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どうしよう、しあわせの先が見えない・2

続きです。
陽介がかわいそうなめに遭ってますが最後はハッピーエンドですので!
このお話はお約束的要素満載をモットーに書いてますので、思わず失笑するような所もあると思いますがご勘弁ください(>_<)いや自分で書いてても結構恥ずかしいですから!

 

----------------------------------

孝介の様子がおかしい。
陽介はここ数日、自称他称「相棒」の言動に違和感を感じていた。目に見えておかしな言動を取るという訳ではないのだが、いつもなら相の手が入る所で入らなかったり、話しかけても上の空だったり、かと思えばじっとこちらを見ていたりする。それとなく尋ねてみても、「何でもない」と言われるだけで。
(俺にくらい話してくれてもいいんじゃねーの?)
河原で殴り合いという男同士の友情の最高峰まで上り詰めた仲なのに、頼ってくれないのは寂しい気がした。だが孝介の性格を考えると、自分の中でカタがつくまで触れてほしくはないことなのだろう。ならばせめて自分が傍にいることだけは伝えたくて、陽介は努めていつも通りに振る舞う。
「なぁ、今日テレビの中行かねぇ?」
「…悪い、今日はちょっと菜々子と約束してるんだ。明日は行こう。皆にも連絡しておくから」
「ん、そっか。菜々子ちゃんによろしくな!」
廊下から自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、陽介は「じゃな」と手を挙げると、親友に背を向けた。
孝介が鞄に荷物を詰めながらちらりと窺うと、名前は知らないが隣のクラスの男子生徒が陽介に何かを渡しているのが見えた。途端、黒い靄が胸の内に生まれる。
(誰だアイツ)
背中を向けているため、陽介の表情は見えない。彼はどんな表情で自分以外の男と話すのだろうか――そう考えただけで苛立つ。今すぐ二人の間に割り込んでやりたくなる。深く息を吸い込むことでその大人げない衝動をなんとか流し、孝介は足早に教室を出た。
受け取ったものを見た陽介の顔が青ざめているのに気付かずに。



