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どうしよう、しあわせの先が見えない・7

リーダーと参謀の諍いは、ついに特別捜査本部全体の問題に。
ぺよんの子はみんなすきですが、特に千枝と陽介が仲良くしてるのにときめきます。ホントいい子だ!
そして陽介は懲りずに恐怖体験。私だったら泣く。心臓が止まる。

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「――では、第一回・特別捜査本部臨時集会を始めます」
ジュネス屋上、フードコート。皆の気持ちを表すかのように、空は重く垂れこめている。真剣な表情の千枝によって開会が宣言されると、メンバーは神妙に頷いた。そこにはリーダーと参謀を除く特別捜査本部の全員が集まっている。議長の視線を受け、直斗は現状の纏めを語った。
「一週間前、花村先輩がテレビの中に落ちました。幸いすぐ月森先輩によって救出されましたが、花村先輩はシャドウに襲われ衰弱が酷かったため、昨日まで学校を休んでいます。正確には4日前にも一度登校しましたが、体調不良ですぐに早退しました。その後からお二人の様子がおかしく、我々の活動にも影響が出ている状態です。具体的には、花村先輩がリーダーの指示に従わないことがあり、また、今までできていた連携プレーができないため、戦力がダウンしています。パーティーの士気も下がり気味です」
直斗に続いて千枝と雪子が言う。
「花村、あたし達にはいつも通りなのに、月森くんにだけすごいピリピリしてんの」
「月森くんも、なんていうか…花村くんに後ろめたさを感じてるみたい。花村くんに酷いこと言われても言い返さないし、庇うようなことさえ言うの」
「でも、花村、言っちゃった後にものすごい傷付いた顔してんだよ。だったら言わなきゃいいのに」
彼女達は揃って溜息を吐いた。眉間に皺を寄せた完二が呟く。
「そういやオレ、昨日の探索で何かヘンだと思ったんですけど…呼んでなかったんスよ。花村センパイが、月森センパイのこと、『相棒』って」
「!!」
陽介がお調子者に見えても、本当は情に厚く、律儀で仲間思いな男であることを彼らは知っている。その彼が、最も信頼を寄せている証として使っていた言葉を封印した。そのことに皆は少ながらず衝撃を受けた。
「もう!どうせ花村センパイが月森センパイを困らせてるんでしょ!さっさと謝っちゃえばいいじゃない!」
りせの発言に完二は溜息を吐く。
「それができねーから拗れてるんだろーが。…つか、あのヒトらもケンカなんて、するんですね」
意外そうな完二に、この中では彼らと最も付き合いの長い二年の二人は困ったような顔をした。
「うーん、実はアタシらも初めてなんだ。月森くんと花村が、あんなにギスギスしてんの見るの」
「二人ともお互いに遠慮しないっていうのかな。だからぶつかることもあったけど、いつもすぐに仲直りしてんたんだよ。今回はちょっと深刻そうだから…心配だね」
雪子の言葉は皆の心中を代弁したものだった。
揺るがないリーダーとしての孝介と、当たり前のように隣に立つ陽介。先陣を切り敵陣に切り込むその姿は、いつしか皆の精神的な支柱になっていた。テレビの中、シャドウ、警察には頼れない事件――ともすれば不安に押しつぶされそうになる戦いの中、二人の背中はとても頼もしく、誇らしかった。象徴として一方的な幻想を抱いているだけだとしても、彼らには崩れないでいて欲しい。いつものように笑っていて欲しい。結局のところ、彼らが大切だから心配なのだ。
「ねぇクマ、あんた花村センパイから何か聞いてないの?」
りせが珍しく黙ったままのクマに尋ねると、彼は消沈した声を出した。
「…ヨースケ、泣いてたクマ。クマ、よく分からないけど、今回はヨースケが悪い訳じゃないクマ。でも、センセイも悪くないクマ」
涙を流せないクマは、それでも泣きそうな顔をしていた。雪子は慰めるようにそのプラチナブロンドを撫でてやる。甘えたように擦り寄ってくる細い体にいつものような他意は感じられず、二人を想う健気な様がいとおしくなった。
「――原因が分からないのでは、対策の立てようがありませんね。とりあえずは状況注視というところでしょうか。また2日後くらいに集まって状況報告しましょう。何か動きがあれば適宜連絡ということで」
直斗の言葉に同意が集まり、集会はお開きとなる。見上げた空は今にも泣き出しそうだった。




