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愚者は吊り橋の上に立つ・4(完結) ※R-18

※R-18
ようやく…!なお初ものです。妄想しすぎて既に何十篇も書いた気になっており、初々しさの欠片もないとかホントすみませんすみません。
にしても(連載期間的な意味で)長かった!お付き合いくださった方、どうもありがとうございましたー!
しかし当サイトは基本的に陽介受難なので、連載はまだまだ続きますよ☆そんな訳で次シリーズもお付き合いくだされば幸いです☆

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 「どうぞ」
「お、お邪魔、シマス…」
孝介に促され、陽介は堂島家の玄関を潜った。ぴしゃり、と背後で音を立てて引き戸が閉まる。すぐ後ろには男の体温。言外に逃がさないと告げられているようで、陽介は緊張で只でさえ強張っていた体を更に硬くした。
(とうとう、来て、しまった)
時刻はまだ三時過ぎ。格子の間に填まった曇りガラスからは、陰り始めた午後の日差しが温く差し込んでいる。土曜日の授業は午前中までだ。一度別れて各自の家で昼食を取った後、二人はジュネスで待ち合わせ、買い物を済ませて堂島家へやってきた。
 正直なところ、あの日――夜中に本気で追い駆けっこをし、挙句の果てに半ば無理矢理告白をさせられた日――から今日までの数日間、どうやって過ごしていたのか陽介はよく覚えていない。気が付けば孝介のことや、彼にされるであろう行為のことばかり考えていて、何も手に付かない状態だ。流石に仕事に私情を挟む訳にはいかないのでシフト中だけは意識を切り替えていたが、その数時間に意識を集中した分だけ他が余計に注意力散漫になり、学校や家ではミスを連発してしまった。今は要救助者がなく、テレビの中に入る予定がないことだけが幸いだった。こんな状態で戦場に立ったら命を失いかねない。
 様子のおかしい陽介を、千枝や雪子を始め特別捜査隊の仲間や、一条や長瀬などの友人達も心配している。何故ならば、陽介がおかしくなるのは孝介絡みであるのが顕著だからだ。以前のように仲違いをしたのではないかと案じる彼らには、断じて喧嘩ではないと言ってあるが、説得力はあまりない。孝介に声を掛けられただけで跳ね上がり、些細な接触でさえ体が震える。このままでは身が持たないと離れようとしても、孝介がそれを許してはくれない。人前では今まで通りの距離を保ちながらも、二人きりになれば髪に触れ、頬を包み、唇を奪う。艶めいた囁きで耳を犯す。自覚したばかりだというのに、孝介は全く容赦をしてくれなかった。この男はどこまで自分を好きにさせれば気が済むのだろう。精神が焼き切れてしまいそうだ。
 「そんなに緊張しないでよ。別に取って食う訳じゃないんだから」
がちがちの陽介の頭をくしゃりと掻き混ぜ、孝介は靴を脱いで家に上がる。見れば玄関には彼と自分以外の靴はなかった。この時間ならいつもならば少女が家にいるはずだ。
「菜々子ちゃんは?」
「遼太郎さんと一緒に、千里さん――菜々子の母親のご両親の家に行ってる。今日は向こうに泊まって、明日の夕方に帰って来るって」
「へー…って、おい!じゃあ」
思わず大きな声を出した陽介に、孝介は振り向いて不敵に笑う。がさり、とネギのはみ出たジュネスのビニール袋が音を立てた。
「そう、二人っきり」
(うああああああああ!)
