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グッドデイ!!!! ※頂き物

Freedom Machines?」のなびさんより10万ヒットのお祝いとして頂戴しました、大学生主花です…!
わたしなびさんのところの暴走がちな主と健気な陽介がだいすきなので、本当にうれしいですvありがとうございますー!!

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『グッドデイ!!!!』



 その日は講義が休校になり、バイトも無く、とり急いで片付けねばならない課題も無く、要は何もない日だった。何かをしようと思ったが、何かをしようと思ってもとりたててしたいことも思いつかなかった。少し考えてから、陽介はたまには良いかと目的も無く現在暮らしている街をのんびりと歩きだした。
そうやって歩いてみると日頃は時間に追われて気がつかないでいたが、来た時にあったはずの建物が消えていたり、店が変わっていたり、はたまた庭先を飾っていた草木が丸ごと入れ替わっていたりと世間は確実に変化している事に気がついた。
 変わらないものなんて、ないんだと言われているような気がしてその事に気づかないふりをしていた。ということに陽介ははたと思い至った。その途端陽介は僅かに眉を寄せた。しかしすぐに後ろ向きの思考は切り替わる。それもとびきり前向きに。
 変わらないものなんてない。ただその変化のスピードが目に見えるか、体感できるか、で変わらないであるということに過ぎない。あらゆるものは日々変わっていく。それもとびきり良い方向に!
 こんなバカみたいな前向きな考え方が出来るようになったのは、あの高校2年生の時の出来事があったから。辛い事悲しい事嬉しい事楽しい事、嫌な事目を反らしたい事いっぱいいっぱい経験して、賢くない頭で色々と考えて選びとってその時の大事件を乗り越えた。そんな自信が前向きな考えにつながっているのかもしれない。
 そう思えば変わる事は、ドキドキとわくわくが沢山詰っているとても素敵な出来事に思えて毎日が無暗に楽しく思えて仕方がない。
 眉間の皺が自然に消えると、また周囲の色々なものが目に飛び込んできた。
「あ、あの花なんだっけ?」
確か八十稲羽でも見かけた事のある花が庭先で慎ましやかに揺れていた。周囲は建て替えが住んでいるのか比較的現代的な作りの住宅が多く立ち並んでいるのに、そこだけはあの場所と似たような、古臭い外観だけれどもどこかほっとするような作りの家だった。例えるなら堂島家に似ているかもしれない。今にもあの皆が自分の妹のように可愛がっている少女が『陽介お兄ちゃんおかえりなさい!』と言って顔をのぞかせてくれるような雰囲気だ。そんな感傷に浸りながら控えめながらも鮮やかに咲く花を陽介は眺めた。
「…って花の名前なんかわかんねぇや」
しばし足を止めてじっとその花を見てから、結局花の名前までは分からず陽介は小さく苦笑を浮かべて歩きだした。そして花にではなく、その場所のもつ雰囲気のせいで思いがけずしんみりとしてしまった事に思い至り、ついでに陽介自身も数年しか過ごしていない筈の八十稲羽を懐かしく思えている事に若干の気恥ずかしさも感じてすぐにその場を離れたい気持ちにかられてしまったた。幼少期から父親の仕事の都合上転校は多かったが、何処よりもあの場所が自分の中で特別な場所となっているようだ。そう思うのは不思議でもなんでもない。
それは先程と理由は一緒であの場所は本当に特別な場所で、あそこに居なければ今の自分は決してなかったであろう、ということ。そうでなければきっと何時までも周囲の視線や思惑を気にして、本心をねじ伏せてへらへら笑って、どうでも良い話だけを聞いて、耳に心地よい言葉だけを口にして、そうやって適当に波風立たないように笑いながら過ごしていたに違いない。そうは言っても周囲に合わせてある程度の本音と建前を使い分けることが出来なければ社会に適合できずにあっという間に集団からはじき出されるのは目に見えている。その線引きがとても難しく、また、自分の中に一つの確かな何かが無ければただ流されて誰が演じても同じありふれた人生と言う舞台は延々と代わり映えも盛り上がりも何もない台本通りに過ぎていくだけなのだろう。そこに自分ではなければならない何かがあるか、これの存在如何によって生きるという意味は変わって来るだろう。
 思いかけず小さな花から人生まで思考が飛んだ。しかもかなり無意味に壮大な事を考えて仕舞った事にどうしょうもない羞恥心を感じた陽介はわざと顔をしかめて足早に歩く。誰かが自分の頭の中を覗いている訳でも、大きな声で頭の中で考えていることを吹聴していたわけでもないのだが、とにかく恥ずかしいと思った。
 そろそろ自分達が暮らしている場所に近づいてきた。ちょうど交差点の信号が赤に変わりそこで陽介はゆっくりと足を止めた。
 何時もと何の代わりも無い景色。いろいろな車が通り過ぎていく。時折り原チャがあぶなっかしい様子で車の間をすり抜けて走り去るのが見えて、危ないなぁなんて思いながら、そう言えば二輪は危ないからと千枝をはじめ色々な人に言われて結局免許を取れずに居た事を思い出した。高校の頃からずっとバイクに乗りたいと漠然とした憧れがあって、その為にバイトもしていたようなものだが、結局は二輪の免許は取らなかった。しかし自動車の免許は早々にとってしまったので乗ろうと思えば原付くらいなら乗る事は出来る。同級生の中には満員電車での通学に辟易して学校では禁止されているがこっそりと原付やバイクで通学している人も居る。学校の近くに二輪車も置ける駐輪場が確かあった筈だ。
「原付なら良くね?」
少しやりくりすればそれ位の資金はなんとかなるだろう。通学定期と二輪車の維持費諸々と比べてどっちが重いかは少し問題かもしれないが、…それよりなによりも最大の難関は誰よりも自分の事を心配して口やかましく言ってくる同居人をどう納得させるか、だろう。
「電車だと痴漢の冤罪もあるし…って言っても多分アイツ納得しないよな」
むしろ陽介が痴漢に遭うかもしれない!けしからん!!と言って別の次元に話し合いが飛ぶ可能性もある。寧ろ四月の頭にそういうやりとりは何度もあったし、帰りが遅ければ同様の趣旨で過剰に心配をされた。心配をしてくれるのは非常に嬉しいし、大事にされているという事なので有りがたい事なのだが、いかんせん、異様な位彼は自分に対して過保護で、もっとぶっちゃけると嫉妬も独占欲も凄まじかった。けれどその事自体は陽介にとってはとても嬉しい事で、煙たがるどころか嫉妬心を隠そうともしない彼に対して感動さえしたものだ。出会ってから三年目、未だに彼の愛情は変わらないということの何よりの証なのは痛いほど理解出来る。途中の一年は遠距離の上に、受験を控えていたのでほとんど顔を合わせる機会もなかったのだが、それでもメールや電話でそういう類の感情を彼が表した事はなかった。それなのに一緒に暮らす様になってからやたらと彼の愛情に満ちた束縛が陽介を甘く縛っていた。
「でも、俺だっていつまでも自転車でゴミ箱に突撃するような失敗しないだろうし!」
何時までもその束縛に甘んじていたら自分はずっと真神の庇護の元から抜け出せず、その状態ではとてもではないが『対等』な関係ではないと思っている。
「うし、流石にバイク通学は許してくれないかもだけどバイクでツーリングすることくらいは許可してもらおう!」
思いがけず新しい目標が出来た事に気を良くして陽介は上機嫌に鼻歌を歌いたい気分になる。
「あ」
だが鼻歌よりも、不意に視線を感じて横断歩道の向こうを見ると見知った顔が苦笑気味に自分を見ている。真神だ。
「まがみ」
小さく呟いて、上機嫌に歌ってるところを見られないで良かったと安心する反面、彼の姿を見た瞬間ただの信号待ちがやけに長く感じた。
ソワソワと、車の間を縫って今すぐに彼の所に飛んでいきたいなんて、一体どうしたんだろう。毎日顔を合わせて、何時だって彼に触れることが出来るのに。今この瞬間に傍にいきたいと思ったら衝動はどんどんと溢れて今すぐ飛び出したくてたまらない。
陽介はうずうずする気持ちを持て余す様に地団駄を踏むかのように軽く足を鳴らす。