*********




更に数日経っても、二人の関係はこれ以上悪化することはなかったが、好転することもなかった。リーダーと参謀の関係がぎくしゃくしているため、自然とテレビからは足が遠退いている。今がマヨナカテレビに誰も映っていないことだけが幸いだった。
「――あ、花村!ちょっと待ってよ!」
昼休み、パンと飲み物を持って教室から出ていこうとした陽介を、千枝は呼び止める。彼が足を止めてくれている間に自らの鞄の中から弁当を取り出すと、小走りに駆け寄って背中を叩いた。
「屋上、行くんでしょ?今日はお天気いいから、あたしも久しぶりに外で食べたいなって」
「…別に、気ィ使わなくていーよ。つか、アイツから頼まれた?ホント余計なお世話だからって言っといて」
彼の名前のような明るさは微塵もない、冷たい声。僅かに眉が潜められただけの顔が驚くほど綺麗に整っていることに、今更ながら千枝は気付いた。周りを拒絶するその様が痛々しくて、腹立たしくて、千枝は思い切り脛を蹴り上げる。
「バカっ、自惚れてんじゃないわよ!!いいから着いてきなさいッ」
「いっ…!!!こんの怪力女!本気で蹴る奴があるか!?」
きゃあきゃあと騒ぎながらも屋上へ到着する。昼休みの屋上はいつの間にか孝介と陽介の指定席になっていて、八十神高校では良くも悪くも浮きがちな特別捜査隊のメンバー以外はあまり近寄らない。孝介と二人きりになることを陽介が避けている今、誰の姿もない屋上は、日差しはあれど肌寒かった。ぴう、と木枯らしがあ吹き、千枝が少し寒そうに身を縮める。
「里中。寒いからホントいいって。あと、お前達にはメーワクかけてるとは思うけど、俺なんて放っておいてくれていいから」
陽介は泣きそうな顔で微笑んでいた。歪な笑顔はとても痛々しい。まるで孝介が越してくる前の、笑顔の殻に閉じ持っていた彼に戻ってしまったようで、千枝は不安と焦燥に駆られた。その考えを振り払うように、彼女は陽介の薄い背中を叩く。
「もー、何でそんなにヒクツなの?!月森くんから頼まれたワケじゃないの!あんただって仲間でしょうが!仲間の心配して何が悪いのよ!」
言い切った後の千枝の顔は少し赤かった。彼女には裏表も他意もない。今時珍しいくらいの真っ直ぐな子である。暖かな気持ちがじんわりと胸に広がり、数日ぶりに陽介は微笑んだ。
「……サンキュ」
二人は適当な場所に腰を下ろすと、ぽつぽつと話をしながら昼食を取った。月森の話題には触れてこない。他人の感情敏感な陽介は、気を遣わせていることにひどく申し訳ない気持ちになる。
(でも、分かんねぇんだよ。どうしたらいいのか)
孝介の気持ち、陽介の気持ち。お互いが大切なことは確かなのに、交わらない、交われない。誰に相談することもできず、気持ちを整理できないまま、陽介は彼を傷付けながらも逃げ続けることしかできないでいる。出口のない迷路を彷徨っている。
好きと言われたことに嫌悪感はない。驚くべきことに、キスされたことに対してもない。男同士でおかしいとは思うが、自分の影を出会って間もない孝介が受け入れてくれたように、彼の想いも受け入れたいとは思う。ただ、こんな気持ちのままで今までのように相棒とは呼べない。
「あ、そういえばさ、クマくんから聞いた?アンタを助けに行った時、テレビの中で子犬を見つけたんだって。とりあえずうちで預かってるんだけど、心当たりない?」
早々と弁当を食べ終えた千枝に尋ねられ、陽介は逡巡の後、軽く眼を見開いた。
「そいつ、白い?」
「うん。渡された時はかなり汚れてたけど、洗ったら真っ白になったよ。首輪してなかったから野良だと思うんだけど」
「あー…超心当たり、ある。よかった、無事だったんだ…」
陽介は歯切れの悪い口調で、かいつまんで事情を説明した。話の流れで不良と対峙したことを削る訳にもいかず、それを聞いた千枝の表情が険しくなる。
「あんた、ホント馬鹿!なんで相談してくれなかったの?!」
「や、俺、ただでさえここじゃ悪い噂が立ちやすいし、お前らにメーワクかけたくなかったっていうか」
他人を気遣うことができるのは美点だが、陽介はいささか度が過ぎる。千枝は大げさに溜息を吐くと、もう無茶はしないと陽介に約束させた。その眼差しが真摯で、不覚にも眼頭が熱くなる。赤くなった目元を拭い、鼻を啜った陽介を、彼女は見ないふりをしてくれた。
「なぁ里中、今度犬の様子見に行ってもいいか?」
「うん。何なら今日でもいいよ。――ねぇ、なんで」
問いかけ、千枝は口籠る。傷付いている人間の、最も触れられたくない場所を抉ろうとしてしまったことに気付き、彼女は愚直なほど率直な自分を恥じた。しかし陽介は困ったように笑い、ぽつり、と呟く。
「…あいつ、俺のこと、守るって言うんだ」
千枝は静かに言葉の先を待った。陽介はゆっくりと流れてゆく雲を見ながら、一言一言を絞り出すように言う。よく通る彼の声が、浚われるように風に溶けてゆく。
「俺、あいつとは対等でいたい。あいつの方が強いっていうのは分かってる。でも、俺、女じゃないし、守ってもらわなきゃ立てないほど弱くないつもりだ」
陽介の言葉は千枝の葛藤を喚起させた。どれだけ努力しても、男と女では根本的に体の作りが違う。どんなに技を磨いても、努力を重ねても、孝介の腕力には敵わない。足の速さは陽介には及ばない。完二ほどの体力はない。それでも、守られるのではなく大切なものを守る強さを求めてやまない。女だからというだけで、庇護される立場であることを位置付けられるのは我慢ならない。
「特別に思われるのは、嬉しいよ。なぁ里中、俺が弱いから、いけないのかな。トモダチのままじゃ、特別にはなれないのかな。俺、あいつと対等でいたいと思っちゃダメなのかな。ずっと友達でいたいって、思うのもダメなのかな」
陽介の声は泣きそうなほど震えていたが、その頬は濡れてはいなかった。空気の震えが千枝の心を揺さぶる。じわり、と涙が滲んだが、陽介の前では涙を見せたくなくて、千枝は代わりにすぐ傍にあった手を力いっぱい握った。触れた指は細く、けれども大きかった。
「…積極的デスネ、里中さん」
「うっさい!花村のくせに!」
それでも手が振り払われることはなく、遠慮がちに握り返されてくる力に千枝はまた泣きそうになる。このやさしい手の持ち主と、彼を想う彼がどうかしあわせになれますようにと、千枝は祈らずにはいられなかった。