陽介は頭を抱えてその場に蹲った。あまりにも都合がよすぎるシチュエーションだ。
 今までだって、孝介と二人きりになることは多々あった。彼の隣はとても心地よくて、一緒にいられるのが、彼を独占できるのが嬉しくて、他愛もない話を延々とした。親友にしてはいささかいきすぎたスキンシップさえも嬉しかった。だがそれは陽介が彼を意識する前までの話だ。今は彼とどんな会話をすればいいのかすらよく分からない。
 孝介は手早く食材を冷蔵庫にしまうと、未だ玄関から動けずにいる陽介の手を掴んで引っ張り上げる。慌ててスニーカーを脱げば、にこり、と常と変らぬ微笑みを向けられた。
「手洗ってうがいして、二階行ってて。お茶持ってく」
「お、おう」
あまりにいつも通りの態度に拍子抜けしつつも、陽介は言われた通りに勝手知ったる洗面所に足を踏み入れ、手洗いうがいを済ませてから孝介の自室へと向かった。
 孝介の部屋は普段と何も変わらなかった。黒い革張りのソファにローテーブル。ありきたりな学習机。アルミのラックにはプラモデルやモコイ人形。小さなテレビと横に出しっぱなしのCD。布団は隅にきっちりと畳まれている。カーテンは引かれており、電気を付けない部屋は少し暗い。陽介はぺたり、と格子模様のカーペットの上に腰を下ろした。
(何か、フツーなのな)
抱く、と彼は言った。月森孝介は言葉に出した以上は必ず実行する男だ、自分達以外誰もいないとなれば、彼はすぐにでもそういう行為に及ぶのかと思った。しかし孝介は至って平静で、意識している自分の方がばからしくなってしまう。悶々とし始めたタイミングを見計らったかのように階段を登る足音が聞こえ、何故か居住まいを正して陽介は彼を待った。
 「お待たせ」
孝介の持った長方形のトレイの上には、湯気の立つマグカップが二つと、適当な菓子が乗っていた。まだ上着すら脱いでいなかった陽介は、温かい飲み物にようやく寒さを思い出す。孝介はトレイをローテーブルの上に置くと、ストーブのスイッチを入れてからソファに腰を下ろし、手招きをした。ここで拒むのも変かと思い、陽介は立ち上がると恐る恐る孝介の隣に、いつもよりも少しだけ隙間を開けて座った。苦笑の気配を感じた。
「陽介。上着脱ぎなよ」
「あ、うん」
ブルゾンの合わせに手を掛けて開き、肩を抜こうと体を捩ったところで横から手が伸びてくる。するり、と腕から袖を抜かれ、次の瞬間、陽介は彼に抱き寄せられていた。
「!!」
「そんなにビクビクされると、流石のオレも傷付くんだけど。ねぇ、いきなり襲ったりはしないから、先ずは恋人らしいこと、しませんか?」
悪戯っぽく囁かれ、陽介はおずおずと顔を上げる。そこにはとてもやさしい色を湛えた銀灰の瞳があった。
「ようやく、目、合った」
 そう言われ、陽介はここ数日、孝介の顔をまともに見ていなかったことに気付く。恥ずかしくて直視できなかったのだ。孝介はそっと陽介の頬を両手で包み込み、秀でた額に唇を落とす。一瞬で顔が真っ赤になったのが自分でも分かり、陽介はうろたえた。
「こ、恋人らし、い、ことって!」
「とりあえず、べたべたしながら話しでもしよう。あと、いっぱいキスしたいな。…抱くって言ったのはね、陽介。オレがお前に触りたいっていうのもあるけど、そうするのが一番手っ取り早く、オレがお前のことをどれだけ好きかが分かってもらえると思ったからだよ。お前の心の準備ができてないなら、別に今日じゃなくてもいいから。オレはいい子でお許しが出るのを待ってます」
「…俺がその、下なのは、確定なのかよ」