 早く、早く変わらないかな。
 早く、早く、アイツのところに行きたいな。

 おかしいな、何時も一緒じゃないか。離れてた頃と違って何時だってあいつはそこにいるってのに。陽介はこみあげる笑いをとうとう抑えきれなくなった。
ふふっと空気が漏れたような笑いが陽介の口からこぼれると同時にピっとようやく信号が青になる。その瞬間に陽介は走り出した。真神が珍しく驚いたように目を丸くして陽介を見る。
その顔に何故か小気味よいものを感じながら陽介はまっすぐ真神の体にぶつかるように飛び込んで行った。


「たっだいまーーー!!」
まるで長旅から帰ってきたかのような陽介の声に、一瞬真神は虚をつかれたような顔になったが、すぐに柔らかい笑みを浮かべて軽く陽介の体を抱擁する。
「おかえり」
「どっかいくとこ?」
「ん、バイト。陽介は早かったな?休講?」
不必要に男二人がくっついて喋っている姿ははたからみたら気持ち悪いかも名、なんて周囲を気にする陽介にしては珍しく頭の隅で掠める様にそう思っただけで、猫のように真神の肩に額をこすりつけるような甘えた仕草をした。
「バイトからまっすぐ帰ってこいよ!今日は俺がうまいもん用意して…たぶん、うまいものを作ってるから」
「ん、期待して帰って来るよ」
へへっと陽介は笑顔を浮かべて真神を見て、それから信号が変わる前に真神の肩をとんっと押して送り出す。
「いってらっしゃーーーい!!」



 その日、昼間の珍しい陽介の甘い態度からてっきり新婚さん三種の神器である「メシ?フロ?オレ?」の問いかけが裸エプロン月で出て来ると期待に胸も余計なところも膨らませて帰ってきた真神と普通に出迎えた陽介の間の温度差がものすごく、陽介の二輪車免許習得説得もだいぶ時間がかかったのは言うまでも無い。

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