さく呻きをあげて、互いの腹を濃い精で汚した。


「……・嘘吐き」
手持ちのポケットティッシュと、何故か袋の中に入っていたウェッティで体を清めた後、柱に寄り掛かった孝介に後ろから抱き締められながら陽介は恨みがましく呟いた。けれども腕の中から逃げようとはしない。
「ごめん。言い訳はしないよ」
孝介は憑きものが落ちたようにすっきりとした顔をしていた。いつも通り端正な顔には先程の情事の残滓はもう残っていない。嵐のような情欲は形を顰め、触れた背中はあたたかく、腰に回された腕の力はやさしかった。彼の腕の中はとても心地がよくて、精神的肉体的に疲弊しきっていた陽介は、ついついまどろみそうになってしまう。瞼が下がり始めたのを見咎めた孝介が、親友だった時と何ら変わらないやさしい声で言った。
「陽介、少し寝る?30分くらいしたら起こすから、そしたら帰ろう」
「ん…」
頭は既に思考を放棄している。とりあえず、孝介がいれば心配はない。この温もりを失わずに済んだことに安堵を覚える。
(なんかとんでもないことになっちまったけど…まぁ、いっか)
これからのことは起きてから考えよう、そう楽観的に考え、陽介は睡魔に誘われるまま目を閉じた。




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