憮然と呟けば、孝介は至極真面目に答える。
「陽介がオレを抱きたいっていうなら、逆でもいいよ。でもオレも男の子なんで、喘ぐよりは喘がせたい」
「だからなんでそうダイレクトなのオマエ!」
羞恥を誤魔化すためにぱしぱしと肩を叩けば、孝介は全く痛がっていない顔で「痛い痛い」と言う。肩に回された腕は力強く、そして優しい。陽介は思い切って、ぽすり、と彼の胸に顔を埋めてみた。
「?陽介?」
静かな声色が耳に心地よい。小波のように染みわたってゆく澄んだ音は、出会った頃から変わりない。彼の声に焦がれ、もっと聞きたいと願うのは、受け取る自分の心が変わったからなのだろうか。孝介はソファの肘掛に背を預けて片足をソファの上に上げ、足の間に陽介を抱き込んだ。ぴたり、と平らな胸が重なり、体が密着する。布越しでも互いの体が熱を持っているのが分かった。首筋に顔を埋める形になり、さらりとしたシャツの感触を鼻先に感じる。ふわりと香る彼の匂いに、陽介は甘い痺れがはしるのを感じた。
(どうしよう)
 孝介が好きだ。だから自尊心をかなぐり捨て、羞恥も背徳も凌駕する強さで彼に触れたい。触れられたい。それしか考えられなくなってしまう。どきどき、なんて言葉では足りないほど心臓は激しく脈打ち続け、彼への想いで胸が締め付けられ呼吸すら苦しい。これが恋なのだろうか。だとしたら、今までの自分の恋はなんと幼稚で憧憬じみたものだったのだろう。
「陽介」
名前を呼ばれるだけで幸せになれる。けれども貪欲な心はもっと、と彼を渇望する。自分でも制御しきれない心を持て余し、救いを求めるように見上げれば、頤に指を当てて軽く上を向かされた。彼の整った顔が近付いてくる。陽介はゆっくりと瞼を伏せた。
「ん…」
少しかさかさした孝介の唇は熱かった。ちゅ、と音を立てて吸われ、一度離れた後、後頭部に手が回され今度はより深く口付けられた。ぬるりとした舌が割り込んでくる。孝介の舌はまるで別の生き物のように器用で、怯えたように奥で縮こまる陽介の舌を吸い出し、誘うように絡まった。ざらざらとする表面を擦り合わせれば、むず痒い快感がじわじわと生まれ出す。
「ふっ、あ」
「陽介が、好き。好きだから、お前のことが全部知りたくて、触りたくて、欲しくてたまらないんだ」
「………俺、も」
 同意の声は自分でも驚くほど熱に浮かされ、甘かった。指が絡む。繋いだ手にきゅう、と力を込められ、その確かな温もりに陽介は泣きたくなった。幸福で胸が詰まるなど初めてのことだ。孝介は蕩けそうなほど甘い微笑みを浮かべていた。
「…お前、ホントに、俺でいいの?」
再三の確認を取る陽介に、孝介は呆れたように溜息を吐く。
「陽介以外はいらないって言っただろう。不安なら何度でも言うよ。オレがお前を好きになったのは…」
「わー、わっ、いい、もういいから!恥ずかし死ねるから!!」
テレビの中で聞かされた告白をもう一度繰り返されそうになり、陽介は慌てて目の前の口を手で塞いだ。言葉が止まりほっとしたのも束の間、べろり、と掌を舐められ彼は情けない悲鳴を上げて手を離す。くすくすと笑いながら孝介はまたキスを仕掛けてきた。
「んっ…」
歯列をひとつひとつ丁寧になぞられ、咥内を余すことなく犯される。先程よりも長く、濃厚なキスに、ようやく顔が離れた時には陽介は腰砕けで息も絶え絶えの状態だった。
 広げた孝介の足の間にへたり込み、甘い顔立ちを淫蕩に溶けさせ、飲み切れなかった唾液を口の端から垂らすその様子に孝介の欲がずくりと疼く。手を伸ばして脇腹を撫でれば、細い体がぴくりと跳ねた。