放課後、陽介は一人で鮫川河川敷の上手にあるゴミ山を訪れていた。
辺りには自分以外の人の気配はない。ここで親に内緒で犬を育てていたのであろう小学生達に安否を伝えてやりたかったのだが、その姿はどこにも見当たらなかった。まだ年端の行かない子供にとって、不良に絡まられるというのはかなりの恐怖体験だろう。もしかしたら怖くてここに近寄れないのかもしれない。
(それとももう、野良犬のことなんて忘れちまったのかな)
そう考えると寂寥感が胸を掠める。どんなに大事にしていても、なくなれば代わりのものがその隙間を埋め、やがては忘却の淵に沈む。それが幼子なら尚更に早いだろう。いやに感傷的になっている自分に気付き、陽介は自嘲の笑みを浮かべた。
(とりあえずは里中ん家が面倒見てくれるって言ってるし、また今度来てみっか)
踵を返して陽介は歩き出した。昼休みに約束した通り、今日はこれから千枝の家に犬の様子を見せてもらいに行くのだ。女子の家に一人で遊びに行くことに抵抗はあったが、孝介に声を掛けることはできず、その他の特別捜査隊のメンバーも都合が悪いとのことで、結局は陽介一人となった。
「…ん?」
不良に絡まれた因縁の現場を足早に通り過ぎようとした陽介だったが、街頭などないこの場所で何かがぼんやりと光っているのを見つけ、訝しげに足を止める。恐々と近寄ってみれば、それはあの日陽介が落ちた大型テレビだった。日の光の下で見れば、液晶画面の下部にそこそこの大きさの穴があり、そこから画面全体に亀裂が走っている。問題なのはテレビの破損状況ではなく、何故電源もないこの場所で光を放っているかということだ。陽介は警戒しながら、そっとテレビに近付いた。
「電池か?もしかして液晶って発光するモンなの?」
遠巻きに眺めていても埒が明かないので、陽介は思い切ってテレビの前に近寄ると、そっと画面に触れた。指先が沈み、波紋が水面のように広がる。それはペルソナを使える者がテレビに触れた時に起きる現象で、このテレビだけが特別という訳ではなかった。
「分かんねーな。クマにでも聞いてみっ――」
陽介が画面から手を離した瞬間、突如として向こう側から伸びてきた何かに陽介は拘束される。
「!!!??」
視界の隅に入ったのは、見慣れた八十神高校の男子制服の袖だった。テレビ画面から生えた二本の腕がしっかりと陽介に絡み付き、信じられないほどの力でテレビの中に引き込もうとしている。あまりの驚きと恐怖に声も出せないまま、陽介はそのまま霧の世界へ引き摺り込まれていった。堕ちる瞬間、何故か嗅ぎ慣れた彼の匂いが鼻孔を掠めた。




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