**********



数時間後、鮫川河川敷の上手にある雑木林の中に陽介はいた。
夕日の朱が稲羽の町を銅色に染め上げている。あと数十分もしないうちに太陽は稜線の向こうに沈み、夜の帳が訪れるだろう。ただでさえ人口の少ない町だ、そうなればこの辺りは完璧な闇に包まれる。巣に帰る途中なのか、忙しないカラスの鳴き声が頭上をいくつも過ぎていった。
辺りには不法投棄だろう、夥しい量のゴミの山が築かれている。中には大型テレビや冷蔵庫など、修理すればまだまだ使えそうなものがいくつもあった。
(もったいねーな)
「余所見とは余裕だなぁ、ああ?!」
陽介は一人ではなかった。彼を囲むように、見るからに柄の悪い男たちが十名弱ほど立っていた。大きなマスクで口元を覆ったり、サングラスをかけたりしているのは、顔を隠しているつもりなのだろう。定番すぎる不良スタイルに失笑を隠せない。
体格から判断するに殆どが高校生のようであり、自分と同じ八十神高校の制服の者もいる。自分が嫌われている証拠を改めて突き付けられたようで、胸がつきりと傷んだ。
「ムカツクんだよ!いっつもチャラチャラしやがって、そんなに都会が恋しいならとっとと帰れよ!お前がいなくなれば皆喜ぶぜ!うぜえ奴がいなくなったってなぁ」
「大体さぁ、いっつも女と一緒にいて、かばってもらって恥ずかしくねーの?実はオンナノコなんじゃねーか?」
「知ってるか?こいつ月森のこと「相棒」って呼んでるんだってさ!バッカじゃねーの、引かれてるのにも気付かないで一人で舞い上がって親友気取りかよ!俺、月森に同情するわ」
ギャハハハ、という下卑た声が一斉に上がる。正直、頭にはかなり血が上っていたが、この手の輩の対処には悲しいかな慣れている。こちらが何を言っても増長するだけだ。陽介は手をきつく握りしめて耐えた。
彼らは陽介自身が憎いのではない。閉塞的な田舎町の中で募らせた自己顕示欲、鬱積、苛立ち――それら負の感情ををタイミングよく現れたジュネスに、陽介に転嫁し、捌け口としているだけだ。本人達はそれすら理解していないだろうが。
「これ、なーんだ?」
陽介の前に進み出た一人の男は、卑しい笑みを浮かべながら一枚の写真を取り出した。画質は粗いが、そこには鮫川の河川敷で、内面の凝りを涙と共に吐き出した陽介を抱きしめる孝介の姿が写されていた。やましいことなど何ひとつないが、まずい奴らに見られたというのは理解できる。陽介の反応が面白くなかったのか、男たちは口々に揶揄を始めた。
「ホモかよ!気持ち悪ィ、近寄んな!」
「どうせお前が月森をたぶらかしたんだろ?あいつ、やさしいって女達が騒いでるもんな」
「お優しい月森先生に抱いてって頼んだのか?月森に近付いた奴は皆食われるって噂、本当だったんだ。じゃあ天城も里中もみーんなヤられてるのかよ。優等生って特だよなぁ、何してもお咎めなしなんだから」
「………いい加減に、しろ」
自分だけならともかく、千枝や雪子、何より、孝介のことを馬鹿にされ、ついに陽介は声を出した。けれども男たちは口を閉じるどころか益々中傷をエスカレートさせてゆく。
「――っ、いい加減に、しろって言ってんだよ!!!」
陽介の本気の怒鳴り声に、一番近くにいた男は一歩後ずさった。シャドウに向けるのと等しい殺気を放ち、陽介は男達をねめつける。
「俺に恨みがあるなら、俺だけに当たればいいだろ!里中も天城も、月森も関係ねぇ。あいつらはダチだ。お前らみたいにつるまないとションベンもいけないようなガキとは違うんだよ!!」
「んだとぉ…!」
自分よりもひとまわり大きい体格の男の拳を、陽介は風のような素早さで軽々とかわす。一人の動きを皮切りに、不良たちは雄叫びをあげながら次々に襲いかかってきた。どれもシャドウの動きに比べれば鈍重だが、武器やペルソナの使用はできず多勢に無勢である。なんとか逃げ出す隙を探しながら、陽介は攻撃を避け続けた。
(っていうか、なんでここに来ちまったんだろ、俺)
隣のクラスの男が持ってきたのは、手紙だった。彼自身名前も知らない三年生に、陽介に渡すよう言われたのだと言う。その中身には先程見せられたのと同じ写真と、謂れのない誹謗中傷、そしてお約束的な呼び出しだった。
自分にやましいところは何一つない。だから無視しても構わなかったのだ。だが、このまま放っておけば遅かれ早かれ仲間達にも迷惑がかるだろうし、何より、もしかしたら話し合いで解決できるかもしれないと淡い幻想を抱いていた。弱さを認め、孝介に認めてもらえた今の自分なら、自分を取り巻く蟠りを少しでもいい方向へ持って行けるような気がしたから。だが結果はこれである。
(馬鹿みてぇ、何思いあがってたんだか)
自嘲の笑みを嘲り取ったのだろう、一人の男が鉄パイプを振りかざして突っ込んできた。
「ちょ、武器までアリかよ!?」
拳ならまだしも、鉄パイプでは当たり所が悪ければ命に係る。自分に何かあれば、ジュネスと親の立場は益々苦しくなるだろう。陽介は本気で逃げにかかった。体術の心得などないが、千枝の真似をして男の股間を蹴り上げ、転倒させる。巻き込まれて数名が動きを止めたその隙に、全力で走りなんとか包囲を抜け出した。
「待ちやがれッ!」
「誰が待つかよ!…っと、お!?」
陽介の進行方向に、いつの間にか白い薄汚れた子犬がいた。危機管理能力が薄いのか、全く状況を把握していないようで、人懐っこい目で陽介を見上げている。野良犬に構っている場合ではないと陽介はその横をすり抜けたが、嗜虐的な不良達はそうではなかったようで、何人かがわざわざ足を止めて子犬に暴行を加えて始めた。まるで毬か何かのように、足で蹴り上げる踏みつける。キャンキャン、という痛ましい悲鳴が暗くなり始めた辺りに響いた。
(くそっ…!)
あの悲痛な声を無視すれば逃げ切れる。だが、弱きものを見捨てて逃げた自分が許せなくなりそうで、須臾の逡巡の後、陽介は踵を返した。だが、陽介よりも早く動いた者がいた。
「――やめてよ!その子を放して!!」
見れば数名の小学生が、震えながらも果敢にも不良達に立ち向かっていた。手にパンやお菓子を持っているところを見ると、大方、あの子達がここであの子犬を飼っていたのだろう。しかし不良達はにやにやと笑うだけで、子犬を蹴ることを止めない。
「ん?聞こえねぇな」
「や、やめてよ…!かわいそうじゃない、死んじゃう!!」
八十神高校の制服を着た男が、厳つく重い靴の底を容赦なく小さな体の上に落とした。犬は既に鳴く体力もないのだろう、ぐったりとしたまま微動だにしない。
「弱い奴は何されたって仕方ねぇんだよ!お前らもこうなりたくなかったらとっととどっかに――」
「――行くのはお前の方だっての!!!」
持ち前の瞬発力で、一瞬にして間を詰めた陽介は、渾身の力を込めた拳を男の頬にお見舞いした。人を殴り慣れていない拳が痛んだが、すぐに意識を切り替え子犬を抱えあげる。その体は温かく、満身創痍だがまだ生きていた。思わず安堵の息を吐いたが、わざわざ包囲網の中に戻ってきた陽介を男達が見逃してくれるはずもなく。
「…逃げろ!」
小学生達を逃がし、子犬を抱えたまま、陽介はひたすら攻撃を避け続けた。いつの間にか相手はほぼ全員が何らかの武器――木の棒やら鉄パイプやら――を構えており、暴力の結果を考えずに陽介を殴りつける。
「っ!!!!」
ガン、と右肩から背中にかけて衝撃が走った。脳天にまで刺激が響き、膝を着くのは何とか堪えたものの、よろけてしまう。その隙を逃さず、今度は正面からの打撃が来た。咄嗟に右腕でガードしたものの、今度は完全に姿勢を崩し、陽介は後に倒れこんだ。双方にとって誤算だったのは、そこに投棄された大型テレビがあったことだ。
「うわっ…!?」
ディスプレイに頭や体を打ち付けることはなく、するり、と、陽介の体は画面に吸い込まれる。左腕に温もりを抱えたまま、彼は深い深い闇の底へと落ちていった。



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