「触って、いい?」
「…ん…」
こくり、と陽介が小さく頷いたのを見て、孝介は肉の薄い脇腹を撫でる。くすぐったがりの陽介はじゃれあいの延長のように無邪気に笑った。しかし首筋をべろりと舐めあげれば、切なげに息を詰めて体を震わせる。感度がいいのだろう。逸る心を抑え、孝介は今度は耳を食んだ。舌を耳の穴に差し込み、ぐじゅぐじゅと音を立てて嬲ると、陽介は面白いように体を跳ねさせた。
「あ、ん、やめ…ッ!」
「陽介、風呂入ってきたんだ。シャンプーの匂いがする」
孝介の声に脳髄までも犯される。掻き回される度に腰を、下肢を熱い疼きが支配してゆく。間違えない、これは快感だ。どちらかといえば男らしい自分の声がみっともなく上擦り、まるで女のような甘い声が漏れてしまう。陽介はきつく唇を噛んで声を抑えようとした。
「だめ。切れるよ」
 しかし目敏く孝介に見咎められ、親指の腹で唇をやさしく辿られる。歯に彼の長い指が当たり、衝動のままにぺろりと舐めてみれば、途端に銀灰の瞳に色が灯った。ぞくり、と背筋を情欲の予感が駆け上る。孝介は先程までの余裕はどこへやら、噛み付くようなキスをしながらシャツの裾から手を侵入させ、膨らみのない胸の飾りに触れた。指先で摘み、くりくりと捏ねくり回され、むず痒い刺激に陽介は首を振る。
「そこ、ヤダ、あ、さわん、な」
「でも勃ってるよ。ほら」
わざわざシャツを捲って見せれば、ピンク色の乳首は孝介の指に挟まれぷっくりと存在を主張していた。陽介は羞恥に泣きそうになる。女ではないのだ、胸を揉まれて気持ちいいはずがない。しかし乳首を弄られて何かを感じたのは確かだった。快楽には程遠いが、悪寒とも違う。どう答えていいか分からず固まっている陽介に見せつけるように、孝介は頂を口に含んだ。
「…!」
 熱く滑った舌での愛撫は、指とはまた違った感触で陽介を苛んだ。まるで赤子のように吸い付かれ、舌先で突かれ、甘噛みされ、陽介は戸惑いながらも声を漏らす。
(きもち、いい、のか…?)
しゃぶられていない方の乳首をきゅ、と抓られ、陽介は僅かな痛みと快感に鳴く。
「あッ」
「陽介、かわいい」
「ばっ、かわいいとか、言う…」
 言い返そうとした陽介の言葉は、しかし彼の手がベルトに掛ったのを見て止まった。孝介は手早く陽介の前を寛げると、既に形を変え先走りでぐちょぐちょになった性器を取り出す。彼の綺麗な指が自分のものを握っているという卑猥な光景に、陽介は悲鳴を上げたくなった。
(あの時、こいつは…いや、こいつのシャドウか、は、咥えたんだよな。俺の)
もたらされた快感と、刺激が強すぎる光景を思い出し、陽介は顔を真っ赤にした。悦かったのは事実だが、心臓に悪いのであまりして欲しくはない。孝介は陽介自身を握り込み、ゆるゆると上下に擦り始める。溢れ出した先走りが潤滑液となり、直接的すぎる快感に陽介は身を捩った。
「ひっ…!あ、ああ」
男同士だ、どこが気持ちいいかなど簡単に分かる。孝介は陽介の反応を見ながらいやに的確に感じる所を刺激し、同時に胸や項、耳を愛撫した。過ぎる快楽に体が反射的に逃げを打つ。足を閉じようともがくが、孝介はそれを許してはくれなかった。ぎゅ、と強く自身を握られ、陽介は悲鳴を上げる。
「ひっ、あ…!」
「声、我慢しないで。イっていいよ」
親指の腹で先端をぐりぐりと押されながら、幹を扱かれる。自分でする時とは違う追い詰め方は予想ができず、射精感を堪えられそうにない。孝介の手は気持ちが良すぎた。
「はな、せ、出、ちゃ…!」
指で作った輪で根本から押し上げられ、陽介は全身を痙攣させながら達した。びゅ、と勢いよく噴き出した精液が、孝介の手を、互いの服を汚す。孝介は見せつけるように手に付いた白濁を舐め取った。
「おい、何…!」
「いっぱい出たな」
陽介が悲鳴を上げて阻止しようとしても、孝介は笑うだけで止めてはくれなかった。整わない息、いつの間にか滲んだ涙で不明瞭な視界の中で、陽介は孝介の前が窮屈そうに盛り上がっていることにようやく気が付く。
(こいつ、ホントに俺で、勃つんだ)
 雪子姫の城でなし崩しに擦り合わせた彼の肉棒の大きさと熱さを思い出し、陽介は体を震わせる。男同士でする場合、入れる場所は一つしかない。自分の中に孝介のあれが入るだろうか。
「ちょっと待ってて」
孝介は陽介の体を離すと、適当に布団を広げ、机の中から何かを取り出す。出てきた物を見て、陽介の中でようやくこれからの行為が現実味を帯びてきた。ローションとコンドームだった。
 動けないでいる陽介を抱き上げるようにして、孝介はやさしく布団の上に移動させる。ついでに一糸纏わぬ姿にされ、露わになった肌を、局部を、銀灰の瞳で余すことなく視姦された。耳朶、唇、喉仏、項、鎖骨、乳首、脇腹、臍――そして性器と秘孔。溢れ出した粘液は幹を滴り、袋を濡らして僅かだが尻にまで伝っている。窄んでいる穴にいやというほど孝介の熱い視線を感じた。
「み、見んなっ!恥ずかしいだろ!!」
「何で。陽介のこと、余すことなく知りたい」
 恥ずかしい言葉を臆面なく言われ、陽介の羞恥は煽られる一方だ。全裸の自分とは対照的に、未だかっちりと服を着込んだ恋人が恨めしくて、陽介はのろのろと体を起こすとパンツの生地を押し上げている彼のものを握ってやる。孝介は息を詰めてびくりと震えた。少しだけ溜飲が下がった気がした。
「だめだよ、陽介。放して」
孝介は困ったように肩を押し、体を放そうとする。けれども陽介は引かなかった。
「何でだよ。お前、また、俺だけ気持ちよくしようとか思ってないだろうな?お、俺だって、お前のこと、気持ちよくしてやりてーんだからな!」
 陽介は震える指を叱咤して孝介の前を寛げ、猛ったものを取り出す。自分のものよりも大きく、赤黒いそれは完全に勃起していて、陽介はごくりと唾を呑んだ。先端の穴からはとろとろと透明な先走りが溢れ、雄の臭いがした。陽介は覚悟を決めて身を屈め、口を開いてぱくり、と彼の性器を咥える。
「?!陽介、やめ…ッ」
孝介の制止が聞こえたが、無視して陽介は舌を使い始める。彼のシャドウが自分にしたことを思い出しながら、裏筋を辿り、指で刺激を加えた。
(まずっ…)
口の中に広がるのは熱さと苦さと生臭さだ。そして大きいため口に含むのも一苦労である。男のものを咥える日がくるとは思ってもみなかったし、自分のものだとしても舐めるのは嫌だ。孝介でなければこんなことはしていない。吐き気を堪えて上目使いに彼の顔を伺えば、孝介は口元を手で押さえ、端正な顔を悩ましげに顔を歪ませていた。色素の薄い頬がうっすらと上気し、時折洩れる吐息は妙に艶がある。壮絶なほどの色気に、達したばかりだというのに中心に熱が集まるのを感じた。
「っ、あ、ようすけ」
「ん、きもちい…?」
 歯を当てないよう気を付けながら尋ねると、孝介は首を縦に振る。安堵して再び肉棒に舌を這わせれば、躊躇いがちに長い指が髪に差し込まれた。
「まさか、こんなことまで、してもらえるとはね」
「…お前だって、しただろ」
意趣返しのつもりで強く先端を吸う。頭上からくぐもった声がしたかと思うと、口の中になんとも言えない味が広がった。限界が近いのだろう、ぱんぱんに張りつめた孝介のものは陽介の唾液と先走りでどろどろになっている。卑猥な光景に腰が疼いた。
(イかせたい)
 比較対照がないので断言はできないが、自分の舌使いは拙いものだろう。だが孝介を気持ち良くしたくて、陽介は口と手を使って必死に孝介を高めてゆく。漏れる息が荒くなる度に陽介の体も熱くなる。
「っ…!」
達しそうになった孝介が腰を引くが間に合わず、熱い体液が陽介の顔にぶちまけられた。精液が目に入ると失明すると聞いたことがあるため、陽介は慌てて瞼を閉じる。幸いにして目には入らなかったが、開きっぱなしだった口に幾許か注ぎ込まれた精液を、陽介はごくりと飲み下して見せた。思わず咽るほど不味かった。
「!陽介、無理しなくていいから」
けれども一度飲み込んだものを出す方が難しい。ふるふると頭を振ると、孝介がぎゅうと抱き締めてくれた。
「ありがとう。すごい気持ちよかった」
「…顔、べとべとする…」
 呟けばいつの間にか用意してあったタオルで顔を拭かれる。苦い、と言いながらキスを交わし、二人して布団に倒れ込んだ。首をもたげていた陽介の性器が孝介の下肢に当たる。彼は嬉しそうに、そしていやらしく笑った。
「オレのを咥えて、こんなになっちゃったんだ」
恥ずかしさに顔を背けると、あやすようなキスの後に衣擦れの音がした。孝介がようやく服を抜いだのだ。外は既に冬になりかけているが、部屋の中はストーブと互いの熱で熱いくらいである。浮かびあがる孝介の裸身は均整が取れていて、陽介は状況も忘れて思わず見とれた。
「陽介。いい?」
 これは最後通告だ。意味が分からぬほど子供ではない。陽介は圧し掛かってきた男の首に手を回し、精一杯の勇気を振り絞って囁いた。
「――いい、よ」
もう一度「ありがとう」と言われ、緊張を解すように何度も啄ばむようなキスをされる。ローションを手繰り寄せ手に取りながら、孝介は真面目な顔で告げた。
「お前に負担を掛けることになるけど、どうしても我慢できないようだったら我慢しないで言えよ」
「う、ん」
 ローションを纏った指が後ろの穴をまさぐる。その冷たさに陽介は体を強張らせた。これからされる未知の行為へと不安と期待が綯い交ぜになり、縋るものを求めて陽介はシーツを掴む。つぷり、と指が一本、中に入った。
「う…」
「痛くない?」
「痛くは、ねぇ…けどなんか、ヘン。きもちわるい…」
素直にそう言うと、孝介は探るように指を動かし始める。排泄にしか使ったことのない場所を他人に弄られている、それだけで恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。目を閉じて必死に耐えていると、急に前を温かい滑りに包まれた。
「ひゃあ?!」
孝介は陽介の後ろを解しながら、異物感に萎えていた性器を口淫する。直接的な刺激に意識を持ってゆかれ、後ろを締め付ける力が緩んだ。すかさず二本目の指が侵入してくる。
「う、あ」
「力、抜いてて。いいトコロ、探すから」
 どれくらい中を掻き回されただろう、孝介の指がある一点を掠めた時、自分の意思とは関係なく体が跳ねた。孝介は宝物を見つけた子供のような顔で笑う。
「見つけた」
く、とその長い指でしこりのような場所を押される。その度に面白いように体が跳ね、暴力的なほどの快感が陽介を襲った。前を扱く時とはまた違う、もっと剥き出しの神経を突かれたような強烈な刺激だ。孝介が口を放しても陽介自身は天を向いたままで、ふるふると震えながら先走りを零し続けている。
「ふ、あっ、やだ、何だ、よ、これ!」
「前立腺、の、裏。男でも気持ちよくなれる場所。よかった、見つかって」
「ひっ、あ、ああ、やめ」
孝介は場所を覚えるように、そして陽介に後ろが気持ちよいのだと刻み込むように、執拗に悦点を攻めた。幾度もローションを継ぎ足しながら、時間を掛けて中を解してゆく。陽介のものは今にも達しそうに膨張しているが、まだ後ろだけでは絶頂を迎えられない。それでも孝介は後ろを苛む手を緩めない。与え続けられる快楽に陽介はおかしくなってしまいそうだった。
「こう、すけ、も、やだ…!お願い」
「お願いって、何されるか分かってる?陽介」
揶揄するように囁かれても、陽介は早く解放されたい一心で無我夢中で頷く。いつの間にか三本になっていた指が引き抜かれたかと思うと、孝介は慣れた手付きで猛った自身に素早くコンドームを被せ、陽介の足を大きく割った。くちゃり、と己の後ろから粘着質な水音がして陽介は泣きたくなった。
 「挿入れるよ。息吐いて」
「んっ…」
指とは比べ物にならないほどの質量と熱を持った怒張が後孔にあてがわれる。言われた通りに必死に息を吐き、陽介は孝介を迎え入れた。みしり、と肉壁を軋ませながら男のものが割り入ってくる。体を割かれるような痛みに陽介は生理的な涙を零した。
「んー…!!」
やめて、と一言でも言えば、孝介は止めてくれる。その確信はあった。けれども痛みよりも彼と一つになりたいという気持の方が強くて、陽介は歯を食いしばって必死に悲鳴を堪える。孝介も苦しいのだろ、眉間に皺を寄せ、慎重に腰を動かしている。
「きつ…陽介、力抜いて」
「む、り!やっ、て、る!」
泣きながら返せば、孝介の手がすっかり萎えてしまった自身に回された。現金なことに、彼の大きな手で愛撫されればすぐに陽介のものは勢いを取り戻す。前に感覚が集中したのを見計らって、孝介は一息に肉棒を埋め込んだ。あまりの衝撃に陽介は声にならない悲鳴を上げる。
「――ッ!!!」
 まさに貫かれた、といった感じだ。血は出ていないようだが、体は雷に打たれたかのように動かない。声を失いただぽろぽろと泣く陽介の涙を舐め取り、孝介が申し訳なさそうに謝る。
「ごめん。一息に入れた方が楽かと思ったから」
「ん、な、ワケ、ねーだろう、がッ…!」
殴ってやろうと振り上げた拳を掴まれ、やけに恭しく手の甲に、指先にキスされる。腹の中に感じる孝介のものは熱くて硬くて、本当ならばすぐにでも動きたいだろうに、自分を想って我慢してくれているのが痛いほど伝わってきた。少しずつ衝撃が引いてゆき、陽介は恐る恐る後ろに力を込めて見た。「うっ」とくぐもった孝介の声が聞こえたのが可笑しかった。
「陽介…」
「…動いて、いーよ」
 返事の代わりに片足が持ち上げられ、ゆるゆると抜き差しが始まる。確かに、一度奥まで入ってしまえばそれ以上の痛みはなかった。もう片方の手で性器を扱かれ、更に凶暴な尖りの先端で先程見つけた感じる所を突かれて、陽介は思わず甘い声を漏らす。孝介の口角が釣り上がったのが見えた。
「ここ、だよね」
「あ、っ、ん、んあ!やぁ」
口から洩れるのは意味を成さない言葉ばかりで、それでも嬌声を殺すことができない。孝介と繋がった場所から、触れられた箇所から快感が這い上がってくる。結合部からはぐちょぐちょと卑猥な音が響き、やけに荒い互いの呼気が部屋に満ちてゆく。熱い。ふと顔を上げれば普段の涼やかさをかなぐり捨て、獣のように己を貪る孝介がいた。彼の肌には汗が玉のように浮かび、銀糸の髪が額や項に張り付いていた。その雄の姿に陽介はどうしようもなく欲情した。繋がっている。彼が自分で感じている。
(もう、なんだって、いい。こいつの傍にいられるなら、こいつに欲しがって、もらえるなら)
 「陽介…っ」
名前を呼ばれ、孝介の腰の動きが速くなる。同時に前を激しく責め立てられ、沸き起こる快楽に陽介は自分の体がどこかに吹き飛ばされてしまうのではないかという錯覚を覚えた。怖くなって手を伸ばせば、熱い掌に握り返され、広い背中に回される。結合がより深くなる。
「こ、すけ、あ、ああ――!」
「っ、あ」
ぐり、と悦点を抉りながら一番奥まで貫かれ、何かが爆ぜた。腹の中と外に熱さを感じながら、陽介は吊り橋からまっ逆さまに落ちるかのように意識を手放した。




 目が覚めると、辺りは完全な暗闇だった。いつもの癖で枕元にあるはずの携帯電話を探そうと手を伸ばした陽介は、しかし下肢を中心にはしった激痛に悲鳴を上げて動きを止める。
「いっ…!!!」
痛みと共に数時間前の記憶が一気に蘇り、陽介はまた悲鳴を上げた。声は無残に擦れていた。
(俺、ついに孝介と…!)
 騒ぎを聞き付けたのだろう、階段を上って来る足音がする。やがてカチャリ、とドアが開かれ、廊下の明かりを差し込ませながら孝介が顔を覗かせた。
「陽介、起きた?」
「………」
今は彼の顔を見ることができなくて、陽介は無言で布団の中に退避する。孝介は苦笑しながらこんもりと盛り上がった布団に近付き、布越しにそっと背中を撫でた。
「体、大丈夫?」
「……………腰とケツが死ぬほど痛い」
「だろうな」
案じてくれているのに無視する訳にも行かず、ちいさな声で返すと、孝介は腰を摩ってくれた。その手付きに数時間前までの情欲の気配はなく、あるのはただ慈愛だけだ。ふと気が付けば、汗と体液でどろどろだったはずの己の体は清められ、孝介の部屋着を着せられていた。全て彼がしてくれたのだ。
 陽介はのろのろと布団から顔を覗かせる。そこには暗闇の中でも分かるほどやさしい顔をした孝介がいた。
「ご飯、食べられる?」
「…ん」
彼の手を借りて上半身を起こすと、きゅう、とその逞しい胸に抱き寄せられた。孝介の匂いと体温に包まれ、幸福感が体に満ちてゆく。はぁ、と熱い息を吐いて孝介は囁いた。
「幸せ、だなぁ」
その言葉に偽りがないことは、彼の声色が、表情が、見るもの触れるもの全てが教えてくれた。幸せを交感したかのように陽介の心も温かくなる。
「…うん、俺も」
「ちゃんと、好きって伝わったかな。気持ち良かった?陽介、すごい可愛かった。今度はもっと気持ちよくするから、オレはまたしたい。もっとしたい」
「だから何で、性に対してそんなに大胆なのオマエ…」
 顔を見合せてくすくすと笑う。抱かれる前の悶々とした気持ちはどこかに行ってしまって、今はただ充足感があった。自分達が男同士であるが故に、この先幾度も悩み、互いの手を取ってしまったことを悔やむことがあるだろう。それでも今、この瞬間、彼の傍らにいられる権利を陽介は手放したくなかった。
(あ、願い事、叶った)
 キツネの絵馬に自分が書いた願い事。漠然とした内容だったが、きちんとご利益はあったらしい。今度は貰い物ではなく、お礼におあげを買って行こうと思いながら、陽介は目を閉じて降りてくる孝介の唇を受け止めた。




END

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